電動バイクベンチャー「テラモーターズ」がテスラの逆張りで「貧困層」をターゲットにするワケ
電気自動車(EV)のスタートアップ企業、テラモーターズ(東京・千代田区)がインドで「オートリキシャ」と呼ばれる電動3輪タクシーの製造・販売に乗り出し、成長している。2代目社長の上田晃裕氏にコロナ禍にありながらインドで成功した秘訣を聞いた。
--世界中が新型コロナウイルス感染拡大に見舞われましたが、インドでの3輪EVの販売が好調と聞いてます。
■上田晃裕 私達は、インドでEリキシャと呼ばれる3輪車を販売してますが、昨年度(3月決算)が1万2000台。今年はコロナ禍に見舞われ販売計画を下げたのですが、感染のピークが過ぎた9月以降は好調に転じ、今年度は1万5000台を見込めます。
暦年では昨年に1万5000台を販売。インドのEリキシャ市場は年10万台なので、シェア15%。インドではトップ企業です。
今後拡大が予想される3輪ガソリン車市場は年50万台の市場です。
雇用を守る「日本型経営」が奏功
--コロナ下で、逆に販売を伸ばせた理由は。
■上田 競合するガソリン3輪車や3輪EVメーカーの多くは、前年比50%以下に落ち込んでいます。当社が前年度を大きく更新できるのは、いわゆる"日本流の経営”が奏功したためです。
インドでピークには100万人を数えた感染者はいま60万人に減り、これに比例して需要は乱高下しました。当社は、日本流に在庫管理や販売管理を徹底させて対応した。
さらに、競合のなかには社員をリストラしたり、賃下げをする会社もあったが、当社はやはり日本流に雇用を守り、給料も下げなかった。この結果、社員も安心して働けて、需要の急回復にも応えられたのです。
部品の65%は中国製
--難しいとされるインドビジネスですが、これまで失敗はあったのですか。
■上田 インドへは14年に参入し15年から本格展開しましたが、当初はうまくはいかなかった。というのも、部品調達から組み立てまで、すべてをインド国内で賄ったのですが、製品品質が安定しなかったからです。
17年度の初めに私が入り、それまでの体制を刷新。技術レベルの高い中国からの部品調達を7割にして、高品質化を実現させ、売れるようになりました。
いまでも、メーターやボディー、シャーシーなど調達の65%は中国から。電池、モーター、コントローラー、タイヤなど35%はインド国内からです。
インドに集中し上場も射程に
最終組み立てを拠点であるインド東部の西ベンガル州コルカタで行っています。工場では70人が働いていて、みなインド人です。販売代理店は、5年ほどで250社になりました。バイクや車の修理工場、不動産など他にビジネスをやっている会社など多様です。コロナ禍でも販売網を拡大させてます。
実はバングラデッシュでもインドとほぼ同時期に、Eリキシャを私がゼロから立ち上げた。一時は10億円規模に成長させましたが、19年に撤退します。
というのも、バングラデッシュには税制や交通法規を決める3輪EVの定義がなく、ローンも使えないなど事業の将来に対し不確定要素が多いためでした。
実は当社は東京証券取引所への上場を計画していることもあり、インド集中に切りかえたのです。
モディ政権のEV普及策
--インド政府はEVの普及に前向きですか。
■上田 貿易赤字を改善するため原油の輸入低減や、都市部の大気汚染解消を目的に2輪、3輪、4輪のEV化を推進中です。
EV購入時の補助金に加え、電池や部品の国産化を目指している。いまのところ、24年には3輪車を、25年には150cc未満の2輪車の販売のすべてをEVにする計画をモディ政権は打ち出しています。
先輩企業が培ってきた日本の信頼感
--数字のゼロを開発した数学大国のインドです。日本人や日本企業は、インドの人々からどう受け止められていると感じていますか。
■上田 インドのみなさんからの、日本に対する信頼はとても厚い。スズキをはじめトヨタなど先輩たちが、インドでしっかりとした経営を長期にわたり実行してきたからだと痛感します。
コロナ禍もそうですが急な変化が発生しても、欧米企業と違い日本企業は人員削減などをしません。先輩企業が培ってきたインド国民からの信頼感は、我々のような新規参入者の力となっています。「日本の会社です」と言うと、サプライヤーや代理店の開拓はやりやすい。ありがたいです。
当社製Eリキシャの価格は約20万円ですが、モーターとコントローラーは購入後、1年以内に不具合があった場合は無償交換しています。日本のやり方を取り入れています。
インドの生活者に寄り添う3つのこだわり
