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経済・企業 コロナデフレの恐怖

激変する産業地図 鉄鋼 迫られる高炉3社再編=細川良一

日本の鉄鋼産業にのしかかるコロナと中国の鉄鋼増産(上海の港で出荷を待つ中国産の鋼材)(Bloomberg)
日本の鉄鋼産業にのしかかるコロナと中国の鉄鋼増産(上海の港で出荷を待つ中国産の鋼材)(Bloomberg)

 純損失4261億円。鉄鋼最大手の日本製鉄は2020年3月期決算で過去最大となる最終赤字を計上した。2位のJFEホールディングスは1977億円、3位の神戸製鋼所は680億円の赤字に沈み、鉄鋼大手は総崩れの状態だ。

 この赤字は新型コロナウイルスの影響によるものではない。設備の老朽化、中国の鉄鋼メーカーによる増産という数年来の懸案が一気に噴出し、巨額の減損損失が発生したものだ。仮に減損がなくとも3社は利益を出せていない。

 通常、減損処理でうみを出し切った翌期の業績は「V字回復」する。しかし21年3月期も鉄鋼大手の苦戦は必至だ。日鉄の橋本英二社長は5月8日、決算説明会で「上期も赤字が避けられない」と危機感をあらわにした。

 さらに橋本社長は衝撃的な見通しを明らかにする。「仮にコロナが上期中に収束しても、今年度の日本の粗鋼生産は8000万トンに達しないかもしれない」。

 昨年度、日本の粗鋼生産は10年ぶりに1億トンを割り、9843万トンへ減った。ここからさらに20%減る可能性を示したのだ。

中国の鉄鋼はV字回復

(出所)ワールドスチールの資料を基に筆者作成
(出所)ワールドスチールの資料を基に筆者作成

 これに対し、新型コロナの発生地となった中国では経済活動が戻り、鉄鋼生産も急回復している。4月の粗鋼生産は8503万トンと前年並みだった。5月は全国人民代表大会(全人代=国会)での景気対策を見込んで増産に拍車がかかり、過去最高を記録する可能性がある。1カ月で日本の1年分の鉄を作る勢いだ(図)。

 中国の増産は日本の鉄鋼大手に二重の打撃となる。一つは「中国の高水準の鉄鋼生産及び輸出数量の増加が、市況の悪化につながる」(日本鉄鋼連盟の北野嘉久会長、JFEスチール社長)という販売への影響だ。

 もう一つは中国の鉄鉱石「爆買い」で、国際価格は現にコロナ前に1トン=80ドルだった鉄鉱石の相場は、コロナ後に100ドルへと値上がりしている。

 日鉄、JFE、神鋼の3社は高炉で鉄鉱石を溶かし、純度の高い鋼材を製造できるのが強みだ。

 しかし減産をしても鉄鉱石のコストは「逆行高」となり、高品質な鋼材の販売先となる自動車や造船、工作機械などはコロナ禍で需要が落ち込む。新日鉄と住友金属の統合、そして日新製鋼の吸収合併を経て日本の高炉メーカーは3社へ集約されたものの、それでも成り立つ構造でないのが現実だ。

 コロナ危機前、日鉄は瀬戸内製鉄所呉地区(旧日新製鋼)の閉鎖、JFEは東日本製鉄所京浜地区での高炉休止を決め、身を切る改革に動き出した。しかしコロナショックで情勢は一段と悪化し、日鉄の橋本社長は「需要動向によっては追加で休止せざるを得ない設備も出てくる」と指摘。JFEホールディングスの寺畑雅史副社長も「グループ発足以来、最大の危機」とし、全ての政策保有株を原則売却する方針を表明した。

 もはや個社で実行できる合理化や資産圧縮にも限界がある。会社の枠組みを超えた提携や再編を通じ、競争力のある製鉄所に注文や投資を集中させなければ、日本から高炉は消える一方だろう。共倒れを避けるため、3社に残された時間は多くない。

(細川良一・ジャーナリスト)

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