「ウィズコロナ」時代の到来で「サービスよりモノ消費」が復権する=藤代宏一(第一生命経済研究所主任エコノミスト)
「BC(Before Corona、コロナ以前)」における2020年のメインテーマは、第5世代(5G)移動通信システムの本格稼働が喚起する世界経済の加速であった。IoT(物のインターネット)、AI(人工知能)といった有望なテーマの進化と相まって、基地局や5G対応製品など、多くのIT(情報技術)関連財の需要の増加が予想されていた。
こうしたテーマは新型コロナウイルス問題によって存在感が薄れている。ただし、2月までのデータをみる限り、「生存」が確認されているのも事実だ。世界半導体売上高は前年比プラス5・0%へとプラス圏に浮上し、日本の生産統計ではIC(集積回路)や半導体製造装置が力強く伸び、IT関連財の輸出も底堅く推移している。
目下の世界経済の急減速を踏まえると、IT関連財の回復持続は微妙に思える。とはいえ、5Gの本格稼働を含め、BC時点の計画が撤回されたわけではない。短期的にはサプライチェーン寸断によって生産が落ち込む可能性はあるとしても、やや長い目でみれば、半導体を中心にIT関連財の需要は底堅く推移する可能性がある。
世界経済の大幅マイナス成長が予想されている下、IT関連財の回復継続を見込むのは楽観的に思えるかもしれない。ただし、財消費を巡る環境がサービス業ほど悪くはないことは認識しておきたい。人々の外出が制限(自粛)されている以上、サービス消費が落ち込むのは自明であるが、一方で消費者はEC(電子商取引)を通じて財を購入できるし、生産者側も一部の例外を除いて(需要さえあれば)生産を継続している。
再び「モノ消費」へ
「AC(After Corona、コロナ後)」に予想される姿として、BCの先進国経済のメガトレンドであった「モノ消費からコト消費」からの逆回転が考えられる。新型コロナウイルス問題の完全終息に相応の時間を要すると考えた場合、本来は外食、旅行、レジャー等に向かっていたはずのお金が高機能スマホやタブレットなどIT製品に向かう可能性があるだろう。
世界的な雇用環境の悪化に鑑みれば、民生デバイス市場の減速は不可避に思えるものの、新たなトレンドの下で「特需」が発生する可能性も意識しておきたい。また企業や国家レベルにおいてもテレワークの推進などIT関連の実物投資が盛んになる機運も高まっており、既にノートPCやデータセンターの能力増強といった需要も発現している模様だ。
コロナショックで忘れかけていた5G特需は、意外なルートを通じて実現する可能性がある。
(本誌初出「コロナ後は5G特需が再来する=藤代宏一」)
(藤代宏一・第一生命経済研究所主任エコノミスト)