ついに「GAFAがオワコン化」の衝撃……アメリカで進む「巨大IT企業規制」のゆくえ
米司法省は10月20日、反トラスト法(独占禁止法)違反で米グーグルを提訴した。
ネット検索市場での圧倒的な地位を利用して、競争を阻害しているとして、スマートフォン市場で高いシェアを持つ米アップルなどとの長期契約も問題視している。
GAFA(ガーファ、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)、あるいはこれにマイクロソフトを加えたGAFAM(ガーファム)に代表される米IT企業群に対し、民主党が多数派を形成する米下院による規制強化案が具体化しつつある。
市場独占が自由競争を阻害すると問題視し、米下院司法委員会の反トラスト(独占禁止)小委員会は10月6日、「デジタル市場における競争調査」と題する報告書を公表した。
報告書は、急成長した巨大企業に旧態依然の反トラスト法が追いついていない現状に照らし、同法の変革と強化を提案した。
これを受けGAFA株は一時下落した。
11月の選挙で大統領と上下院すべてを民主党が押さえて反トラスト法が強化され、今後GAFAが分割される事態になれば、市場をリードしてきただけに米株への影響も深刻であろう。
ただ現実的には、GAFAが分割される可能性は低い。
上院で民主党が議事妨害を抑える60議席の確保が難しいことや、米中対立が激化する中で、米企業の競争力低下につながるような施策を取るとは考えにくいためだ。
とはいえ、コロナ禍で格差拡大は深刻であり、民主党政権が誕生すれば一握りの勝ち組であるGAFAを見逃すはずがないだろう。
GAFAは、将来急成長しそうな新興企業を貪欲に買収して巨大化してきた。
アマゾンは2020年6月、自動運転技術開発のZoox(ズークス)を12億ドル(約1260億円)で買収すると発表、将来は自動運転の配送や無人タクシーをもくろんでいる。
東京エレクなども痛手
さらに、欧州委員会はEU競争法違反に加え、課税逃れも追及し「課税が米国内だけにとどまるのは不公平」という圧力を加え、GAFAは一定の徴税を容認する方向だ。
「GAFA潰しの動き」は今後も強まるとみられる。
GAFA規制の動きは大局的には日本企業にもマイナスになる。
第一に、デジタル分野で出遅れた日本企業がようやくこれからという時期に、日本でも独禁法の適用強化の動きが出ると追い付くことが困難になるためだ。
第二に、独禁法としての市場占有率への規制に加え、個人情報の独占への規制が強まる可能性がある。
国家権力がどこまで個人情報にアクセスできるかも焦点だ。
第三には、株式市場を通じたマイナス面だ。
GAFA、米国株の値下がりは日本株にも負の影響がある。
特許、知的財産、商標権などを評価した情報技術の将来性、成長性のビジネスモデルは、GAFAだけではなく日本企業も同じであるため要注意だ。
第四として、日本の半導体産業にも悪影響があるだろう。
米IT企業は半導体受託生産を台湾企業に依存、そこへ日本製装置や素材を供給しているからだ。
データセンターなどの実需が鈍れば、日本企業にも影響が出る。
東京エレクトロン、ディスコ、SUMCO、アドバンテストなどが痛手を被る可能性がある。
今回のGAFA規制強化の動きをみると、ソフトバンクグループ(SBG)への影響も示唆されている。
将来、ソフトバンクのデジタル分野での業容が拡大し、日本の独禁法が定める一定の取引分野に当たると判断される可能性も否定できないためだ。
ソフトバンクの携帯料金引き下げ案検討は事前の改善策模索とみられる。
今回の米国の事例が将来の日本の試金石になるだろう。
(荒武秀至・三菱UFJ国際投信チーフエコノミスト)
(本誌初出 リスク2 GAFA 米IT潰し ソフトバンクも試練=荒武秀至 20201103)