マーケット・金融

「中小企業いじめ」「緊縮財政」「構造改革」のトリプルパンチ……菅政権が「日本を解体する」と考えるこれだけの理由(立沢賢一)

菅義偉首相による内閣が発足し、記念撮影に臨む菅首相(左から2人目)、麻生太郎副総理兼財務相(右端)、河野太郎行革担当相(右から2人目)、小此木八郎国家公安委員長(左端)=首相官邸で2020年9月16日午後10時17分、宮武祐希撮影
菅義偉首相による内閣が発足し、記念撮影に臨む菅首相(左から2人目)、麻生太郎副総理兼財務相(右端)、河野太郎行革担当相(右から2人目)、小此木八郎国家公安委員長(左端)=首相官邸で2020年9月16日午後10時17分、宮武祐希撮影

菅政権の登場によって「日本解体最終章」が始まった……

9月21日実施のNHK世論調査では、9月16日に発足した菅内閣の支持率は、政権スタート時としては小泉純一郎内閣81%、鳩山由紀夫内閣72%に次ぐ歴代3位で62%に達しました。

8月の安倍政権の支持率が34%でしたので、1か月で実28ポイントも上昇したことになります。

安倍内閣の支持率
安倍内閣の支持率

この支持率上昇は、ご祝儀支持率だけでなく、あたかも「安倍首相が辞めてくれてよかった。」という国民の素直な喜びの気持ちが反映されていたかのようです。

また、安倍内閣では男性の方が女性より高い支持率でしたが、菅内閣ではその逆で女性の方が男性よりも支持率が高いのが特徴です。

(動画でも解説しています。)

看板に偽りあり?の「菅さんは苦労人」物語

菅政権の女性高支持率の理由は、一般的には秋田の寒村出身の菅首相の苦労人物語が女性の共感を呼んだことに加え、携帯電話料金の引き下げや不妊治療への保険適用という公約が女性に支持されたためだと言われています。

それでは、菅首相は本当に寒村出の苦労人なのでしょうか?

これまで菅首相は高校卒業後、「集団就職」を売りにしてきました。

しかし、実際には、菅首相は高校を卒業してから上京して就職していますので、「集団就職」という言葉は適切ではありませんでした。

菅首相の公式ホームページには、「高校卒業後上京」と記されており、実は「貧しい少年時代を過ごした苦労人」というイメージは正確な表現ではないのです。

確かに菅首相のご実家は農家でしたが、お父様は、『ニューワサ』という品種改良したいちごを開発された方で、且つ、菅首相が高校1年生の頃から4期16年にわたって雄勝町の町議を務めた地元の名士でもあります。しかも、農業で大成功を収めるまでは南満州鉄道のエリート職員だという記録もあります。

幼少時代の菅首相はどちらかと言えば、裕福な暮らしで、当時子供には高額でした月刊マンガ雑誌を定期購読して友達に貸したりしていた程だそうです。実際に、「友達から羨ましがられる存在でした」と当時の友人は語っています。

菅首相は、貧しさから這い上がった苦労人で、庶民派の総理大臣というイメージを大衆に植えつけて新政権を樹立したかったのか、或いは菅首相の側近がそのようなイメージ戦略のお膳立てをしたのかも知れません。どちらにせよ、貧乏どん底の田舎者ではないのは間違いなさそうです。

「小型政策リーダー」で外交・安全保障には無関心?

それでは菅首相はどのようなリーダーでしょうか?

安倍前首相は金融緩和という一本の矢しか刺さらなかったのですが、三本の矢(金融政策、財政政策、民間投資)という「ビジョンリーダー型」でした。一方、菅首相は「小型政策リーダー型」となる可能性があります。

大局的ビジョンが必要なテーマ、特に安全保障に関しては、アイデアが無いというより無関心なのでしょう。外交に関しては安倍元首相と比較にならないのではないかと思います。

安倍政権時に菅首相はどういった政策を行ったのか?

それでは菅首相が安倍首相の女房役として官房長官時代にご自身が中心になってどのような政策を推進したかを検証してみましょう。

(1)インバウンド対策の一環としてアイヌ新法を施行しましたが、一部の国民を優遇するという民主主義国家としては不可解な法律です。

(2) ふるさと納税の導入と抱き合わせで、地方交付税を減らしています。

つまり、ふるさと納税の商品内容で自治体同士を競っているのは、地方交付税の減少分を補うため、という側面があるわけです。これは結果的に緊縮財政を推進したことになります。

(3) 2014年に内閣人事局を設置しました。

これにより、内閣人事局を使って、政治家が官僚に対して人事権を発動し、政治家の政策に反対する官僚を左遷する事が出来る様になりました。菅首相は総務副大臣時代、ふるさと納税に反対した総務省の官僚を更迭したことがあるそうです。

9/13のフジテレビ番組で、菅首相は中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局に見直すべき点はないと明言し、政権の決めた政策の方向性に反対する官僚は「異動してもらう」とも強調しています。

つまり、菅政権のチェック機能的役割を担うべき官僚は、菅政権の政策に反する場合は、内閣人事局の人事権を利用して排除されてしまうので、チェック機能を果たすことが出来ない仕組みになってしまったのです。

菅首相の「政策」具体的な中身とは?

