日本経済の生産減退はぎりぎりの水準=藻谷俊介
新型コロナウイルス問題が日本経済に与えるインパクトが、統計を通じて次第に明らかになっている。
図1は鉱工業生産指数とその予測指数の動きで、内外の需要減退に合わせて生産調整が起こる様子を示している。4月上旬の調査に基づいて、実績値の線は3月まで、予測値の線は5月まで入れている。3月からの欧米の大混乱はもちろん、4月7日の7都府県の緊急事態宣言に向けた動きも一部反映されていると考えられる。
これを見ると5月の生産は2月対比で5%強の減少予測となっている。この予測は、生産予測指数の弱点である楽観バイアスやボラティリティーを当社で補正してあるので的中率が高い。需要サイドでは、3月の小売販売額(季節調整値)は前月比で約4%減少、4月の自動車販売台数は2月対比で約15%減少した。
確かに大きな減少ではあるが、いずれも4月14日号の当欄で見た2月の中国ほどの大調整ではなく、場合によっては昨年の消費増税のインパクトよりも小さい。足元で我々の所得や生活が突き崩されつつあるとはいえ、感染の抑制とバランスを取りながら早期に経済の立て直しに臨めば、ぎりぎり乗り越えられるのではないかと期待できる範囲にある。
回復した韓国・台湾
そう言いたくなるのは、韓国や台湾の生産統計も見ているからである。特に韓国は、いったん感染拡大に甘んじたところから反攻し、膨大な数の検査によって新規感染の芽を摘むことで感染を抑え込み、現在では主要国の世論が脱出モデルの手本と見なす成功例となった。韓国では現在、休業要請も都市封鎖も行われていない。日本では、近年の両国関係を反映してか、ほぼ平常に戻っているソウルの風景はあまり報道されていない。身近な成功例を見られないのは残念なことだ。
図2が示すように、韓国の生産は2月こそ下がったものの、3月は大きく戻しており、一度も感染拡大のなかった台湾も、ショックをいなして増勢の継続へと向かっている。日本だけが取り残されている。
4月末の時点で、日本の累積感染者数は10倍になるのに100日以上かかるようになった。ドイツはそのタイミングで制限緩和を打ち出しているが、日本の大都市では検査体制が不十分で、緊急事態宣言の緩和が難しい。もっとスピード感を持って対応してほしい。自粛中も前月と同じ給与が振り込まれ、制限緩和をただ待っていればいいのは、公務員や一部の正社員だけだ。学校の再開も急務である。
(藻谷俊介、スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)