経済・企業コロナ首都封鎖で沈む・浮かぶ企業

コロナが突きつけた「資本主義の限界」を人類は乗り越えられるのか=水野和夫(法政大教授)

    「金融緩和によるバブル頼みの経済成長が持続不可能なことを疫病が知らしめた」、とバブル研究の第一人者が説く。

    「バブルを起こすことでしか、景気の拡大や雇用を維持できないことを改めて全世界に見せつけた」

     猛威を振るう新型コロナウイルスに対する、バブル研究家の水野和夫法政大学教授の率直な感想だ。さらにこう続ける。

    「1980年以降は、バブルの生成と崩壊の繰り返し。しかも、規模は年を追うごとに大きくなり、ショックが起きた後の実体経済への悪影響が格段に増している」

    グリーンスパンの罪

     中国武漢を震源地とする新型コロナショックが襲った今回のバブルの始まりは、どこか。

    「2008年のリーマン・ショック後に日米欧の主要国が実施した大規模な金融緩和と中国による4兆元(当時のレートで約57兆円)の財政政策だ。『100年に1度』と喧伝(けんでん)された危機に、主要7カ国(G7)に中国やロシアなどの新興国を加えた20カ国・地域(G20)が金融と財政政策をフル稼働させて対応した。世界経済の底割れは回避したものの、米国を除きリーマン・ショック以降、10年以上も大規模な金融緩和を続けた結果、リーマン・ショック前よりもさらに大きなバブルを作り、新型コロナがその崩壊の引き金を引いた」

     リーマン・ショックも元をただせば、01年のITバブル崩壊後の米国の金融緩和(利下げ)にたどりつく。

    「90年代後半から始まったインターネット関連企業に対する過剰な期待がもたらしたのが、ITバブルだった。それが幻想に過ぎないと気づいた時点で、バブルが崩壊した。このバブル崩壊で大きく落ち込んだ米国経済に強力な金融緩和のカンフル剤を打ち込んだのが、当時のグリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長だった。政策金利を6・5%から段階的に引き下げ、03年には当時の史上最低の1%とした」

     02年の米ジャクソンホール会議(経済政策シンポジウム)での公演で、グリーンスパン氏は「バブルは崩壊するまでわからないので、バブルの膨張を予防することは難しい。したがって、金融政策はバブル崩壊後の事後処理に注力すべきだ」と語った。

    「ITバブル後のFRBの大胆な金融緩和で、持ち直した米国経済では04年6月から政策金利を段階的に引き上げて、金融の正常化を目指した。それにもかかわらず、長期金利が上昇しないという現象が起きた。これをグリーンスパン氏はコナンドラム(謎)と呼んだ。その真相は中国や日本、中東産油国といった経常黒字国のマネーが米国の10年債に流れ込んでいたためだ。世界的なインバランス(不均衡)が起きていたのである。

     その結果、米国の住宅価格が異常な上昇をみせ、バブルを引き起こした。米リーマン・ブラザーズの破綻に伴う巨大な信用バブル崩壊は米国にとどまらず、米国の住宅ローン担保証券(MBS)に投資していた欧州の金融機関へも飛び火した。米国の住宅バブルとは無縁だったはずの日本が、欧米経済の急激な落ち込みで、もっとも実質GDP(国内総生産)が落ち込んだのは皮肉としかいいようがない」

     グリーンスパン氏は、米国がITバブルに向かう前の96年12月、株価の異様な上昇に対して、「根拠なき熱狂」と警鐘を鳴らした。バブルの発生には、注意を払っていたのではないか。

    「FRBはじめ主要国の中央銀行には、宴たけなわとなるパーティーでパンチボール(パーティーのお酒)を取り上げる役割があるとされてきた。お酒を飲み過ぎないようにする、つまり、金融緩和が行き過ぎてバブルになるのを未然に防ぐ役割だ。グリーンスパン氏も当初は、そうしたセントラルバンカーとしての矜持(きょうじ)を持っていたのかもしれないが、ITバブル後は『バブルは潰れるまでわからないから、崩壊後の事後処理に注力すればいい』と宗旨変えしてしまった。この考えは後任のバーナンキ元FRB議長にも引き継がれた。グリーンスパン氏の罪は重い」

