アフターコロナに「新興国のデフォルトラッシュ」は起きるのか=梅沢利文(ピクテ投信投資顧問ストラテジスト)
各国の政府や政府関係機関が発行するソブリン債の格下げが異様なペースで続いている。新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に原油の需要が急減し、資源国の経済が打撃を受けたのが大きい。フィッチは今年は記録的な格下げペースになると予想する。
格下げされた26の国・地域を見ると先進国は英国だけで、圧倒的に新興国、特に産油国だ。地域別ではアフリカ、中南米が大半で中東が続く(表)。
石油依存のリスク
産油国が当初、減産合意に失敗したことも響いた。4月にようやく合意した日量970万バレルの減産は、石油需要の減少に追いつかない。米国も含め産油国に減産の機運は見られるが、原油価格の上昇には需要の回復が必要だ。このような中、格付け会社は一様に今年の想定原油価格を引き下げた。S&Pは3月に20年の原油(ブレント)想定価格を従来の1バレル=60ドルから半値の30ドルに引き下げた。例えば債務不履行の可能性が高いトリプルCに格下げされたアンゴラは輸出の約95%、歳入の約6割を石油に依存している。
なお、クウェートの格付けは別の理由で気がかりだ。クウェートやサウジアラビアなどは巨額の政府系投資ファンドが財政の担い手となっている。クウェートのSWF(政府系ファンド)全体の規模はGDP(国内総生産)の約5倍だ。SWFは投資情報を非開示の国が多いが、株式や債券への投資比率はいずれも高く、コロナショックによる金融市場の変動による影響は不可避だ。
米ドル建て新興国債券のスプレッド(米国債に対する上乗せ金利)は、2月後半から拡大(悪化)した(図)。感染拡大による景気減速は、財政収支対GDP比率を悪化させる。国際通貨基金(IMF)が先日公表した同比率の20年予想は新興国全体でマイナス9・1%と19年比でマイナス幅が倍増した。
より懸念されるのは、コロナ対策を優先し、対外債務返済を遅らせることを迫られる新興国もあることだ。エクアドルがその例で、このような状況ではIMF等の支援が求められる。ただ、支援要請は殺到しており融資能力強化は急務で先進国の協力は不可欠だが不協和音も見られる。産油国の財政、コロナ対策負担、国際的支援体制など新興国に注意点は山積している。
(本誌初出「新興国に信用不安 26の国・地域で格下げ 原油見通しは30ドル=梅沢利文」)
(梅沢利文・ピクテ投信投資顧問ストラテジスト)