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「新型コロナ」と「金正恩の死」が招き寄せる「中国中心の新世界秩序」の悪夢=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
「金正恩死亡説」はなぜ世界を騒がせたのか
北朝鮮の金正恩氏の健康状態に関連する報道がメディアを賑わせています。
4月24日の時点で、金正恩氏に関して、中国語メディアが報じている情報は以下のような内容です。
――金正恩氏が平壌郊外を視察している最中に突然、心筋梗塞で倒れ北朝鮮側から急遽中国に連絡。中国医学院の国立循環器病センターと人民解放軍病院から50人近い医療チームが平壌に派遣された。医療チームが来るのを待つ間、北朝鮮の外科医が緊急の心臓手術を行ったが、金正恩はいわゆる「植物人間」状態になってしまった。中国からの医師チームは到着しているものの、結果的になす術がなかった。
さて、3月10日に世界で一番早く新型コロナ終息宣言を発表した中国は、この機に「一帯一路」構想を推進すべく、イタリアやスペインなどのヨーロッパや、東南アジアに戦略的投資を開始しています。
中国共産党系の英字紙グローバル・タイムズは3月中旬、習近平国家主席が掲げる「一帯一路」構想は「新型コロナの感染拡大によって変わることはない」とし、「大幅な調整」も必要ないと強調しました。
そして中国は新型コロナのパンデミックが現実のものとなっても、カンボジアとはダム事業、ミャンマーとは工業団地の開発、ラオスとは太陽光発電事業の建設協力などで合意しました。
このままですと、世界は急変し、パンデミックが終息する頃には違う姿になっている可能性が大です。
アフターコロナの世界で存在感を強める中国
世界的に投資の流入は縮小し、中国は他国へ投資可能な資本を持つ数少ない国の一つとして存在感をより強めることになるでしょう。
東南アジアに関しては、新型コロナの感染拡大が沈静化したとしても、東南アジア諸国の中には経済成長の更なる鈍化が懸念される国もあり、中国からの新規の融資や投資を断るのは難しい状況に陥りそうです。
東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局のデータでは2018年の外国からのASEANへの直接投資のうち欧州連合(EU)は14.2%、日本は13.7%、中国と香港はそれぞれ6.6%でした。
ですが、日本や欧米などは新型コロナ禍で自国の経済対策にかなりの資金が必要で、ASEANへ投資する余裕がなくなる可能性が高いです。結果的に東南アジアの多くの国は資金面で中国への依存度を高めることになるかも知れません。
つまり、新型コロナの感染拡大が中国に世界の新秩序を形成する機会を与えかねないのです。
話を朝鮮半島に戻しますが、南北朝鮮の統一は北朝鮮が政治的主導権を握っている中、大韓民国は直近の選挙で南北統一推進派の与党文在寅大統領が政権を維持しました。
もし北朝鮮の金正恩氏の死亡説が事実であるとすると、地政学的には中国が北朝鮮を取り込み、更に大韓民国までも中国の手中に収めようとする動きに出ることが考えられます。
現在、新型コロナウイルス感染で米国のアジア太平洋地区の防衛能力がかなり落ち込んだ状態が続いています。実際に、空母ロナルドレーガンもルーズベルトもコロナ感染で稼働できない状態です。
可能性はとても低いと思いますが、もし万が一中国が今軍事行動に出たとしたら、中国はかなり優勢にアジアを掌握することができる筈だです。その場合、考えられる第1手は恐らく台湾の奪回です。
新型コロナウイルスの影響で米中関係や世界のパワーバランスが大きく変動するのは間違いなさそうです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。