教養・歴史書評

コロナで空前の活況も ジャンルで明暗=永江朗

     先日、都内の小さな書店で棚を眺めていると、旧知の店主が「コロナ疲れです」と言った。感染症対策の影響で大繁盛し、棚がスカスカになってしまった、という意味である。

    「自粛」という名の半強制的営業規制・外出規制により、飲食店をはじめ破滅的な打撃を受けた業種が多い。ところが書店界は空前の好況。いわゆる「巣ごもり需要」により、書籍がよく売れたのである。

     取次大手の日本出版販売が発表した5月の書店販売動向によると、前年同月に比べて11・2%も増えた。同社が集計を始めた2008年以来、初めての2桁プラスだという。しかもこれは、自粛期間中休業していた店も含めての数字で、営業を続けた店に限ると34・2%のプラス。これは平均であり、前年比5割増しぐらいの書店もあるようだ。

     ただし、ジャンルによって明暗は分かれる。大きく伸びたのは少年コミックで前年比243・2%。大ブームとなっている『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』シリーズなどがけん引した。児童書も前年比150%と好調だった。

     一方、雑誌は不調で、とりわけ週刊誌は前年比79・3%と2割以上も減らした。旅行ガイドなどを含む実用書も約1割のマイナスだった。

     冒頭の店主は「この期間、明らかに普段とは売れ方が違っていた」と話す。小中学校などの一斉休校が要請された3、4月は、ドリルなど学習参考書がよく売れた。緊急事態宣言が出てからは、文芸書や人文書が売れるようになった。ゴールデンウイークごろからは哲学や思想といった、いわゆる「堅い本」も売れ、特に岩波書店やみすず書房の本は従来の倍近く売れているという。リモートワークとなり、普段は都心の大型書店で買っていた人が、自宅近くの小規模店で買うようになったからだ。

     もっとも、これで「本の魅力が見直され、読者が戻ってきた」と楽観している関係者はいないだろう。書店主によると、「することがないんで、本でも読もうかと思って」と来店した人が多いという。感染症が終息して「すること」が戻ってきたら、たちまち消えてしまうあぶくのような需要かもしれない。そうならないための努力と工夫が書店にあるだろうか。


     この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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