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テレワークで懸念される「在宅過労死」の衝撃 ポストコロナの働き方を考える=溝上憲文(人事ジャーナリスト)

    テレワークは勤務時間の自由度が上がる半面、自己管理も求められる
    テレワークは勤務時間の自由度が上がる半面、自己管理も求められる

     働く風景が新型コロナウイルスによって様変わりした。緊急事態宣言による出社自粛要請によって、テレワーク(在宅勤務)が急速に広がった。あるサービス業の人事部長は、営業部の若手課長からこんな愚痴を聞かされたという。

    「先輩の○○さんは、オンライン会議ではいつも寝起きという顔をしている。お客さんと連絡を密に取っているというけど、メール一つよこさないし、とても仕事をしているとは思えません」

     人事部長は「テレワークになると、逐一指示されないと動かないオジサンやいわゆる不良社員は、同僚も連絡しないので寝ているか遊んでいるか分からない。日ごろから指導を怠ってきた管理職の責任も大きい」と困り顔だ。

     パーソル総合研究所の調査(4月10~12日)によると、テレワーク実施者は全国平均で27・9%、東京都では49・1%。このうち68・7%は、「テレワークは今回が初めて」という。在宅勤務のルールがないまま踏み切った企業も多く、想定外の事態も発生している。

    (注)調査会社モニターを用いたインターネット定量調査(全国、主に正規雇用、20~59歳男女、勤務先従業員数10人以上)による。「テレワークを行っている」人のうち「現在の会社でテレワークを初めて実施した」人の割合。母数は3月9日~15日が2828人、4月10日~12日は6273人 (出所)パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
    (注)調査会社モニターを用いたインターネット定量調査(全国、主に正規雇用、20~59歳男女、勤務先従業員数10人以上)による。「テレワークを行っている」人のうち「現在の会社でテレワークを初めて実施した」人の割合。母数は3月9日~15日が2828人、4月10日~12日は6273人 (出所)パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」

     ある建設関連会社の人事部長は「日々適切な時間管理をしながら仕事内容と成果をチェックする必要があるが、在宅だと部下の行動が見えづらいため、マネジメントしづらい。放っておいても率先して仕事を進める社員がいる一方、日ごろからコミュニケーションの少ない社員は“報・連・相”が途絶え、仕事の進捗(しんちょく)状況の把握も難しい」と話す。

     在宅勤務は「通勤がなく自由な時間が増える」「子育てとの両立ができる」と、メリットが強調されるが、当然仕事の成果も問われるわけで、自己管理の徹底と旧来のマネジメントスタイルの転換も求められる。管理職を含め社員の真の能力があぶり出されてしまう。

     コロナによるもう一つの変化は、雇用不安の増大だ。2月から続くインバウンド需要の激減は、非正規社員が多い観光・宿泊・旅行業の雇用を直撃。3月に入ると飲食・販売・製造業などの派遣切り、雇い止めも相次いだ。「正社員と同じ在宅勤務を希望したら契約を解除された、正社員は在宅勤務なのに非正規だけ出社しろと言われた、という相談も多い」(柴田和啓・東京労働相談センター所長)といい、雇用形態による“分断”も発生している。

     二つの変化は、2018年4月から段階的に施行されてきた働き方改革関連法とも密接に絡む。

    労働時間管理難しく

    まず、長時間労働の是正を目的に、大企業では19年4月から、中小企業では今年4月から、時間外労働の罰則付き上限規制が施行された。

     大企業は法施行を受け、法定限度時間に即した自社の限度時間を設定。勤怠管理システムを導入し、始業・終業、入館・退館記録による残業時間の実態把握と違反者への警告を徹底してきた。しかし基本的にはオフィス内の対策であり、在宅勤務では難しい。会社が貸与したパソコンのログイン・ログオフ時間を把握しても、USBメモリーを使って自分のパソコンに作業データを移動して、終業時間後に仕事をしている可能性があり、完全な勤怠管理はできない。

     厚生労働省のテレワークガイドライン(18年3月)は時間外・休日・深夜労働の原則禁止や残業を許可制とすることなどを求めているが、前出のサービス業の人事部長は「残業は許可制にしているが申請する人が極めて少ない。隠れ残業者もいるだろう」と危惧する。もともとテレワークは長時間労働になりやすいことが指摘されており、実際にパーソル総研の調査でも21%が「長時間労働になりがちだ」と答えている。

    (注)調査会社モニターを用いたインターネット定量調査(全国、主に正規雇用、20~59歳男女、勤務先従業員数10人以上)による。母数は2万2477人 (出所)パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
    (注)調査会社モニターを用いたインターネット定量調査(全国、主に正規雇用、20~59歳男女、勤務先従業員数10人以上)による。母数は2万2477人 (出所)パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」

     経営者保険大手の大同生命保険は07年度から、業務の効率化と並行して「早帰りデー」などの施策を推進してきた。残業時間を徐々に減らしながら14年度には本格的な在宅勤務制度を導入し、在宅勤務用パソコンの「自動シャットダウン」を実施。シャットダウン時刻も数年かけて前倒しし、19年度からスタッフ職は午後7時、管理職は7時半に設定した。同時に週3回の在宅勤務利用制限を撤廃していたため、今回のコロナ禍でもスムーズに対応できたという。

