コロナ後の世界では20代の約4割が「地方で就職」する=市川明代
コロナショックは就活学生にも大きな影響を及ぼしているが、インターネットを自在に使う今どきの学生はむしろ大企業変調、都市部の人気集中という日本にこびりついた企業観を吹き飛ばす柔軟性を持っているようだ。 <コロナデフレの恐怖>
就職情報大手のリクルートキャリアによると、2021年卒の大学生の5月1日時点の内定率は45・7%で、前年同期比5・7ポイントの減となった。マスコミ各社のアンケートでは、3割近い企業が採用数を20年度実績(見込み)より減らすと回答している。
昨年11月から就職活動を開始したという北海道内の水産学部系の大学に通う女子学生(22)は「3~4月は完全にストップした。ゴールデンウイーク明けからオンライン面接を受け始めたが、『採用活動の再開は9月になる』『最終面接だけは対面で実施したいので少し待ってほしい』という企業もある。あまり遅くなると卒論や教育実習の時期とぶつかってしまう」と焦りを募らせる。
一方で、「あらゆる企業が軒並み採用数を減らしたリーマンショックの時とは明らかに違う」というのは、大学生の就職事情に詳しい常見陽平・千葉商科大学国際教養学部准教授だ。「深刻さばかり報じられているが、採用を維持する企業も決して少なくはないという点に注目すべきだ」という。
女子学生も当初、レストランや居酒屋に食材を卸している業務用食品会社を第一志望にしていたが、コロナによって業績が悪化しているのを見て、スーパーの売り上げアップに伴って採用を増やす家庭用食品メーカーに切り替えたという。
コロナは就職に対する若者たちの志向にも変化をもたらしている。就職情報サイト「学情」によると、20代の36・1%が「U・Iターンや地方への転職」を希望すると回答。2月の同21・8%と比較し14・3ポイント増加した。
「コロナで就職に対する意識が変わった」というのは、都内の大学から地方企業への就職を決めた星野谷尚樹さん(21)だ。2年の秋から活動を開始し、大手から中小までさまざまな企業を見てきた星野谷さんは、優秀な学生が、大企業ではなくベンチャーや中小企業に集まっていることに気付いた。コロナ禍でも積極採用を続けるITベンチャーを中心にオンライン面接を受け、いくつかは最終選考まで進み、内定も得た。
オンラインの就職活動では、北海道や九州の学生と同じテーブルに着いた。「東京と地方の格差が縮まると実感した」。そうした中、就職支援企業から個別に紹介されたのが、静岡県三島市の加和太建設だった。家業を引き継いだ40代のリクルート出身、河田亮一社長(43)が経営の多角化や海外進出によって売り上げを3倍以上に伸ばしていた。将来の起業の夢を語ると、事業のIT化を担う新設部署への配属を約束してくれた。「ここならきっと、自分自身が成長できる」。大型連休が明けてすぐに、河田社長に就職の意思を伝えた。
星野谷さんは「『密集』がリスクになる中、情報が集中する東京にこだわる必要はまったくない。これからは学生も企業も、選択肢が広がると思う」と話す。
地方の企業にとっても、オンラインによる就職活動の広がりはチャンスになる。加和太建設の河田社長は「オンラインツールによって、今まで出会えなかった地域や層の学生と縁ができた。会社が目指す『世界が注目する元気なまち』をつくるために、これからも新たなツールを活用しながら、多様な人材を獲得していきたい」と話している。(市川明代・編集部)