新型コロナは「人類の団結」への挑戦状だ=ジャレド・ダイアモンド
専制主義や独裁主義といった体制が、感染症のパンデミック(世界的流行)を抑制するうえで有効に働いたとは考えていない。独裁主義の利点として挙げられるのは、国民の合意を待たずに物事を決定できるため、行動が素早い、という点だ。
確かに、独裁主義国家は民主主義国家に比べて行動を素早く決定できる。しかし、中央政権が生まれてからの人類の歴史5000年を振り返っても、独裁主義が良い政策だけに素早い対応を取り、悪い政策に対してはそうではなかった、と検証することはできない。
中国は(改革解放後の)40年間も独裁主義を維持しながら素早い決断を行ってきた。中には良い例もあるが、ひどい例もたくさんある。新型コロナウイルスへの中国の対応は、独裁政権が素早い対応を行ったことの好例ではあるが、悪い例でもある。昨年12月に同ウイルスが中国で最初に報告された時、政府は沈黙を守り、国民がこの感染症の知識を得ることを拒んだ。その結果、中国においては、人々はそれに抗議し、政府が望まないことを言い出せなかったため、今回の危機に対応するのに1カ月以上の時間を失うことになった。
民主主義も機能
初動に失敗した後、中国独裁政権はロックダウン(都市封鎖)という良い政策に切り替えた。しかしロックダウンを実施するのに独裁政権である必要はない。スペイン、イタリア、オーストラリア、そして私が住む米ロサンゼルス、私の州であるカリフォルニアなどは、民主主義政権の下でロックダウンを行っている。
その一方で、トランプ米大統領はコロナ危機を否定し続け、民主主義国家である米国では何百万人もの人々が大統領に対する不信感や反対を自由に表現している。その中にはロサンゼルス市長、カリフォルニア州知事なども含まれ、彼らは独自にウイルスとの戦いを指導している。
新型コロナウイルスは長期的にはどんな影響を及ぼすだろうか。短期的には、ワクチンが開発され、経済が再開されるまでの時間との勝負と言える。長期的な影響として私が望むのは、世界的に広がった問題に対し、いかに世界的な解決策で臨むのかのモデルになるということだ。
気候変動のような問題に対し、世界は現時点で効果的な解決策を模索しているとは言えない。しかし、新型コロナウイルスは世界中に感染者を広げ、死者を出している。世界が集結して解決策を目指す途上にある問題と言えるだろう。
新型コロナウイルスが気候変動のような世界で取り組むべき問題に、世界が団結して立ち向かうモデルとなることを私は期待している。
(ジャレド・ダイアモンド、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)地理学教授)
(本誌初出 世界的課題への対処 コロナ禍は団結の試金石 独裁主義は有効ではない=ジャレド・ダイアモンド 5/26)
(協力=土方細秩子・ジャーナリスト)
■人物略歴
ジャレド・ダイアモンド
1937年米ボストン生まれ。生理学者、進化生物学者、生物物理学者。98年、著書『銃・病原菌・鉄』(草思社刊)でピュリツァー賞(ノンフィクション部門)受賞。近著に『危機と人類』。82歳。