経済・企業コロナで激変するクルマ社会

スキャンダルまみれの新興自動車「二コラ」にGMが注目するのは全米の物流網を水素トラックで制覇したいから⁉

    米新興クルマメーカー、二コラの水素トラック「二コラTwo」(二コラ提供)
    米新興クルマメーカー、二コラの水素トラック「二コラTwo」(二コラ提供)

     米国でこのところ話題を集めている新興自動車メーカー、二コラ。米GMが9月8日に同社の株を11%取得するのと引き換えに20億ドルを支払い、さらに同社が現在開発中の電気自動車(EV)のピックアップトラック「バッジャー」の製造に7000万ドルを支援する、という提携計画を発表した。これにより二コラ社の株は高騰し、一時その時価総額がフォードを超える、という事態まで起きた。

    虚偽データ疑惑で株価暴落の二コラ

     ところがその後、二コラ社に数々の疑惑が持ち上がる。 空売り集団でもある米ヒンデンブルグ・リサーチ社が同社が独自に開発している、と主張する新しいバッテリー・システムは存在しない、独自に製作している、と主張する部品について他社から購入したものだった、また同社が発表した水素燃料の燃料電池車(FCV)のプロトタイプトラック、「二コラ・ワン」があたかも自力走行しているかのようなプロモーションビデオが作られたが、実際には走行能力はなかった、などと指摘したのだ。

     これにより一時上がった二コラ株は大幅に下落、9月8日から5割減となり、GMも提携契約について見直す、としている。

     この事態を受け、同社の創業者であり取締役会長だったトレバー・ミルトン氏は辞任、後任にはGM出身のスティーブン・ガースキー氏が就任し、地に落ちた同社の評判を回復すべく勤める、としている。

     なお問題となった「二コラ・ワン」の情報が同社のウェブサイトから一部削除されている。

    物流大動脈を支えると期待される水素トラック「二コラTre」(二コラ提供)
    物流大動脈を支えると期待される水素トラック「二コラTre」(二コラ提供)

    二コラはEVトラック業界のテスラ

     二コラとは一体どのような企業なのか。

     創業は2014年、ミルトン氏がユタ州ソルトレークシティーで立ち上げた「ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無公害車)のコンセプトを作り出す企業」だった。

     16年に「二コラ・ワン」のプロトタイプを発表、19年にはアリゾナ州クーリッジに2300万ドルで土地を購入、EVトラックの工場を建設し、21年から販売開始、23年には年間3万5000-5万台の製造を目指す、としていた。

     よくEVトラック業界のテスラ、と評されるが、一から立ち上げたEVメーカーであることのほかに、二コラという社名もその理由だ。

     二コラとは19世紀から20世紀初頭に多くの業績を残した発明家、二コラ・テスラがその由来。

     テスラコイルにその名を遺すテスラは、トーマス・エジソンと直流、交流の是非について激しい論争を交わしたことでも知られる。つまりテスラと二コラは1人の科学者の名前を分け合った企業でもあるのだ。

    二コラのEVピックアップトラック「バッジャー(Badger)」(二コラ提供)
    二コラのEVピックアップトラック「バッジャー(Badger)」(二コラ提供)

    EVクレジットが欲しかったGM

     問題は、なぜGMがまだ実車を生産していない未知数のメーカーへの投資を決めたのか、という点だ。これには理由がある。

     GMと二コラの提携契約には「バッジャーによって得られるEVクレジットの80%をGMが保有し、残りも市場価格で購入する権利」が含まれていた。

     米国では企業に対し地球温暖化効果ガス排出の総量規制があり、超過すると罰金が課される。一方でZEVに対してはクレジットが与えられるため、GMはガソリン車両製造による超過をクレジットで相殺できるのだ。

     このクレジットは企業にとって死活問題ともいわれており、テスラが成長できたのも、このクレジットを他社に販売していたことが大きい、と言われている。

    米二コラの水素トラック「二コラTwo」(二コラ提供)
    米二コラの水素トラック「二コラTwo」(二コラ提供)

    二コラの水素トラックが本命

     さらに二コラはFCVの大型トレーラー用トラックヘッドを開発する数少ない企業である。今後EVピックアップ、デリバリー用バン、中型から大型の輸送用トラックのZEV化は自動車メーカーにとって喫緊の課題となる。

