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航続距離が日本車の約2倍! 中国製EVが日本車を性能で凌駕しつつあるという残念な現実  

    威馬汽車(WMモーター)のEVコンセプトカー「Maven」は航続800キロ(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)
    威馬汽車(WMモーター)のEVコンセプトカー「Maven」は航続800キロ(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)

     近年販売台数を急激に伸ばしている中国の電気自動車(EV)メーカーは9月下旬、北京で開幕したモーターショーで、航続距離800キロメートルのコンセプトカーを初公開し、勢いを見せつけた。中国国内最長となる706キロを実際に走ることができるとするEVを展示するメーカーもあり、近年着実に力をつけてきた様子がうかがえる。この航続距離は日系メーカーが中国で投入しているEVの能力を大きく上回る。

    航続距離は日本車の約2倍

     新興EVメーカーの威馬汽車(WMモーター、上海市)は北京モーターショーに合わせ、コンセプトカー「Maven」を初披露した。航続距離は800キロで、現在販売中の中国EVの最長距離を大きく上回る。量産モデルの発表は2021年末を予定しており、あと1年余りで公道を走ることになりそうだ。

    航続距離706キロのセダン、小鵬汽車(Xpeng)のP7(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)
    航続距離706キロのセダン、小鵬汽車(Xpeng)のP7(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)

     同じく新興EVメーカーの小鵬汽車(Xpeng、広東省広州市)は、4月に発売したばかりの航続距離706キロのセダン「P7」を展示した。706キロは現時点での中国EVの最長距離で、700キロを超える中国EVは同車だけだ。車載電池は中国車載電池最大手CATL(寧徳時代新能源科技=Contemporary Amperex Technology)の製品を採用している。

     新興EVメーカーで販売台数トップの蔚来汽車(NIO、上海市)のブースでは、売れ筋のSUV(スポーツタイプ多目的車)の「ES6」が展示された。航続距離は610キロ。P7には及ばないものの600キロを上回る。車載電池はやはりCATL製だ。

    蔚来汽車(NIO)の売れ筋SUVのEV「ES6」(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)
    蔚来汽車(NIO)の売れ筋SUVのEV「ES6」(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)

     日系メーカーが中国で投入しているEVの航続距離は現時点で470キロが最長。中国EVとの差は歴然だ。

    設立6年で世界トップ「CATL」の従業員数はなんと!

     中国EVが採用している車載電池は基本的に中国製で、うち5割前後がCATLの製品とされる。

     CATLは2011年に設立されたばかりにもかかわらず、わずか6年後の17年には世界市場で販売トップに躍り出た成長目覚ましい中国メーカーだ。

     好業績を支えるのは豊富な研究開発のスタッフ。昨年末時点で5364人を数える。日系自動車メーカーのA氏は「CATLの開発スタッフの規模は大手完成車メーカーのそれに匹敵する」と驚きを隠さない。

    一人乗りドローンの試作機を発表する小鵬汽車(Xpeng)の何小鵬CEO(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)
    一人乗りドローンの試作機を発表する小鵬汽車(Xpeng)の何小鵬CEO(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)

    16年使用可能な長寿命電池を開発

     CATLは今年に入って矢継ぎ早に新技術の開発を打ち出している。中国メディアなどによると、5月には正極材料にコバルトを使用しないリチウムイオン電池の研究開発を進めていると明らかにした。

     CATLは米テスラと電池供給で合意しており、供給に際して価格が高騰傾向にあるコバルトを使用しない電池を選択肢の一つとして考えているようだ。

     6月には16年使用可能な長寿命電池の開発を進めていると明かした。長寿命電池の製品ライフサイクル期間における累計走行可能距離は200万キロメートルを見込んでいる。8月にはシャシーと電池を一体化する新技術を用いて、EVの航続距離を800キロ超とする研究に取り組んでいると表明。30年までに実用化を目指すと意気込んでいる。

    航続距離400~500キロは当たり前

     数年前、日系自動車メーカーの関係者B氏は「EVの航続距離は400キロが一つの目安となる」と教えてくれた。

     400キロという距離は、例えば、家族で少し遠出をしても途中で充電することなしに家まで帰ってくることができる距離なのだという。当時、航続距離400キロを超える中国のEVは少なく、「航続距離400キロ超」との見出しが躍る中国メディアの記事を読んでみると、たいていは時速60キロの等速運転時での数字で、実際には300キロ台ということがたびたびあった。中国メディアが自国のEVのために見栄を張ったのか、見出しに「下駄を履かせていた」のだ。

     しかし数年たった今、状況は一変した。

     今や航続距離で400キロや500キロを超える中国EVは珍しくない。北京モーターショーでも500キロ、600キロの中国EVがずらりと並んだ。

     10月に発売されて話題となった「ホンダe」は欧州の街乗り仕様とはいえわずか280キロである。

    BYDは「刀片電池」で安全性能をアピール

    安全面に配慮したブレードバッテリーを掲載したBYDの漢EV(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)
    安全面に配慮したブレードバッテリーを掲載したBYDの漢EV(2020年9月の北京モーターショーで筆者撮影)

     数年前、日系自動車メーカーのC氏は、日本EVと中国EVについて「安全性は日本のEVが上だ」と力説していた。

     確かに中国EVは年に数回ほど、どこかしらのメーカーが車両の発火事故を起こすが、日本のEVについてはそうした報道を目にしたことがない。

     一方で、中国EVの技術面でのキャッチアップは目覚ましく「正直、脅威に感じる」(C氏)とも述べた。その脅威は今、現実のものになろうとしているのかもしれない。

     安全面にやや難のあった中国EVだが、これを克服すべく開発された新型電池が登場した。新エネルギー車(NEV)中国最大手で、車載電池も手掛ける比亜迪(BYD、広東省深セン市)が「ブレードバッテリー(刀片電池)」と名付けた新型電池を発表したのだ。3月に量産を始め、7月に発売した新型セダン「漢EV」に初めて搭載した。

     ブレードバッテリーはリン酸鉄リチウムイオン電池だ。従来よりもセルが薄く長いため、その形状から「ブレード(刀片)」の名を冠した。

     一般的な「角形」と比べ、束ねてバッテリーパックにした際の体積が小さくなるため、エネルギー密度が高い。

     中国メディアなどによれば、安全性も重視しており、BYDは電池に強い電圧をかける安全試験を公開。角形は発火したが、刀片には異常が起きなかったという。中国EVの度重なる発火事故を意識した安全性能のアピールとみられる。

     BYDの関係者によると、このブレードバッテリーは自社車両への搭載だけでなく、外部の自動車メーカーへの販売を目指しており、現在商談を進めているという。

     BYDは北京モーターショーで、ブレードバッテリーを搭載した漢EVを数台展示。真っ赤なカラーの車両を中心に存在感を放っていた。

    (川杉宏行・NNA広州)

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