コロナ失業「2020年末に100万人」の衝撃=矢嶋康次(ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)
5月25日、全ての都道府県で緊急事態宣言が解除された。今後は、感染の再拡大の防止と社会・経済活動再開の両立を目指す。
しかし、道のりは険しい。これまでの外出自粛などの影響により、国内の最終家計消費支出は少なくとも約15兆円が消失したと推計される。これは国内総生産(GDP)比でマイナス2・8%に相当する。そして、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、飲食店などでは入場規制や座席数の削減といった感染防止策が必要でフル稼働は難しい。消費マインドも冷え込んでおり、長期停滞は不可避だ。
そういった状況を踏まえ当社は、GDPがコロナ禍以前の水準に戻るのは2022年度以降になると見込んでいる。20年度の実質GDPはマイナス5%を超え、年末には100万人を超える失業者が新たに発生するとも予想している。
全国で緊急事態宣言が解除されたことで、事態は経済を停止させ感染防止を優先する「フェーズⅠ」から、感染防止と経済活動の両立を目指す「フェーズⅡ」へ移行した。この先、ワクチンが開発され、治療法が確立すれば、正常化の「フェーズⅢ」に移行することができる。
現状はウイルスとの共存を図りながら、ワクチン開発や治療法確立まで時間を稼ぐ必要がある。このまま「フェーズⅢ」への移行が理想的だが、感染再拡大の可能性もある。こうなると、「フェーズⅠ」へと逆戻りする可能性もあり、先行きは不透明だ。
累積債務のジレンマ
政府は、家計・企業・金融市場に対して時間的猶予を作る政策を打ち出している。第2次補正予算では、事業者に対する家賃補助、雇用調整助成金の拡充、企業に対する劣後ローンや優先株による資本注入などが盛り込まれた。短期戦から長期戦に向けて戦略を変えつつあるが、政策のスピード感はまだ足りない。
感染防止対策や経済対策を十分な規模で実施していくことが肝要であり、財政支出拡大はやむを得ない。しかし、当然、1000兆円を超える巨額の累積債務を抱える財政問題を抱えているだけに、将来的に危機的状況に追い込まれる可能性はある。ジレンマを抱えながらの政策だ。
また、今回の危機では日本のデジタル化が諸外国に比べて後れを取っていることが明らかになった。民間企業は、生き残りをかけてデジタル化を急ピッチで進めるだろう。例年6月は「骨太の方針」が打ち出される時期でもある。コロナ関連の対応を理由に、デジタル推進が先送りされるようなことは許されない。行政は民間に後れを取ることなく、デジタル化を早急に進める必要がある。
(矢嶋康次・ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)
(本誌初出 緊急事態宣言解除 失業は年末100万人も GDP回復22年度以降=矢嶋康次 2020/6/9)