     カリフォルニア州が35年からガソリン車両の販売を禁止する、と発表したことが話題となったが、同州はそれに先立って商業用車両の州内での営業について、「2045年までに中型から大型トラックをすべてZEVにする」という方針を打ち出していた。さらにデリバリーバンなどの小型輸送については35年までにすべてZEVにすることが求められている。

    全米を支配するカリフォルニア港の物流網

     カリフォルニアは全米一の人口を持ち、その経済規模は国家としてみても世界で5番目に相当する。ロサンゼルス港は主にアジア方面からの輸出入の要衝で、米国に荷揚げされる輸入貨物全体の20%を占め、取り扱い製品の総額は2760億ドル(約292兆円)に上る(ロサンゼルス港公式ホームページより)。

     また消費の面でも、全米各地からトラック輸送によって同州に物資が運ばれ、住民の元にデリバリーされる。

     こうした商用車両を一気にZEVにする、というのだから、各自動車メーカーがEV商用車の確保に向けて動くのは当然とも言える。

    ロサンゼルス港の水素フォークリフトの実験車両(写真提供:Los Angeles Port Authority)
    ロサンゼルス港の水素フォークリフトの実験車両(写真提供:Los Angeles Port Authority)

    長距離輸送の大型トラックはEVでは無理

     アマゾンでは新興EVメーカー、リビアンに商用バン10万台を発注したが、1万台は22年から稼働、30年までに10万台すべてを投入する、としている。小型から中型のEVデリバリーバンにはChanje、ボリンジャー、AYRO、アライバル、ワークホースなどの米国新興企業があり、それぞれが開発競争を行っている。

     しかし、中型から大型の輸送用トラックとなると話は別だ。長距離を移動するため、EVでは継続走行距離に不安がある、充電時間も非常に時間がかかる、といった問題があるためだ。

     そこで注目されるのが水素を燃料とするFCVなのだ。現在米国内でFCVトラックの開発を行っているのはトヨタなどごく少数で、その意味で大手メーカーが二コラに注目するのも当然と言える。

    テスラのEVトラック「セミ」(テスラ社カタログより)
    テスラのEVトラック「セミ」(テスラ社カタログより)

    スキャンダルでも二コラは「買い」だ

     実際今回のスキャンダルはあったものの、「二コラ株は買いだ」とする経済アナリストもいる。二コラの技術にGMなどの大手が投資すれば、ZEVの大型輸送トラックは実現可能になり、大きなビジネスチャンスが訪れる、という見方だ。

     さらに、フォードがリビアンと、GMがローズタウン(EVデリバリーバンメーカー、ワークホース社からスピンオフしたEVピックアップトラックメーカー)や二コラなどとの提携を行うのは、テスラ包囲網という意味合いもある。

     テスラは輸送用のセミというトラックをすでに発表、21年から発売を始めるとしている。EVピックアップトラックのサイバートラックもある。テスラのセミにはカナダのウォルマートからすでに130台の発注がある。このまま何もしなければ大型輸送トラックの部門でもテスラを止めることができない。

     テスラが水素に手を出す可能性は低いが、同社のバッテリー技術で航続距離の長い大型トラックを開発してくることも考えられる。

    二コラのテスラ超えはあるか?

    二コラTwoのエンブレム(二コラ提供)
    二コラTwoのエンブレム(二コラ提供)

     そもそもカリフォルニアの35年からのガソリン車両販売禁止はニューヨークなど他州にも追随の動きがあり、EVのベストセラーカー「モデル3」を持つテスラにとっては大きな追い風になる。同社の時価総額がトヨタを超えて自動車メーカーとして世界一になったが、それに実態が伴って名実ともに世界一のメーカーとなる可能性もある。

     そうさせないためにも、大手メーカーが乗用車から商用車まで、ZEVのラインナップをそろえることが今後非常に重要となる。

     また米経済の大動脈とも言える大型の輸送用トラックで誰が覇権を握るのかも今後の命運を占うものとなるだろう。

     その意味で、二コラは確かに自社を誇大広告してつまづいた感もあるが、経営陣が刷新されてGMの資金力を得ることで大化けする可能性は残されている。

     FCVの普及のためには水素燃料インフラ、安全性の確保など様々な問題はあるものの、大型トラックを駆動できるほぼ唯一の動力源として水素は今後も注目を浴びるだろう。

     グローバルでの競争も激化する傾向があり、水素を巡る自動車メーカーの提携・再編は今後も進みそうだ。

    (土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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