     何の準備もしてこなかった“にわか在宅勤務”の企業では、新たな過重労働問題と社員の告発による法違反リスクが顕在化するかもしれない。

     テレワーク下の長時間労働問題が改善されなければ、「残業代未払い請求」が多発する可能性があるという点にも注意が必要だ。折しもこの4月1日から賃金消滅時効が2年から3年に延長された。在宅過労死の発生も懸念され、労働者・企業双方にリスクをもたらす恐れがある。

     また、今春はもう一つ、正社員と非正規社員の均等・均衡待遇原則を盛り込んだ同一労働同一賃金の「パートタイム・有期雇用労働法」も施行された(大企業のみ)。

     施行を前に、非正規社員に支給されていない職務関連手当や生活関連手当の見直しに着手した企業も多かった。人件費の増大を懸念し、正社員の既存手当の廃止・縮小を図る動きもあった。実際、一部の企業は家族手当や住宅手当などの生活関連手当を廃止し、基本給に組み入れた。当面は手当分を「調整給」として残し、給与総額を維持するが、調整級は徐々に減らし、最終的にはゼロとするため、結果的に正社員に不利益をもたらすことになる。

     多くの企業ではコロナ禍で業績が悪化し、固定費削減圧力が増している。前出の建設関連業の人事部長は「コロナ前は絶好調だったが、工事の停滞や新規受注が減少し、固定費の削減に着手している」という。「同一労働同一賃金は正社員に合わせる形で進めてきたが、今後は正社員の賃金抑制の話が出てくるかもしれない」と話す。法的整合性を維持するため、正社員の処遇を切り下げる動きが強まったり、中小企業を中心に非正規切りに拍車がかかる恐れがある。処遇改善を行わない法違反状態の企業が増加する可能性もある。

    給与が職務で決まる

     最後に、テレワークによって導入が加速する可能性がある「ジョブ型人事制度」について触れたい。「ジョブ型」は職務を明確にした働き方で、給与も職務で決まり(職務給)、どんな職務を担当しているかという仕事の内容と難易度(ジョブグレード)によって細かく規定される。海外では一般的だ。

    (注)全国の従業員5人以上の企業に勤務し、直近1カ月以内に週1日以上テレワークした部下のいる管理職99人が「テレワーク時の人事評価の難しさ」について回答 (出所)あしたのチーム「テレワークと人事評価に関する調査」
    (注)全国の従業員5人以上の企業に勤務し、直近1カ月以内に週1日以上テレワークした部下のいる管理職99人が「テレワーク時の人事評価の難しさ」について回答 (出所)あしたのチーム「テレワークと人事評価に関する調査」

     日本のこれまでの人事評価は、目標達成度や営業数字など定量化された「成果評価」と、チームワークやコミュニケーションなどの「行動評価」の二つの総合評価で決められてきた。

     建設関連業の人事部長は「営業を除く人事・経理・総務などの管理部門やマーケティング、制作部門では、目標達成度以外の行動評価も重視してきたが、『コミュニケーションを取りながら周りと連携して仕事を進めている』という評価項目は、在宅勤務では見えづらい」と語る。同社にも、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」で毎日30分ずつ朝礼・終礼をやっている課長もいるといい、「1週間で5時間、1カ月に20時間も費やすのでは、何のための在宅勤務なのかわからない」という。

     他方、サービス業の人事部長は個々の社員の仕事のスケジュールと情報をネット上で共有し、週1回のミーティングで進捗を管理する仕組みを取り入れている。タスクの目標を社員一人ひとりの目標にひもづけ、進捗状況を事前に記録。週1回の会議で確認し合い、問題点があれば議論する。「タスクの進捗状況や個々の成果が見えるので、評価にも困らない」という。テレワークはまさに、ジョブ型人事制度と相性がいいと言える。

     ジョブ型の先行事例の一つは、クレジットカード大手のクレディセゾンだ。17年9月に非正規社員を含めた雇用形態による社員区分を撤廃し、全員を無期雇用として賃金を含むすべての処遇制度を一本化。職務・役割グレードをG1~5の5段階に設定した。人事評価で役割を超える力を発揮していれば1段上に昇級、2段階上の飛び級もあるが、パフォーマンスが低ければ降格もあり得る。人事担当者は「直属の上司だけが評価するのではなく、部門内の管理職が皆で人材を可視化して共有化し、役割に基づく行動評価を議論する」と語る。

     コロナ禍で業績悪化による固定費削減圧力が強まる中、同一労働同一賃金やテレワークにフィットした評価制度としてジョブ型の導入が加速する可能性もある。

    成果出さない社員に逆風

     一連の変化は、労働者に新たな試練をもたらすだろう。

     ジョブ型賃金では、仕事内容とは無関係の扶養手当や住宅手当だけでなく、従来の生活保障給的な年功給や属人手当もなくなる。同じジョブにとどまる限り、25歳と40歳の給与は変わらない。職務レベルを上げるか、給与の高い職務にスイッチするしかないが、社員間の給与格差は今まで以上に拡大することになるだろう。

     また、テレワークがポストコロナの働き方のニューノーマル(新常態)として定着すれば、時間と場所の自由度の高い働き方に変わる一方で、行動評価もデジタルで把握され、より「成果」の比重が高まる。そうなれば目標の達成に向けて自律的な働き方ができない(成果が低い)社員、部下の進捗状況が把握できず、指導・助言が不十分で結果的に組織成果が低い管理職は、リストラのターゲットにされる可能性が十分にある。

    (溝上憲文・人事ジャーナリスト)

    (本誌初出 コロナで変わる人事評価 過重労働・格差拡大・リストラ… テレワークは「成果重視」傾向=溝上憲文 2020/6/9)

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