国際・政治コロナ危機の経済学

全米の若者が熱狂する「新しい社会主義」の衝撃=斎藤幸平(経済思想史学者)

    若者の指示を集めたバーニー・サンダース (Bloomberg)
    若者の指示を集めたバーニー・サンダース (Bloomberg)

     アメリカでの大統領選に向けた候補者選びで、民主党の指名獲得はジョー・バイデンで決まった。序盤で優勢だった「社会主義者」バーニー・サンダースは、今回も敗れ去った。

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     だが、ここで衝撃的なのは、ミシガン州の出口調査の結果である。若者たちは本当に圧倒的にサンダース支持なのだ(図)。アメリカは2大政党制であるが、はっきり言って、民主党は年齢によって、まったく異なるグループに内部分裂しているような状態になっているのである(共和党も主流の保守主義とトランプ支持のオルタナ右翼で分裂しているため、もはや4大政党制のようである)。

     この投票行動からもわかるように、多くのアメリカ人の若者たちは急進化しており、「社会主義」の方がいいと考えるようになっている。彼らこそ、「ジェネレーション・レフト」にふさわしい。多額のローンを背負って大学に行き、その後の雇用も安定せず、医療費なども膨大な格差社会に住むことに、若者たちが疑問を抱くようになっている。そしてなにより、気候変動が深刻化するなかで、若い世代は、資本主義の無限の利潤追求を問題視するようになり、別の社会システムへの大転換を要求するようになっているのである。

    旧社会主義の正体

     とはいえ、アメリカの若者たちが旧ソ連や旧東ドイツのような「社会主義」に住みたいと思っているわけがない。とすれば、ここで言われている「社会主義」とは何なのか? そして、そのような21世紀の新しい「社会主義」に照らして、そもそも20世紀の社会主義はほんとうに「社会主義」だったと言えるだろうか?

     私の答えは、「ノー」である。政治家と官僚が絶大な権力を握っていた、国家主導の計画経済による近代化の試みは、その内実をみれば、資本の論理にとらわれていた。資本主義的世界システムのもとで、一国社会主義のソ連は、アメリカに負けない経済成長の論理にからめ捕られていたのである。事実、ソ連や東ドイツには、「商品」「貨幣」「賃労働」も普通に存在していた。ただし、官僚による統制に依拠した計画経済は、資本家たちによる自発的な生産力上昇の競争を制約した結果、フォーディズム(ヘンリー・フォードが自動車工場で採用した大量生産を可能にする手法)への移行ができず、西側との競争に敗北することになる。

     ソ連が「国家資本主義」であったという事実は、マルクスの「社会主義」の再評価への道を開く。事実、マルクスをソ連とは切り離して再評価し、資本主義が行き詰まっている時代に、21世紀の新しい社会主義論を展開しようとする試みが世界中で出てきている。若い世代の急進化に触発され、環境問題やジェンダー(性別)、AI(人工知能)など多岐にわたるテーマで議論が進められるようになっているのだ。

     私自身も1987年生まれでソ連を知らない世代であるが、テロ、リーマン・ショック、原発事故など現代社会の矛盾がいろいろなところで湧き出てくるなかで、マルクスのコミュニズムに興味を持つようになった。そして、『Karl Marx’s Ecosocialism』(日本語版『大洪水の前に』、堀之内出版、3500円)という本で、マルクスの環境思想をこれまで未刊行だった新資料から展開し、ドイッチャー記念賞という国際的な賞を2018年にもらうことができた。

    公共財という提案

     その後、欧米やアフリカで講演をするなかで、新しい社会主義のビジョンを発展させてきた。ポイントを手短に3点だけ挙げよう。

     第一に、マルクスによれば、生産力の上昇は失業の恐れではなく、潤沢な社会を実現するべきである。つまり、オートメーション化が実現するべきなのは、労働時間の削減だ。ケインズは2030年までに週労働15時間の世界が実現されると予見していた。現状はそのことからは程遠いが、ケインズは間違っていたのだろうか。いや、ケインズの予測は正しかった。ただ、技術発展の成果を一握りの人々がすべて独占し、格差を広げているために、私たちは際限のない労働に駆り立てられているのである。

     第二に、私的所有は、貨幣を持つ人にしかアクセスを与えないことで、人工的に希少性を生み出し、貨幣獲得のための労働に駆り立ててきた。だから、社会主義は、この希少性を廃棄しなくてはならない。『未来への大分岐』(集英社新書、980円)で米国の哲学者・マイケル・ハートが強調しているように、人々の生活に不可欠なサービスや財を脱商品化して、無償化すべきなのである。

     つまり、人々の生活に不可欠なものを、私有でも国有でもなく、人々が自分たちで民主的に管理する「コモン」(公共財)にしようという提案だ。水や電気、医療や教育、住居さらにはインターネットなども、万人への開かれたアクセスを保証する制度設計を試みる運動が現れてきている。

     例えば、安い移動手段をウーバーのような営利企業に任せてはならない。トラムや電気バスのような環境に優しい無償の公共交通機関を拡充すべきである。そのうえで、公共交通機関で移動手段を賄うことが難しい場所に関しては、ウーバーを公有化して非営利の移動手段として活用すべきだろう。

     ここでのポイントは、コモンとしてのウーバーは、国有である必要はなく、市民が非営利のプラットフォームとして管理すればいいということである。シェアリング・エコノミーには、ソ連の上からの国有化とは異なる、民主主義的な生産の管理という可能性がある。

    成長の論理から脱却

     第三に、資本主義経済は、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが批判するように、「無限の経済成長というおとぎ話」を前提としている。だが、資本主義は短期的な利潤を追い求め、取り返しのつかない環境破壊を引き起こしている。もちろん、同様の論理にとらわれたソ連も環境破壊を引き起こした。その事実を反省し、21世紀の社会主義は、持続可能性にこそ重きを置かねばならない。だとすれば、必要なのは、経済成長の論理と手を切り、脱成長も含めた道を検討することである。

     新しい社会主義は福祉国家の拡充を求めるだけの運動ではないし、単なるユートピアや夢物語でもない。深刻な経済格差と気候変動を前に、現在のような生活を続けて、将来的にも現在と同じような生活を送れると考えることの方が、いまや非現実的である。新しい資本主義へのオルタナティブを21世紀に切り開く必要性がかつてないほどに高まっているのである。サンダースは選挙に負けたが、若者たちの未来のための運動は続く。

    (本誌初出 社会主義 脱資本主義と新たな公共性へ 本当の社会主義を考える=斎藤幸平 6/2)

    (斎藤幸平・経済思想史学者)

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