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トヨタ、日産、ホンダが保険会社になる日が来る?米GMが保険市場に参入!テスラが壊したビジネスモデル

    自動車保険はスマホで審査も契約もする時代(GM系のオンスター・インシュランスのウェブサイト)
    自動車保険はスマホで審査も契約もする時代(GM系のオンスター・インシュランスのウェブサイト)

     米GM(ゼネラル・モータース)が11月18日、自社の自動車保険会社となるオンスター・インシュランス・サービスを開業し、25日に実際の保険業務に乗り出すことを発表した。自動車メーカーが提供する独自の保険としてはテスラに次いで2番目。テスラが壊した自動車を頂点とするビジネスモデルは崩壊し、今後自動車メーカーが保険業に参入する流れが鮮明になる可能性もある。

     トヨタ自動車は、あいおいニッセイ同和損害保険の筆頭株主ではあるが、今後トヨタ本体が自動車保険に参入する動きも加速してくるかもしれない。

     GMのブランド・イノベーション・コミュニケーション部門のスチュアート・フォウル氏は同社の保険について「まずは従来の保険に近い形でスタートするが、利用ベースでの課金制度を徐々に取り入れ、安全かつ公平、パーソナライズされ、使い勝手の良いデジタル保険をドライバーに提供するのが目的だ」と語った。

    GMのメアリー・バラ会長
    GMのメアリー・バラ会長

    主流は走行距離に応じた保険に

     これが意味するところは、米国で最近スマホを使ったペイ・アズ・ユー・ゴーという走行距離に応じた保険料を支払う新方式が自動車保険の新しい保険の主流となる可能性があるということだ。従来の年間固定の保険とは異なり毎月保険料が変動するもので、GMは傘下のオンスター・コミュニケーションシステムを通して提供する。

    いまや自動車保険はスマホで審査、加入の時代

     走行距離に応じた保険の提供で注目されたのはサンフランシスコに本社を置くメトロマイル社だ。

     同社はスマホで申し込み、審査が可能だ。また利用者にはデバイスが無料で送付され、これを車に取り付けることで1日の走行距離がマップと共に示される。

     毎月の保険料はこの走行距離を計算して割り出され、全く運転をしなかった場合は基本料金のみとなる。

    ウーバーの運転手が広めたメトロマイル

     従来の保険より手軽で安価、としてメトロマイルは一気に人気を呼び、ウーバーが自社ドライバーに提供する保険となったことで全米に広がった。

     今年始めにはフォード自動車がメトロマイルと提携して格安保険を自社のユーザーに提供する計画も発表している。

    テスラは3割安い保険を提供

    米テスラ本社=米西部カリフォルニア州で2016年9月、清水憲司撮影
    米テスラ本社=米西部カリフォルニア州で2016年9月、清水憲司撮影

     そしてテスラ。昨年からカリフォルニア限定ではあるが独自の保険を提供し始めた。そのきっかけはユーザーからの「テスラの保険が高い」という声だった。テスラ車はアルミ製のボディであるため、修理が普通の車よりも高い。さらにEVの修理という点でまだ不明な点が多いため、一般の保険会社の査定では高くなる。

     そこでイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)がカリフォルニア在住のテスラオーナーに対し、独自の保険を提供し「およそ20%、最大で30%は安くなる」とした。テスラの車は全て通信手段が搭載されており、ドライバーの走行距離やドライビング習慣などがデータとして入手出来る。そこから独自のアルゴリズムを生み出した。

    テスラの4割は保険料収入になる

     マスク氏はこの保険業務に手応えを感じているようで、今年になってから「将来はテスラビジネスの3-4割を保険業務が占めることになるかもしれない」とも語っている。保険を提供することでユーザーの囲い込みにもつながり、さらにビッグデータが集まることで将来の自動運転ソフトのアップデートにも役立つ、というまさに一石何鳥にもなり得る旨味がある。

     GMとしてはこれに黙っていられない。同社は1925年から2008年まで独自の保険を自動車メーカーとしては初めて設置、維持してきた。しかし一度経営が破綻したことから保険業務からは撤退している。

     しかし最近の利用ベース保険の人気、IoT(モノ同士のインターネット)技術の進化、そして利用者データを確保する、という側面から新たな保険業務の重要性を無視できなくなった。

     GMのサービスは来年からだが、来年末には全米に広げる、としている。またGMユーザーだけではなく、オンスターシステムを搭載する他社の車でも利用できる。実現すればユーザーベースではテスラの遥か上を行く最大級の自動車保険に成長する可能性もある。

    大手保険会社は抱き合わせに活路

     一方でこれを迎え撃つ大手保険会社はシェアを大幅に取られるため深刻だ。

     大手のひとつであるステートファーム社は「わが社の保険は総合力であり、他の商品との抱き合わせなどで自動車メーカーが提供する保険よりもメリットが大きい」と語る。つまり異なるメーカーの車を2台以上所有している場合に割引料金が適用される、家庭用保険と組み合わせることができる、などの幅広い商品ラインナップを用意しており、今後は走行距離に応じた利用ベースの保険オプションの提供も視野に入っている。

    ディーラー外しのビジネスモデル

     しかし、GM系のオンスターやメトロマイルの保険サービスにおける急激な変化を見ると、テスラのディーラー網を持たない販売方式に類似していることが分かる。

     保険会社もまた代理店を通して販路を拡大してきたが、スマホで簡単に保険に申し込めるサービスが次々と現れ、従来のビジネスモデルが今後は通用しなくなってきている。ダイレクトに保険を提供することで、ユーザーにも料金が安くなる、という特典が与えられ、一度こうしたサービスを利用すると元には戻らない人が多いのだ。

     つまりディーラーを通さずメーカーから直接車を販売するテスラ方式が伝統的な自動車販売のビジネスモデルを崩したように、保険業界もメーカーが独自の利用ベースサービスを提供する、という流れに巻き込まれ始めている。

    トヨタ、ホンダを巻き込む保険再編の波が来る

     保険の提供は自動車メーカーにとって自社のユーザーのロイヤリティを高め、ユーザーデータを独占できる、というメリットがある。自動運転には膨大なビッグデータが必要で、データ収集は企業にとって金銭以上の価値がある。

     こうした動き、日本でもトヨタ、日産、ホンダが開始する可能性があり、保険業界は今後大きな再編の波にさらされるかもしれない。

    (土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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