テクノロジー図解で見る電子デバイスの今

リモートワークで需要急増!スマートグラスがアフターコロナ市場を席巻する=津村明宏(電子デバイス産業新聞編集長)

    スマートグラスの活用機会は今後ますます増えそうだ コービン提供
    スマートグラスの活用機会は今後ますます増えそうだ コービン提供

     リモートワークが普及する中、現場の映像を見ながらリアルタイムで作業の指示ができるスマートグラスやヘッドマウントディスプレー(HMD)が注目を集めている。メガネやゴーグルのように身に着けて使用するため「ウエアラブル機器」と呼ばれる。一般のメガネにディスプレーを搭載した光学モジュールを後付けするタイプもある。作業者は両手が自由に使え、指示者は遠隔地から現場を映像で確認できる利点があり、既にドローンの操縦や建設・製造の現場など主に業務用に採用されている。AR(拡張現実)/VR(仮想現実)/MR(複合現実)技術の進化、5G(第5世代移動通信規格)インフラの拡大、スマートファクトリー化の流れが今後の普及を後押しするとみられており、「次のスマートフォン」の最右翼と期待する声もある。

     こうした機器には、映像を表示するディスプレー、その映像をあたかも大画面を見ているように大きく眼前に投影する光学モジュール、マイクやスピーカー、位置情報を示すGPS(全地球測位システム)や通信デバイス、電源となる超小型電池などの各種電子部品が搭載されている。身に着けて使用するため、搭載される部品は当然のことながら小型・軽量であることが不可欠で、加えて低消費電力、かつ発熱が少ないこと、屋外のような明るい場所で使用しても鮮明に映像を表示できること、といった条件も求められる。

    開発競争が加速

     なかでも、キーデバイスであるディスプレーには、1インチ未満という小型の「マイクロディスプレー」が搭載される。マイクロディスプレーは、これまで主に映像を投影して大画面で表示できる液晶プロジェクターに採用されてきた。その後、背面投射型と呼ばれたリアプロジェクションテレビや、撮影した写真を大きく投影表示できるポケットプロジェクターなどにも採用されたが、これらの機器がそれほど普及しなかったため、需要が大きく伸びることはなかった。近年では、デジタルカメラの電子ビューファインダーにほぼ標準搭載されている状況だが、スマートグラスやHMDはマイクロディスプレーにとって、待ちに待った需要拡大の新たな機会といえる。

    0.37㌅で解像度1920×1080(1080P)のLCOS(韓国ラオンテック製) ラオンテック提供
    0.37㌅で解像度1920×1080(1080P)のLCOS(韓国ラオンテック製) ラオンテック提供

     マイクロディスプレーには、液晶プロジェクターに使用される高温ポリシリコンTFT液晶や、デジタルシネマ用プロジェクターの主流であるDMD(デジタルミラーデバイス)などいくつか種類がある。そして、ウエアラブル機器には液晶技術を用いたLCOS(Liquid Crystal On Silicon)と有機ELが用いられている。こうした分野で日本企業は長い事業の歴史を持っており、いまだに存在感が大きい。ソニーはデジタルカメラの電子ビューファインダー用で高いシェアを有しており、セイコーエプソンは自社ブランドのスマートグラス「MOVERIO」に有機ELを自社生産している。両社ともに高温ポリシリコン液晶を事業化していることでも知られている。

     ウエアラブル機器には、主に有機ELが搭載されることになる。自ら発光しないためバックライトなどの光源が別途必要なLCOSに対し、自発光する有機ELは小型・軽量化に向くためだ。有機ELには現在、ソニー、エプソンといった日本企業のほか、米国のイメージンとコーピン、フランスのマイクロオーレッド、中国のYunnan OLiGHTEK Opto-electronic TechnologyとLakeside Optoelectronic Technology(レイクサイド)などが参入している。米国企業は、陸軍や空軍のパイロット用ヘルメットや暗視スコープといった軍事用に主に供給しつつ、近年はウエアラブル機器などの民生用途への展開を図っている。中国企業は新規参入組で、「ポストスマホ」時代の到来を見据えて事業拡大の機会をうかがっている。

     そして最近では、LCOSと有機ELに加えて、光源にLEDを用いる新技術としてマイクロLEDディスプレーが登場している。まだ大量生産できているメーカーはないが、有機ELと同様に自発光であるため小型・軽量化に寄与するとみられ、画素がLEDであるため輝度も高い。シャープや京セラ、ジャパンディスプレイ、OKIといった日本企業が試作品を発表したほか、海外でも大学や研究機関発の開発ベンチャーの設立が相次いでおり、ブームになりつつある。先ごろ、SNS大手の米フェイスブックが英国ベンチャーのPlessey Semiconductorsとスマートグラス向けに開発提携を結ぶなど、事業化に向けた動きも活発化しつつあり、将来的に有機ELの有力な対抗馬になりそうだ。