    過去最大の落ち込み

    (注)株域時価総額は上場企業と未上場企業の合計 (出所)内閣府「国民経済計算年次推計」、東証「統計月報」
    (注)株域時価総額は上場企業と未上場企業の合計 (出所)内閣府「国民経済計算年次推計」、東証「統計月報」

     バブルかどうかの見極めは、どうすればいいか。

    「株式時価総額の対GDP比が一つの参考になる。株式時価総額は金融資産である株式(企業)の価値であり、将来への期待を示す。これに対してGDPは実体経済の規模を示す指標だ。つまり、実体経済に対する企業価値(金融資産)の割合を示す。これを過去にさかのぼると70年代までは0・5倍程度で安定していた。ところが、80年代に入ると上昇し始め、89年には2倍を超えた(図)。日本の不動産・株式バブルの絶頂期だ」

     日本のバブルの生成と崩壊の原因は何か。

    「行き過ぎた金融緩和だ。85年にドル高を是正するプラザ合意があり、日本は円高対策として日銀が低金利政策を余儀なくされた。同時に米国の日本に対する内需拡大の要請も重なって、異常な地価と株価の高騰をもたらした」

     コロナショックは、過去のバブルと比較してどうか。

    「85年から19年の株式時価総額の平均対GDP比は1・06倍。上限の1・43倍から下限の0・70倍の範囲に収まる。逆に89年の日本のバブルと08年のリーマン・ショック前、そしてコロナショック前に上限の1・43倍を超えている。3月19日時点で1・09倍と平均値に近づいているが、過去の大きなバブル崩壊では下限の0・70倍を突き抜けてボトムを付けている。世界的な供給と需要のダブルショックとなったコロナショックの影響は過去最大になるかもしれない」

    資本主義の正体

     過去の教訓に従えば、バブルを防ぐには行き過ぎた金融緩和を避けることだ。だが、コロナショックに至った今、日欧に続き米国も再びゼロ金利や量的緩和に追い込まれた。

    「無理な経済成長、景気拡大を求めるからこうなる。それは資本主義社会の運命かもしれない。『資本論』の中で、マルクスはこう書いている。『将来の人類の衰弱や、結局はとどめようもない人口減少が見込まれるからという理由で資本が、実際の運動を抑制するというのは、いつか地球が太陽の中に落下する可能性があるという理由でそうするというのと、どっこいどっこいの話である』。要約すれば、人類の衰弱や人口減少があるからと、資本主義は資本を増殖する行動を絶対に止めない。人類がどうなろうと、自己増殖を続けると資本主義の正体を喝破した」

     コロナショックの教訓は何か。

    「過度な金融緩和への依存とグローバル化への戒めだ。行き過ぎた金融緩和はバブルをもたらし、その崩壊は人々の生活を痛めつける。世界に拡大させたサプライチェーン(供給網)や人の移動が疫病をまき散らす新たなリスクになった。中国はじめ新興国は経済成長を優先しすぎた。生活習慣や公衆衛生などが近代化に追いつかず、一部の風土病が世界を大混乱に陥れている。コロナは、その序章に過ぎないかもしれない。『より速く、より遠く、より合理的に』という資本主義から『よりゆっくり、より近く、より寛容に』という社会への構築を急ぐべきだ」

    (本誌初出 インタビュー 水野和夫・法政大学教授 「コロナが突きつけたバブル依存経済の限界」4/28)

    (聞き手=浜條元保・編集部)


     ■人物略歴

    みずの・かずお

     1953年生まれ。80年早稲田大学大学院修了。三菱UFJ証券チーフエコノミスト、内閣官房内閣審議官などを経て2016年4月から現職。

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    コロナ株高の崩壊14 金利上昇で沈むハイテク株 11月にダウ5000ドル暴落も ■神崎 修一17 リスク1 米バブル 下落局面への転換点 ■菊池 真19 リスク2 GAFA 米IT潰し ソフトバンクも試練 ■荒武 秀至20 米大統領選 勝敗予想 バイデンの「雪崩的勝利」も ■中岡 望23 失業率が示 [目次を見る]

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