菅政権よ、携帯料金より「自動車コスト」引き下げのほうが優先だ!「オンラインで免許更新」の世界と比べて日本の自動車行政の旧態依然ぶりは深刻
菅新政権の目玉とも言えるのが携帯料金の引き下げ。しかし日本の携帯料金は本当に高いのか、と言えば決してそうではない。米国や韓国は日本以上に平均料金が高く、ギガバイト(GB)当たりの通信料を見ても日本は決して高い方ではないし、格安携帯サービス会社もそれなりに充実している。
世界一高い日本の高速道路料金は韓国の8倍
半面、日本が圧倒的に世界で一番高いのが自動車に関連する諸費用だ。
まず高速道路。国土交通省のデータによると、日本では1キロ当たりの高速利用料金は24.6円。韓国は3.3円。
欧州はフランスが13円前後だが英国10円、イタリア9円と日本よりはるかに低い。一部の高速道路のみ有料の米国は3円程度だ。
ガソリンは二重課税
さらにガソリン代も世界トップレベル、そして何よりも高いのが免許取得費、そして車検、自動車関連税の存在だ。
ガソリンに関しては揮発油税、地方揮発油税(ガソリン税)、石油石炭税がすでにかかっているのに消費税がかかる、という二重課税となっている。ちなみにガソリン1リットル当たりの揮発油税は48.6円、地方揮発油税は5.2円、石油石炭税が2.8円だ。これに10%の消費税が加算される。
税金はアメリカの4倍、独仏の2倍
日本自動車連盟(JAF)の調べによると、日本で車を所有する場合、1年間にかかる税金は平均で11万円を超える。
まず取得時に環境性能割が0~3%(昨年より自動車取得税が廃止され、それに代わるものとして導入)、消費税が10%。これに加え、自動車税、重量税がかかり、自動車税と重量税は車を保有する限り継続する。そして重量税は年式が13年、18年を超えるとより高くなる。そして走行時にかかるガソリン関連の税。
JAFでは車を13年間保有した場合の諸費用の各国比較を行っているが、日本はおよそ90万円に対し、ドイツ・フランスは50万円台、米国は20万円台だ(図1)。
PDF画像はこちら(2020JAF『自動車税制に関するアンケート調査』結果より)
この結果、こうした税を「負担に感じる」と答えた人は98%、「現行の自動車税制を見直して自動車関係諸税の負担を軽減すべき」と答えた人は92%だったという(2020JAF自動車税制に関するアンケート調査結果より)。
エコでない日本の車検制度
これに加え、日本には車検制度がある。
私事ではあるが、日本の実家で老母が所有する車は中型車で15年を経過しているが、車検費用が20万円近くになる、という。もちろん車検をする場所などさまざまな要素もあるのだろうが、この費用がかかりすぎるため、来年廃車にする予定だ。しかし老母が近所に出かけるためだけの車であるため、15年でも走行距離は4万キロ程度で、走行にも全く問題ない。車検のためだけに廃車にする、というのは「もったいない」と感じるし、エコロジーの観点からも疑問も覚える。
一方私が米国で所有しているのは47年経過の独BMWだが、米国では車検に相当するスモッグ・チェック(排ガス検査)があるが、1975年以前の車は対象外、自動車税(車両登録費)も年間で100㌦以下だ。
またスモッグ・チェックの対象だったとしても、パスすればチェック料金のみ、パスしなくても最低限の修理や調整で済む。米国に30年住んでいるが、BMW以外の車でスモッグ・チェックを通して「高い」と感じたことはない。
クルマを買いにくい自動車大国
自動車産業は日本の基幹産業のひとつだ。
トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車は米国ではゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と合わせて「ビッグ6」と呼ばれる企業でもある。
しかしこれら企業のひざ元である自国でこれほど車が買いにくい、維持しにくい、というのは一体どういうことなのだろうか。
よく欧米では車の運転は権利、日本では特権、と言われるが、この費用を考えるとその意見にもうなずける。
自動車の税は8兆円超の巨大財源
自動車関連で国や地方が得る税収は年間8.8兆円にも達する巨大財源になっている(日本自動車工業会=自工会の「2020年度租税総収入の税目別内訳…」より)。
しかもこの中には「国の財源が苦しい」という理由で一時的な税負担増が決定され、それがそのまま固定化されているものも含まれる。
本来道路整備などに使用されるべき税が一部は一般財源となり、国の税収全体の8%程度を占めている。このため国も自動車関連税の減税には消極的だ。特に地方にとっては地方揮発油税などが大きな財源となっている。つまり大きすぎて触れられない聖域になっているわけだ(図2)。
もちろん日本の自工会は以前からこの高すぎる自動車関連税の軽減を訴えてきた。しかし自工会の意向を受けた経済産業省が税制の見直しを提言するのに対し、税収減を警戒する財務省、総務省が反対する、という構図となっている。
意味のないエコカー減税
一方、政府は昨年から自動車取得税を廃止し、自動車税と軽自動車税に環境性能割が付加された。電気自動車(EV)などを所有する人には減税となるが、多くのユーザーにとってはあまり意味のないものになっている。そもそもハイブリッド車、EVなどはガソリン車と比較するとまだまだ割高であり、多くの人々にとっては手の届きにくいものでもある。公共のチャージステーションなどのインフラ整備もまだまだだ。
今年の場合コロナ禍により経済的に苦しい人も増加している。
新車販売台数は前年同月比で3月は10.2%減、4月は25.5%減、5月は40.2%減、6月は同26.0%減、7月は同20.4%減、8月は同18.5%減、9月は同15.6%減となっている。(日本自動車販売協会連合会の発表より)。
5月の落ち込みから4カ月連続で改善、と明るいニュースのように扱われているが、実際には過去12カ月連続で新車販売台数は前年同月を下回っている。
オンラインで免許更新できる米国
産業の衰退を憂えるならば、まず税制や免許取得、車検などの制度改革から着手すべきではないだろうか。
またデジタル庁の新設、マイナンバーカードと免許証の一体化なども提言されているが、日本の対応は非常に遅い。
米国の場合、コロナ禍により今年から免許更新は完全にオンラインで行えるようになった。IDチップが組み込まれたスマート免許証の交付もすでに始まっている。
一方の日本では、免許の更新方法によって、試験場の予約を取るのに3カ月以上かかるのが現状だ。例えば老母は高齢者講習を必要とする更新のため、12月の誕生日に失効する免許更新の申し込みを9月に行ったが、年内は運転免許試験場の予約が取れない状況だった。
フランスは1日で切り替え、日本はなんと3カ月
私はフランスの免許を日本のものに切り替えようとしたが、この切り替えも予約が取れるのが3カ月先と運転免許試験場に言われた。フランスの免許はスイスなどと並び、無試験で日本の免許に切り替えられる数少ない国のものなのだが。
一方でフランスに住んでいたころ、日本の免許を現地のものに切り替えたのだが、「欧州で一番行政手続きが煩雑」と言われるフランスでも多少並ぶことを我慢すれば即日で切り替えが可能だったことを考えると、日本の制度はあまりにも旧態依然としている。
自動車関連の税と車検と免許などの更新手続きには大幅な改善の余地がある。
携帯電話会社に圧力をかける前に、政府としてこの問題をしっかりと協議してほしい、と考える人は多いはずだ。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)