    有機ELの高輝度化

     こうした状況に対し、量産実績で先行する有機ELは、さらなる高輝度化や高精細化で差別化を図ろうとしている。

    イメージンの資料を基に筆者作成
    イメージンの資料を基に筆者作成

     イメージンは、マイクロ有機ELの高輝度化を進めている。AR機器用のディスプレーには2000ニット(ニットは明るさの単位、cd/㎡ともいう)以上の高輝度が不可欠で、LCOSなど他のディスプレーでは輝度やコントラスト(明暗比)が不足するケースがあるため、有機ELに優位性があるとも主張している。

     同社は現在、マイクロ有機ELのラインアップとして、輝度200ニットまでの「XL」、800ニットまでの「XLS」に続き、最大3000ニットまで対応可能な「XLE」を開発している。XLEは、輝度が同じであれば発光寿命がXLSの3倍以上あり、試作品の評価サンプルを2019年7~9月期から出荷し始めた。20年内に顧客から認定を取得する予定だ。

     これに続き、ダイレクトパターニングと呼ぶ独自の有機EL成膜技術を用い、従来は必要だったカラーフィルター(CF)を使用しない新型パネル「ULT」の開発を進めている(図)。有機EL層で発光した光の約80%を吸収してしまうCFが不要になるため、輝度7000ニット以上が実現できる見込み。

     ダイレクトパターニング技術の詳細は明らかにしていないが、同技術を用いて、20年7~9月期には輝度1万ニットのサンプルを出荷する予定。米軍が2・5万ニットまでの高輝度化を求めており、3年以内にこれを実現するため、並行して開発資金の調達も進める方針。また、ダイレクトパターニング技術で製造したディスプレーを民生用AR/VR機器向けに19年12月末から開発し始めたことも明らかにしている。

    CESに開発品が出展

     コーピンも高輝度化と高精細化を急ピッチで進めている。その一つが、1月に米国で開催された世界最大の家電見本市「CES2020」に展示したダブルスタック(複層)構造のマイクロ有機ELだ。ダブルスタック構造の詳細は明らかにしていないが、有機ELの発光層を2層以上に複層化して、高輝度化や長寿命化を図っていると想像される。複層化して輝度や寿命、色再現性を向上させる手法は、テレビ用の有機ELディスプレー「WOLED」を量産している韓国LGディスプレーも採用している。

    パナソニックがCESに展示した4Kスマートグラス。コービンのマイクロ有機ELを搭載 パナソニック提供
    パナソニックがCESに展示した4Kスマートグラス。コービンのマイクロ有機ELを搭載 パナソニック提供

     CESでコーピンは、世界最大サイズとなる解像度2560×2560(2・6K)の1・3インチマイクロ有機ELをパナソニック、中国江蘇省常州に工場を持つレイクサイドと共同開発し展示した。ダブルスタック構造で輝度1000ニット以上、コントラスト比1万対1以上を実現した。ほかに、ダブルスタック構造のマイクロ有機ELとして、解像度2048×2048(2K)の0・99インチと、解像度1280×720で0・49インチの緑色ディスプレーも開発した。前者は輝度1000ニット超、コントラスト比1万超を実現。後者は2万ニットを超える超高輝度で、消費電力をわずか130ミリワットに抑えた。

     コーピンはファブレス(自社工場を持たない)企業であるため、シリコン製の駆動回路を自社で設計し、有機ELの成膜工程はレイクサイドのほか、中国のBOEとの合弁会社であるKunming BOE Display Technology、中国雲南省のOLiGHTEKの3社に製造委託している。米中貿易摩擦のさなか、今後も米中のパートナーシップを維持しつつ商品展開を進めていけるのかには懸念があるが、コーピンはパナソニックの案件がBOEの生産能力を活用する最初の契約になると述べている。

     ウエアラブル機器の普及拡大とともに、マイクロディスプレー市場の成長と技術開発競争に伴う今後のシェア争いも激しさを増していくことだろう。

    (本誌初出「スマートグラス需要に商機 開発進む超小型ディスプレー=津村明宏/42」)

    (津村明宏・電子デバイス産業新聞編集長)

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