ファーウェイがスマホで世界一になったように、いずれEVも「中国独り勝ち」の衝撃……ハイブリッド車主力の日本車の敗戦は避けられないのか=北京モーターショールポ
近年着実に力を付けつつある中国の電気自動車(EV)だが、時価総額でトヨタ自動車を上回った米テスラとは中国市場でどのように勝負していくのだろうか。
9月下旬に開幕した北京モーターショーのテスラのブースを訪れると、テスラ車を一目見ようとする来場者で大賑わいだった。中国EVのブースでは見られなかった「憧れのまなざし」が車体に注がれている。テスラ車を所有することは中国人にとって一種の「社会的ステータス」なのだ。
販売台数では「憧れのテスラ」に軍配
北京モーターショーに展示された中国EVのうち、蔚来汽車(NIO、上海市)のSUV(スポーツタイプ多目的車)の「ES6」、比亜迪(BYD、広東省深セン市)のセダン「漢EV」、小鵬汽車(Xpeng、広東省広州市)のセダン「P7」を、テスラの主力セダン「モデル3」と比較してみた(表参照)。
販売台数ではテスラに軍配が上がる。
中国の自動車情報サイト「車主之家」のまとめによると、7月の販売台数はテスラのモデル3が1万1014台。次いでNIOのES6が2825台、BYDの漢EVが1205台と圧倒的な差を付けられている。
P7の7月販売台数は明らかでないが、Xpengが発表した7月の納車台数は1641台。ここ1~2年の中国EVの販売台数(特に新興EVメーカーの販売台数)を見ると、月間で1000台を超えるEVは「勝ち組」と言ってよい。
確かにこれらの中国EVはいずれも「勝ち組」ではあるが、テスラとは桁が1桁違うのが現実だ。
庶民の手に届く価格となったテスラの現地モデル
価格面はどうだろうか。
車体サイズが大きいES6は日本円にして500万円以上と高額な印象だが、漢EVとP7は300万円台で価格競争力があるといえそうだ。
一方で、ある日系企業金融関係者は、昨年後半にテスラが中国現地生産を始めたことが中国EV市場の一つのターニングポイントになる可能性があると指摘する。
テスラ車はそれまで輸入されていたが、昨年後半に現地生産モデルが登場したことで価格が初めて30万元(約470万円)を切った。前出の金融関係者は「テスラ車の価格が30万元を下回ったことが、中国人に衝撃を持って受け止められた」と話す。これまでは「富裕層のためのEV」だったテスラ車が、現地生産により「手が届くEV」に変化したというわけだ。
性能はテスラとほぼ互角
性能面ではどうか。
航続距離はほぼ互角と言えそうだが、P7のハイエンドモデルは706キロと頭一つ抜け出ている。また、静止状態からスタートして時速100キロに到達するまでの所要時間は、モデル3の四輪駆動モデルが3.4秒、漢EVの四輪駆動モデルが3.9秒と、こちらもほぼ互角と言えそうだ。
充電インフラでも競争
充電インフラの整備でも各社はしのぎを削る。
テスラが中国全土に設置した急速充電スタンドの数は既に1万7000基を超えている。充電ステーションは1900カ所を超えており、毎週平均6カ所のペースで設置を進めている。
NIOは車載電池の交換ステーションを各地に設置。全自動式でわずか3分で電池の交換を完了する。ほか、走行中に充電が切れた時に備え、言わば救急車のような充電設備搭載車両を用意している。
Xpengは同社製車両のオーナーに対し、指定の充電施設で毎年3000キロワット時(kW/h)分の電力を無料で提供するサービスを打ち出すなど、各社は激しく競っている。
EVもスマホと同じで中国製が圧倒する時代が来る?
総じて考えると、価格や性能では中国EVもテスラ車にさほど見劣りはしないと思われるが、「テスラ信仰」とでも言うべき中国人の「テスラ・ブランド」に対する思い入れは強く、今すぐテスラ車に追い付き追い越す中国EVが登場するとは考えづらい。
ただ、中国EVが今のペースで技術力を向上させていけば、数年後には違った風景が見えてくるのかもしれない。 かつては米アップルのスマートフォン「アイフォーン」が中国のハイエンドスマホ市場を席巻していたが、ここ数年はファーウェイやOPPO、vivoなど中国製スマホに押されている。類似の状況が自動車業界で起こらないという保証はない。
CATLと関係強化に走るトヨタ、ホンダ
日系自動車メーカーが中国に投入しているEVの航続距離はトヨタが400キロ、日産が338キロ、ホンダが401~470キロだ。現時点では中国のEVに劣るが、最初は控えめでもいつの間にか出し抜くことが得意な日系メーカー。今後の動向が注目される。
トヨタとホンダの2社は現在、CATL(寧徳時代新能源科技=Contemporary Amperex Technology)との関係強化に向けて一つずつ手を打っている。
ホンダは7月、CATLの第三者割当増資を引き受け、同社株の約1%を取得したと発表した。中国法人を通じて37億300万元(約584億円)相当の新株を引き受けた。CATLと車載電池の調達で協力するとしており、22年をめどに、ホンダが中国で生産するモデルにCATL製電池を採用する予定だ。
トヨタは昨年7月にCATLと電池供給や技術開発で提携している。
トヨタ・ホンダは「ハイブリッド車」で側面攻撃
こうした協力強化の成果が形となって表れた時、日本EVの「反撃」が始まるのだろうか。
別の見方もある。中国EVに対し、「正面作戦」はとらないという見方だ。日系自動車メーカーのD氏によると、中国政府がこれまで新エネルギー車(NEV)として認定してきたのはEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)で、これらの車種を優遇する一方、ハイブリッド車(HV)は意図的に「冷遇」されてきたという。
ガソリン車やHVを生産するには、メーカーに「車体全体を制御する能力」が求められるため、一朝一夕では技術のキャッチアップが難しい。
一方で、EVは極端に言えば「車体にモーターを載せるだけ」でできあがってしまうので、後発の中国勢が優位に立てるとの打算が働いていたというのだ。
中国政府はEVとPHVをメインにNEVの普及を進めてきたが、最近になってこのままでは政府目標の達成が難しいとみてか、HVにも優遇措置を適用し始めた。
HVは日系メーカーの得意とするところで、この追い風に乗って中国EVとは「正面対峙」せずに、HVを主体に「側面攻撃」をしかける可能性も排除できないという。
コロナで減速したEVの販売スピード
中国の自動車団体「中国汽車工業協会」によると、米中貿易摩擦による景気低迷が起きる前の17年、中国市場におけるEV販売台数は前年比82.1%増の46万8000台と急成長を遂げていた。
だが、18年と19年は景気低迷の影響や政府補助金の減額などを受け、それぞれ50.8%増の98万4000台、1.2%減の97万2000台と次第に勢いを失っていった。
今年に入ってからは新型コロナウイルスの影響もあいまって、1~8月の累計販売台数は前年同期比27.8%減の46万6000台とさらに落ち込んだ。
ただ中国政府の政策支援によるてこ入れもあり、7、8月は単月でプラスに転じるなど盛り返しの動きも見られ、今年後半の持ち直しが期待されている。
世界最大の自動車市場・中国を巡るEVの争いは今後も激しさを増しそうだ。
(川杉宏行・NNA中国編集部)