経済・企業注目の特集

「コロナショックから回復に5年」日本経済への影響が他国よりも深刻な理由=木内登英(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)

 内閣府が5月18日に発表した2020年1~3月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、前期比年率3・4%減と、前期(同7・3%減)に続いて2四半期連続の大幅なマイナス成長となった。

 1~3月期のマイナス成長に最も大きく寄与したのは、個人消費と輸出である。実質個人消費は前期比0・7%減となったが、これは3月を中心とする国内での消費自粛の動きを反映したものだ。他方、実質輸出は前期比6・0%減の大幅マイナスとなった。2月以降の中国経済の急減速と、GDP統計で輸出に計上されるインバウンド需要の急激な落ち込みを映したものである。

4~6月30%弱減も

 4~6月期の実質GDPは、緊急事態宣言下での一段の消費抑制の影響などにより、年率30%弱程度の空前の大幅マイナス成長となろう。4月に成立した20年度補正予算の実質GDP押し上げ効果は1・2%増程度と推定されるが、こうした急激な景気の落ち込みに対してはほぼ、焼け石に水の状況だ。

 さらに、7~9月期も小幅なマイナス成長が見込まれる。自粛緩和で個人消費は持ち直しに転じようが、海外での急激な経済縮小の影響は、遅れて日本からの輸出の大幅減につながる。さらに、内外需要の急激な落ち込みに対して、国内での生産削減の動きがやや遅れて強まり、在庫投資のマイナス成長寄与を大きくしよう。

 7~9月期も小幅マイナス成長となれば、日本ではマイナス成長が1年間続くことになる。中国のマイナス成長は今年の1~3月期、欧米でのマイナス成長は1~3月期と4~6月期とそれぞれ見込まれるが、日本では昨年10月の消費増税の影響も加わったことで、マイナス成長の期間が海外よりも長くなる。

 実質GDPの水準が、マイナスに転じる前の19年7~9月期(消費増税前)の水準に戻るまでには、リーマン・ショック後と同様に5年程度の時間を要するだろう。経済の潜在力がもともと低い日本経済は、経済ショックから立ち直るまでの時間も他国よりかかるのである。

 景気の調整期間が長くなればなるほど、持ちこたえられなくなった企業の倒産や廃業は増える。それは、失業者の増加など雇用情勢の悪化にもつながりやすい。このため、失業率は、戦後最高の6%程度に達するだろう。さらに、不動産市況の下落などによって銀行の不良債権問題が深刻化する可能性もある。

 より長い日本経済の調整期間は、企業や生活者の支援などの政策対応の難易度を、海外と比べてもかなり高くするだろう。

 他方で、欧米を震源地に3月以降くすぶっている金融不安が危機にまで発展する場合、そして新型コロナウイルス感染の第2波が主要国で本格的に生じる場合には、内外経済の見通しは一層厳しくなり、2年連続でのマイナス成長となるだろう。そうしたリスクシナリオにも、十分に注意を払っておきたい。

(本誌初出 1~3月期GDP 長期停滞兆す2期連続マイナス成長 増税前への回復には5年程度か=木内登英 6/2)

(木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)

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