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国際・政治 コロナ株高の崩壊

米大統領選勝敗予想 宗教票が剥落したトランプ バイデンの「雪崩的勝利」も=中岡望

 米大統領選挙の支持率調査を見る限り、民主党のジョー・バイデン元副大統領がトランプ大統領に対しリードを保っている。選挙までに何か大きなサプライズでもない限り、バイデン氏の優位は変わらないと見られる。

 大統領選挙結果は各州に割り当てられた選挙人を獲得することで決まる。しかも、得票を比例配分する2州を除き、1票でも多く票を獲得した候補者が、州の選挙人をすべて獲得する方式になっている。大統領選挙後に支持政党が変わる州を激戦州と言い、その動向で大統領選挙の結果が決まると言っても過言ではない。2016年の大統領選挙では、民主党のヒラリー・クリントン候補が激戦州すべてで敗北し、勝敗が決した。

 激戦州5州のうちオハイオ州を除き、すべての州でバイデン氏がリードしている。大票田のフロリダ州でもトランプ大統領の追い上げもあるが、依然として2%の差を維持している(ロイター通信調査、10月14日時点)。

 米公共ラジオ局(NPR)の予想(10月10日時点)では、図のようにバイデン氏が勝利を収めると見られる州(濃い青色と薄い青色の州)の選挙人獲得数が290人と、激戦州(黄色の州)のフロリダやオハイオなどを除いても、勝利に必要な選挙人の数の270人を超えている。一方、トランプ氏が勝利を収めると見られる州(濃い赤色と薄い赤色の州)は163人となっている。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、世論調査で3ポイント差がついている州はリードしている候補が勝利するとして、両候補の獲得選挙人の数を算出している。それによればバイデン氏が335人、トランプ氏が125人と、バイデン氏の雪崩的勝利を予想している。

トランプでいいのか?

 ただ、前回の大統領選挙では、世論調査でクリントン氏がトランプ氏を圧倒していたにもかかわらず敗北した。同じような事態の再現はあり得るのか。

 前回と今回では大きな違いがある。前回、トランプ氏は共和党支持層を動員するムーブメントを起こす勢いがあった。従来、選挙で棄権していた白人労働者を大挙して投票所に向かわせた。熱狂的な保守派のキリスト教徒であるエバンジェリカル(福音派)の強力な支援を得た。「トランプ連合」とも言える大きな支持層の固まりを作り上げ、クリントン氏を圧倒した。

 だが、今回はトランプ氏の選挙運動にそうした勢いはない。最大の打撃はコロナウイルス感染の拡大である。年初の段階ではトランプ氏の再選は濃厚と予想されていた。だが、宗教票を意識するあまり新型コロナウイルスに対して適切な対応を取らなかったことが響いた。加えて公開討論会でバイデン氏を口汚くののしるなど常軌を逸した行動も、支持層に冷や水を浴びせる結果となった。

 トランプ氏の選挙戦略のミスもある。トランプ連合を維持し、動員することで勝利できると考え、支持層以外に対する明確な政治的メッセージを送ることはなかった。だが、熱狂的な支持層は確保できたものの、連合の周辺の支持層を失うことになった。選挙戦の中盤から宗教票が剥落し始めた。共和党内からもトランプ氏に反対するグループがトランプ氏に投票しないように呼び掛けている。前回、トランプ支持派だった高学歴の女性票の離反も目立っている。

 さらにトランプ氏にとって誤算は、選挙が大統領の信任投票になっていることだ。「トランプか? バイデンか?」という選択を問うのではなく、「引き続きトランプでいいのか?」を問う選挙になっていることだ。トランプ氏の人格が問題視されている。そのせいか、選挙運動のなかで両候補の政策が議論されることが少ない。

若者の支持薄いバイデン

 バイデン氏も、予備選挙でバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員を支持した若者層の支持を十分に確保しているとは言い難い。

 公開討論会で左派が求めるグリーン・ニューディール政策は過激で支持しないと語ったが、これも若者層の離反を招く可能性がある。黒人層からは圧倒的な支持を得ているが、ヒスパニック系の支持は思ったほど伸びてはいない。バイデン氏に有利な要因として、郵便投票が増えていることがある。

 選挙結果に最も大きな影響を及ぼすのは投票率である。激戦州ではわずかの票差で勝敗が決する。両陣営は残された日を使って支持層の動員を図るために激しい運動を展開することになるだろう。

(中岡望・ジャーナリスト)

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