米GMがトランプを見限り、バイデン支持に回ったカリフォルニア州の排ガス規制のすさまじい影響力

米GM(ゼネラル・モータース)が11月23日、これまで後押ししてきたトランプ政権の反環境的政策から外れることを発表した。トランプ政権は、カリフォルニア州が定める独自の排ガス規制が連邦政府の規制と異なり、「違憲である」という姿勢を打ち出し、トヨタ自動車をはじめ多くの自動車メーカーはこの政策に賛同の意を示してきた。しかし、ついにGMはトランプ政権を見限り、環境重視の排ガス規制を支持する側にまわった。バイデン政権誕生とともに他の州もカリフォルニア州に追随する可能性が高く、全米最大の規模を誇る自動車市場での対応が今後の自動車メーカーの業績に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。
トランプ側に回った自動車を排除してきたカリフォルニア州

トランプ大統領は度々カリフォルニア州に対し「連邦政府の決定に従わない州には連邦政府から自治体への予算配分を見直す」などと脅してきた。環境問題のみならず、不法移民への対応などカリフォルニアはことごとく独自路線を歩んできたことでも知られている。
対するカリフォルニア州政府側も、トランプ政権側についた自動車メーカーとしてGM、トヨタ自動車、FCA(フィアット・クライスラー)、日産、マツダ、スバル、現代自動車などから政府の公用車を購入しない、と昨年11月に発表していた。
一方で州の方針に協力的な企業としてはフォード自動車、独BMW、ホンダ、独VW(フォルクスワーゲン)などが挙げられ、これらの企業から重点的に公用車を購入する、とした。
カリフォルニア州は同時に昨年11月以降、ガソリンエンジンのみを搭載した乗用車を公用車としては購入しないことも決定しており、現在購入が認められているのはハイブリッド車、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)のみとなっている。
カリフォルニア州の公用車の4割がGM製
この決定は、特にGMにとって大きな打撃となった。州政府は2018年の1年間だけで、GM車両を2700万ドル分も購入している。同州の公用車予算は年間7400万ドルという米国でも最大級のもので、うち37%近くをGMが占めていた。
全米22州がカリフォルニアの排ガス規制に追随へ
しかもカリフォルニア州の独自排気ガス規制に追随しよう、という州はニューヨーク、マサチューセッツなどを始め22州もある。そうした州が今後カリフォルニアと同様に「トランプ政権側についたメーカー」からの公用車購入禁止というボイコットを行えば、その影響は決して小さくない。
カリフォルニア州のボイコットが実施されたのは今年1月からだが、今年の自動車メーカーの販売はコロナでどこも苦戦している。
公用車やレンタカーといった需要は景気や人気などに左右されない固定需要としてメーカーが計上できるものだったが、今年はレンタカーも大手ハーツが倒産するなど、新規購入を控えるところが増えている。
もちろんボイコットだけがGMのこれまでの方針転換を促した理由ではない。11月23日現在、トランプ政権はほぼバイデン次期大統領への移行を認める形となり、今後の米国では環境政策が注目される存在となることは確実になった。
脱化石シフトに本腰のGM

GMは「北米で販売する車の40%を2025年までにEV化する」と発表している。またEVピックアップトラックメーカーであるローズタウンや水素燃料の大型トラックを製造するニコラへの投資など新たな環境路線、脱化石燃料シフトを強烈に打ち出していた。
実際にバイデン政権担当となれば、これまでトランプ政権下で進められてきた排気ガス基準はオバマ政権時代のものへと逆行し、さらに強化されることはほぼ確実だ。
カリフォルニア州も2035年から州内でガソリン・ディーゼルエンジンの車の販売を禁止することを決めており、GMはこうした現実と向き合ったとも言える。
トヨタ、日産はどうする?

GMのメアリー・バラ会長は23日、「(カリフォルニア州への)訴訟準備をただちに停止し、他の自動車メーカーも我社と同様の動きになることを期待する」という書簡を発表し、これに対しバイデン次期大統領は「トランプ政権の環境政策がどれほど近視眼的なものであったかを企業が認めた」とコメントした。
GMの動きはまさに手のひら返しとも言えるが、ホンダ以外はGMの側だった日本のメーカーは今後どうするのか。カリフォルニアに決定を撤回させる訴訟準備を続けるのか、それとも今後の政権の動きを静観するのか。
今後の動きが注目される。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)