--米EVベンチャーのテスラは当初、高級車を相次いで投入した後、普及タイプの「モデル3」を商品化し世界シェアのトップに立った。時価総額ではいまやトヨタや独VWを凌駕してますが、テスラは富裕層をまずはターゲットにして成功した。対してテラモーターズは真逆のビジネスモデルに見えます。インドの貧困層から始めている。
■上田 私たちには「市場が何もないところからEVを始めよう」という志はありました。インド東部もバングラデッシュも貧しい地域です。そこで、Eリキシャビジネスのコンセプトを次の3つに決めました。
一つは生活者の収入源の手段です。つまり、タクシーだったり、農作物や荷物を運ぶ商用車として使われ、ときには女性が従事する。女性の社会進出を後押しして、これにより子供たちが上の学校に進学できて地域社会そのものが底上げされていきます。
次に、農村での交通インフラとしての利用です。
3つ目は、都市部での、駅から目的地までの「ラスト・ワンマイル」としての利用です。
一部の富裕層ではなく大多数の生活者に寄り添いながら、庶民から必要とされる商品を展開していく。プロダクトアウトではなく、あくまでマーケットインなのです。
低所得層でもローンを組めるアプリを搭載
--インドでの今後の展開は。
■上田 今夏から、IoT(モノのインターネット)を利用して当社の電動3輪車「Eリキシャ」の車両を一元管理するアプリの搭載を始めました。
走行データが収集できるだけではなく、ユーザーがローンを滞納したとき、遠隔で車両の動力を遮断できるようにした。これにより、低所得者層に対してもローンを組めるようになりました。
現在Eリキシャには、鉛電池を搭載してますが、リチウムイオン電池(LIB)に切りかえいていく。11月から、インド製、中国製、台湾製、日本製のLIBを使い実証に入りました。2輪EVも来年にはインドで発売する計画です。
売上高は前期の12億円に対し、今期は15億~16億円を見込みます。今後、新たにローン事業を始めるなどで23年度には100億円として、営業利益率10%、純利益で8億円を目指します。Eリキシャの販売台数も、25年には現在の倍以上の3万5000台にしていく計画です。
インド、アジアに向く小型モビリティー
そもそも、エネルギー密度は小さいけれど、エネルギーの伝達効率は高いため、本来EVは小さな車に向きます。もちろん、環境に優しい。インドを皮切りに、アジア、そして世界で、電動小型モビリティーの可能性を追求していく考えです。いずれ、日本国内でも4輪EVを商品化していきたい。
シャープから転職、義父との約束は「3年」
--上田さんは、シャープの社員でした。ベンチャーで働く魅力や求められる人物像について教えてください。
■上田 当社は2010年4月に現会長の徳重徹が創業しました。私は19年10月に就任した2代目社長です。出身は大阪府で、プラザ合意直後の1985年10月生まれです。高校時代はバスケ部主将や生徒会副会長と要職を進んでやる性分でした。
桃山学院大学を卒業した08年、当時絶頂だったシャープに入社。11年から海外で未開拓だった中近東やアフリカ市場の開拓を手掛けます。しかし、大企業はやりたいことが思うようにできなかった。そこで、15年に当社に転職したのですが、この時家内は妊娠していた。娘が心配だったのか、総合商社に勤務していた義父に呼び出され、「3年経ってうまくいかなかったら、再び大企業に転職します」と誓いました。幸いなことに、バングラデッシュ、そしてインドの事業に夢中で取り組み、何とかここまで来ました。苦難はありましたが。
ベンチャーの魅力は、自分の意見を言えてやりたいことが、やりやすいということでしょう。もちろん、責任は伴います。
ホンダの技術者も責任者に
取締役兼CTO(最高技術責任者)の高橋成典は、ホンダの技術者でした。学生時代にはテレビ番組の「鳥人間コンテスト」に出場し、環境保全の意識が高く「地球規模でのCO2削減に貢献するため、EVのスーパーカブをつくりたい」との思いでホンダに入社します。しかし、エンジン開発に従事するばかりで希望する仕事には就けなかったのです。当社に転職して3輪EVの技術責任者に就く。希望した環境技術の職を得たわけですが、高橋がいるのでEリキシャの品質には自信があります。
熱量の大きい人を求めます
就職において、かつて日本にあった「寄らば大樹」「とにかく大企業」という発想をもたない若者が、増えてきたと感じます。自分のやりたいことをやろうとする、その熱量の大きい人を私たちは求めます。国籍、学歴、年齢、男女の差などは問いません。
(聞き手・構成:永井隆・ジャーナリスト)
◇略歴
うえだ あきひろ
上田 晃裕
1985年大阪府堺市出身。2008年桃山学院大学経済学部卒業後、シャープ入社。中近東・アフリカ地域の家電事業拡大に従事。15年3月テラモーターズ入社、アジア4カ国統轄本部長を経て、19年10月に社長に就任