教養・歴史書評

『クリエイティブ・コーリング 創造力を呼び出す習慣』 評者・藤原裕之

著者 チェイス・ジャービス(写真家、起業家) 訳者 多賀谷正子 CCCメディアハウス 1700円

米国随一の写真家が示唆 パワーが目覚める4ステップ

 本には出会うべきタイミングというものがある。コロナ禍で我々の環世界(生物が持つ独自の知覚空間)はオフィス空間から自宅空間へ一気に変化した。時に圧縮された空間は内省を促す。忘れていた何かを思い起こし、その正体が創造性への渇望であることに驚く。本書は、我々が胸に秘めてきた創造性への渇望を解き放ち、自分らしい人生を手に入れる設計方法が詰め込まれた一冊だ。

 創造することは人間が生来持っている重要な機能である。にもかかわらず創造性は一部の人だけが持つものと教え込まれ、充実感の得られない人生を送っている。この不幸な状態を抜け出すには、創造性を呼び起こすための四つのプロセス「IDEA」を習慣化することが重要と著者は主張する。

 ステップ1の「Imagine(想像する)」では、心の奥底で抱いている思いに気付き、自分だけの道を歩もうと決意するための考え方を学ぶ。ステップ2の「Design(設計する)」では、創造性を形にするための計画や戦略について具体的な設計方法が示される。創造性とは自然に湧き上がってくるものというイメージがあるが、目標の立て方など自分に合ったシステムを創ることが重要と指摘する。ステップ3の「Execute(実行する)」では、計画を信じて実行することのパワーについて書かれている。素晴らしい作品を創ろうとするのではなく、作品を完成させることだけを考える。失敗から多くの選択肢が生まれ、そこから成功が導かれる。最後のステップ「Amplify(ふくらませる)」では、仲間を見つけ顧客を増やしながら作品を世に送り出すための心構えや方法が示される。宣伝はとかく軽視されがちだが、宣伝には作品を創ることと同じくらいのエネルギーを注ぐべきと説く。

 著者は全米で最も影響力のある写真家の一人である。本書には自身の実体験が随所に盛り込まれ、本書をより魅力的かつ説得力のあるものにしている。著者にとってのステップ1は、祖父の死を機に創造的に自分の人生を生きようと決意した瞬間である。自身が立ち上げた写真共有アプリの失敗を次の成功の糧に変えていくプロセスは、ステップ3の失敗の重要性に説得力を与えている。

 既存の枠組みの中で規模と効率を追求する20世紀型産業モデルは限界を迎えつつある。その中で最も必要とされるのが一人一人の創造性だ。来るべき未来を自分らしく生きるため、本書の示す「創造する習慣」を今から身につけておいたほうがよさそうだ。

(藤原裕之・センスクリエイト総合研究所代表)


 Chase Jarvis アップルやナイキなど有名ブランドのキャンペーンを手掛けてきた写真家。クリエーターから写真やデザインを学べるオンライン学習プラットフォーム「CreativeLive」CEOでもある。

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