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経済・企業コロナ危機の経済学

アフターコロナの新しい世界を議論する「ポストコロナ構想会議」の設置が急務だ=竹中平蔵

竹名平蔵氏(東洋大学教授、慶応義塾大学名誉教授)
竹名平蔵氏(東洋大学教授、慶応義塾大学名誉教授)

 未曽有の危機は日本の経済社会に何をもたらし、今後どうなるのか。政府の対応は適切か。小泉政権で経済財政担当相を務めた竹中平蔵氏に聞いた。

── 世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。

■パンデミック(世界的大流行)は、これまでの人類の歴史の中で何度もあった。パンデミックが終わった後は、必ず別の世界が来る。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の後はネット通販が一気に伸び、その数年後に中国のアリババが、世界最大のEコマース(電子商取引)企業の米イーベイを追い抜いた。1918年に発生したスペイン風邪では欧州で被害が大きく、米国のGDP(国内総生産)が欧州全体を追い越し、その後米国経済が世界の中心になった。

── コロナショックは、何をもたらしたか。

■危機は社会が持つ強さと弱さが一気に露呈する。日本は新型コロナによる死者の割合が低いが、遠隔診療や遠隔教育ができない。在宅勤務もあわててやっている状況だ。デジタル化とそれに伴う規制緩和が徹底的に遅れていた。

批判覚悟でやりきれ

── 変化に対応するには何が必要か。

■「ポストコロナ構想会議」が必要だと思う。11年の東日本大震災後に、政府は復興構想会議を設置し、提言をまとめた。今は目の前のことで精いっぱいかもしれない。しかし構想を持ち、将来を見据えながら今の政策を決めないといけない。

 今は医療現場が大変だ。もともと日本は医者の数が少ない。人口に対する医師数をみると、ドイツやノルウェーの半分だ。既得権益者たちが新しい医学部を作らせなかったからだ。遠隔診療についても医師会が長く反対してきた。厚生労働省もリーダーシップを発揮してこなかった。目の前の利害調整しか、してこなかったのではないか。

── 政府内に司令塔が、不在という印象がある。

■政府全体が面となって政策を議論する仕組みになっていない。安倍晋三首相や菅義偉官房長官の頑張りは評価すべきだ。しかし、後のところは縦割りで、各省がこれまで実施してきた政策を少し広げて持ってくるだけだ。官僚の言うことを信用しているだけではだめだ。(郵政民営化担当相などを務めた)小泉内閣では首相の後押しも大きかった。世論から批判を受けるかもしれないが、自分が「辞めてもいいからやりきる」という思いを持って、進めていかないと達成できない。

── 政府は全国民への一律10万円の現金給付を実施する。

■これまでの現金給付は、消費刺激効果がなかったと言われるが間違いだ。これは景気刺激策ではなく、生活救済策だ。10万円の給付はうれしいが、1回では将来への不安も残るだろう。例えば、月に5万円を国民全員に差し上げたらどうか。その代わりマイナンバー取得を義務付け、所得が一定以上の人には後で返してもらう。これはベーシックインカム(最低所得保障)といえる。実現すれば、生活保護や年金給付が必要なくなる。年金を今まで積み立てた人はどうなるのかという問題が残るが、後で考えればいい。

財政出動で危機防げ

── 今後は、どのような政策が必要か。

■優良企業でも突然死してしまう可能性があるので、徹底して資金繰りを支えることが必要だ。資金繰り支援は相当大きなスケールで実施しないといけない。商工中金や信用保証協会を通じたこれまでの形ではとても追いつかない。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は早い段階で約250兆円の資金を用意し、社債の買い入れをすると発表した。中央銀行がやらないといけないことだ。日銀は関東大震災の時に震災手形を引き受け、その後の金融危機を招いた苦い経験がある。日銀はモラルハザードを起こさないようにして、十分な資金を供給することが必要だ。

── リーマン・ショックとコロナショックは、何が違うのか。

■リーマン・ショックは金融機関という点が悪くなり、それが全体に広がった。今回のコロナショックは全体が先に悪くなった。その結果、金融機関が悪くなる。そして、また全体に広がる。2段階の危機の可能性がある。ここで塞がないといけない。金融は持ちこたえているが、大手金融機関が破綻すれば、第2のリーマン・ショックが起こる。それに備えないといけない。

── 財政再建が遠のいたとの見方もある。

■日本は財政赤字を増やしたが、円安になっておらず、株価はそんなには下がっていない。このことは日本の財政に関し、当面深刻な問題はないということが証明された。ただ、中期的な問題として残る。とにかく今は経済を崩さないように、財政資金を惜しまず、経済を支えることで、第2のリーマン・ショックを防がないといけない。

労働の対価は成果で

── 多くの労働者が在宅勤務を余儀なくされている。

■今の労働の枠組みは、労働の対価は時間で測られるが、成果で測られるよう変えないといけない。例えば家族の世話をしている時は仕事から離れても、別の時間で成果を出せばいい。時間で縛られたら在宅勤務はできない。成果で評価することに対し、2年前の法改正時に、世論は「残業代ゼロ」だとレッテルを貼った。考えを変えないと、在宅勤務は定着しない。

── 休校の長期化に伴い、9月入学について議論が始まった。

■私は賛成だ。ただ、9月入学をやるだけでは意味がない。9月入学と同時に、いざという時に備え遠隔教育ができるシステムを整備することが必要だ。

 安倍内閣はインバウンド(訪日客)や東京オリンピック・パラリンピックが大きな成果と期待されてきた。残念ながらコロナで揺らいでいる。それならば9月入学の成果、教育改革を安倍内閣のレガシー(遺産)にすればいい。ただ遠隔教育では、タブレット端末があるか、通信速度の違いなどで、格差が拡大する可能性がある。格差を縮小するための対策を取る必要はある。

── 新型コロナの影響はいつまで続くと思うか。

■影響がいつまで続くかはわからない。レムデシビルやアビガンといった治療薬がどれくらい効くのかと関連してくるだろう。ただ、今までの経験から言って、半年では収まらない。

 もう、コロナ前に戻ることはできない。日本はデジタル化などが非常に遅れていたが、今がそれを挽回するチャンスといえる。

(本誌初出 インタビュー 竹中平蔵 「教育や医療、規制緩和の議論を、デジタル化の遅れ挽回する好機」6/2)

(竹中平蔵・東洋大教授、慶応義塾大名誉教授)

(聞き手=浜條元保/神崎修一・編集部)


 ■人物略歴

たけなか・へいぞう

 1951年生まれ。一橋大卒。ハーバード大客員准教授などを経て、2001〜06年の小泉政権で経済財政担当相などを歴任。16年から現職。博士(経済学)。

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