さて、菅首相が実行するであろう政策は安倍前首相の「実感なき景気回復」から「実感できる景気回復」を推進するものと言われています。

その目玉政策として、以下のものがあげられています。

(1) 携帯電話料金の値下げ。

これにより国民の可処分所得は増えますが、電話会社の純利益はその分減少する計算になりますので、その減少分を政府が補填しない限り、経済にとってプラスにはならないです。

(2) 緊急避妊薬の薬局販売解禁など不妊治療支援などの規制緩和

以上の2つは大衆ウケを狙ったものでしょう。

その他、以下の政策もあげられています。

(3) デジタル庁の設立。

今回のコロナショックで浮き彫りになった「日本はデジタル劣等生」という事実に対応した政策です。因みに、平井デジタル改革相は元電通マンです。

バルト3国の1つエストニアは電子国家と言われていますが、彼はそれをお手本に日本も電子国家を目指すべきと考えているようです。

問題は、政府データを一元化した場合、サイバー攻撃に脆弱となるほか、一カ所の障害で全サービスが停止してしまうといったサイバーリスクがある点です。そこをしっかりと固めながらでないとデーター漏洩の危険が伴います。

(4) 中小企業改革。

利益が出ない中小企業を減らすという方針です。これにより、中小企業庁の中小企業対策費を減額出来ますから、これは緊縮財政の一環と言えます。

中小企業はなぜ簡単に潰してはいけないのですか?

日本の産業を支える中小企業は約358万社で全体の99・7%を占め、全体の約7割に当たる約3200万人の雇用を担っています。

中小企業改革は中小企業の数を減らし、最低賃金を上昇させるというものです。

問題は、中小企業は生産性、効率性が低いという理由で、再編•合併をさせられる事で、中小企業の中堅企業化や、大企業が吸収する事で規模拡大を目指して問題解決しようとする姿勢なのです。

その内容は、大雑把に申し上げますと現在約358万ある企業の内、140万から150万程度を残し、残りは淘汰されるべきだというものです。

先進国の中でも日本は低いとされる最低賃金について、菅首相は全国的な引き上げを唱え、その為に中小企業再編を主張しているのです。

元々、最低賃金を上げられない最大の理由は、政府の緊縮財政政策によってデフレ経済状況が数十年続いているからなのです。本来そこに着手すべきなのですが、そこはお座なりにして、中小企業を突っついているのです。

それでは、この政策は一体全体どのような結果を生み出すのでしょうか?

現実的には、下請け企業が潰れてしまうと大企業も負の影響を受けるのは確実です。

日本経済は大企業が下請け企業の上に成り立っている産業構造ですから、当然の帰結です。

つまり、この政策は究極的に大企業の首をも絞めることに繋がると言っても過言ではないのです。

中小企業改革が実行された場合、中小企業と大企業とによって成り立っている製造業•土木業•建設業などの業界は今後衰退し、その技術は日本から失なわれてしまうことすら危惧されます。

なぜデービッド・アトキンソン氏が日本経済をコントロールしているのでしょうか?

この中小企業改革案の原案は元ゴールドマンサックスのアナリストで現在、中小企業社長であるデービッド・アトキンソン氏が作成したものです。余談ですが、アトキンソン氏の会社は日光東照宮の修繕に関与したそうですが、その修繕作業の質の悪さが界隈では物議を醸しているそうです。

デービッド・アトキンソン氏は、日本の観光立国化政策の頃からの菅首相の友人です。

菅首相は経済産業省の幹部の言葉を借りますと「アトキンソン信者」で、アトキンソン氏の考え方を完璧に「コピー&ペースト」をしているそうです。

菅政権&竹中平蔵氏の思惑は「中小企業を外資に売却」?

更に、菅首相は、竹中平蔵氏と非常に近い関係にあります。

彼は東洋大学教授でありつつ、人材派遣のパソナ会長やオリックスやSBIの社外取締役に従事しています。

竹中氏が総務大臣時代に、菅首相は総務副大臣で主従の関係でした。

竹中氏がこれまで進めてきた政策をみれば、菅政権において今後、規制緩和による大企業優遇や、外資優遇といった「グローバリスト優遇政策」に走る可能性も高いと考えられます。

中小企業改革は、一般大衆の関心をあまり集めないのですが、筆者はこれを慎重に考えるべきだと思います。何故なら、次世代を担う中小企業を外資に売却してしまうようなことは絶対に避けるべきだと確信しているからです。

現在、外資による水道事業などの公共事業への参入や土地や水資源の買収、規制緩和による農業問題が次々と明るみにでてきています。

菅政権の中小企業改革によって、「下町ロケット」のような日本が誇る中小企業独自の貴重な技術までも外国勢に奪われてしまうことになりかねません。

日本の資源や技術が危機にさらされています。

しかし、それを防ぐどころか、むしろ推進しようとしているのが、菅政権および、その周辺にいるグローバリスト達という現実があるのです。

立沢賢一(たつざわ・けんいち)

元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。

Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/

投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic

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