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トヨタが米メディアに酷評される理由  2035年問題を甘く見る日本のクルマのお寒いミライ

    「トヨタ社長はテスラのミッションを理解していない」と報じた米CleanTechnicaのウェブサイト
    「トヨタ社長はテスラのミッションを理解していない」と報じた米CleanTechnicaのウェブサイト

     2035年からガソリン・ディーゼルなどの内燃機関(ICE)搭載車両の販売を禁止することを掲げる国が増えている。米国でもカリフォルニア州が推進しているが、欧州では最早この流れは定着、さらには中国も同じことを表明した。日本は菅政権が2050年の脱炭素化を発表したものの、世界的に見ればこの時点で取り残されている。

     現時点でこの2035年問題を解決できるのはバッテリーで動く電気自動車(BEV)もしくはプラグインハイブリッド(PHV=大半の走行はバッテリーで必要に応じてガソリンでモーターをサポート)、燃料電池車(FCV)のみだ。

    現代、ボルボ、フォード、GMのEVシフト

     2035年問題に備え、例えば現代自動車は来年には20以上のEVモデルを発売する、としているし、ボルボは今後発表する新型モデルはすべてEVに移行する。

     フォード自動車も2つのモデルを除いてはガソリンで走る乗用車をすべて廃止、EVモデルに移行の方向、また11月19日にはGM(ゼネラル・モータース)が2025年までに米国内で販売する車の4割をEVにする、と発表した

     中国や米国の新興メーカーも次々とEVの発売に乗り出し、今後のEV市場の競争は激化するだろう。

     ガソリン・ディーゼル車両は世界の多くの国で2035年から販売が禁止になるのだ。それに向けて各メーカーはEV化を推進せざるを得ない。

    GMは食品スーパー、レジャー施設など交通量の多い2700カ所に急速充電設置を計画(同社提供)
    GMは食品スーパー、レジャー施設など交通量の多い2700カ所に急速充電設置を計画(同社提供)

    米メディアが批判した豊田章男氏の発言

     日本ではトヨタがFCVの「ミライ」量産化を発表したが、FCVは水素充電のインフラがまだまだ発達しておらず、すぐに売れる車にはならないだろう。2035年はまだ15年先であり、その時に売れる車があれば良い、という考えでは潮流に乗り遅れる。

    トヨタの新型FCV「ミライ」の燃料電池で証明器具やストーブをつけ、「動く蓄電池」としての機能を確認する小泉環境相(右端)=環境省で2020年11月10日午後0時21分、鈴木理之撮影
    トヨタの新型FCV「ミライ」の燃料電池で証明器具やストーブをつけ、「動く蓄電池」としての機能を確認する小泉環境相(右端)=環境省で2020年11月10日午後0時21分、鈴木理之撮影

     トヨタの豊田章男会長は11月6日の会見で「テスラには未来のレシピがあるかもしれないが、トヨタには『キッチン』もあれば『シェフ』もいる。リアルな料理を作り、リアルな料理を目の前で食べていただける口うるさいお客様もおられる」と語り、EVだけではなく、ハイブリッド車(HV)、FCVなど電動車両の品揃えが豊富なトヨタが一番選ばれる、(テスラの)一歩先を行っているのではないか、と自信を見せた。

     この発言に対し、米CleanTechnicaがウェブサイト上で「トヨタ社長は明らかにテスラの使命、レストラン業界を理解していない」という記事を発表した。

    https://cleantechnica.com/2020/11/08/toyotas-president-clearly-doesnt-understand-tesla-its-mission-or-the-restaurant-industry

    「利益を追わないテスラ」が理解できない

    コロナショック後にいち早く生産を再開した米テスラのカリフォルニア州の組み立て工場(撮影:土方細秩子)
    コロナショック後にいち早く生産を再開した米テスラのカリフォルニア州の組み立て工場(撮影:土方細秩子)

     確かに世界最大級の自動車メーカーであるトヨタと比べれば、テスラの販売台数、生産能力はまだ微々たるものだ。

     しかしテスラは「自動車メーカー」ではない。ソーラールーフで電力を生み出し、それをEVに蓄え、パワーウォールにより家庭の電力供給を行う、という総合的な再生エネルギーの利用を提案する企業なのだ。

     この記事では「そもそも業種が違うテスラに対し、一歩先を行っている、という感覚が理解できない」と批判している。テスラ社CEOイーロン・マスク氏は「わが社は利益を追求する企業ではない」とまで発言している。その真意は、テスラは安価なEVを作り、より多くの人に提供することを使命としており、収益マージンは1-2%程度で構わない、というものなのだ。

     しかも現実問題としてテスラはEVという分野のベストセラーカーを出し続け、株式時価総額もトヨタのそれを大きく上回っている。今年1-3月期、カリフォルニア州ではテスラのモデル3はトヨタカローラよりも売れているのだ。

     そしてついにこの12月には世界中の投資信託がベンチマークとするS&P500入りすることが確実となった。

    実は収益率も高くなる可能性があるテスラ

     トヨタが自信を示せるのは、同社が年間900万台の車を売り上げる世界で一、二を争う自動車メーカーであるためだ。しかしトヨタの売上は過去5年、ほぼ横ばい状態だ。一方のテスラは前年比5割増の成長を続け、米リサーチ会社トレフィス社では2030年にテスラの売上は430万台に達する、という見通しを発表している。

     トヨタの当期利益率は過去5年で5.5%(今期見込み)~8.5%で推移しているのに対し、テスラのそれは昨年までマイナスだったが今年は6%、2030年には18.5%にまで上がる、とトレフィス社は推測している。バッテリー価格の下落や大量生産によるスケールメリットが予想されるためだ。

     さらにテスラはディーラー網を持たず、スマホからの申込みだけで購入できる。広告費も一切使わず、派手な広報活動も行わない。それだけ収益率が高くなる。

    8割が「次もテスラに乗りたい」

     トヨタをはじめ多くの大手自動車メーカーが警戒すべきは、テスラユーザーのロイヤリティの高さだ。

     米国の自動車リサーチ会社が行ったテスラオーナーへのアンケートによると、「次にどんな車を買うのか」という質問に対し半数近くが「モデルY」と答え、以下「モデル3」「サイバートラック」などが入り、全体の8割近くが「次もテスラ」と考えていることが明らかになった。

    米カリフォルニアのステーションで充電されるテスラの車両 (Bloomberg)
    米カリフォルニアのステーションで充電されるテスラの車両 (Bloomberg)

    ディーラーなしでも問題なし

     カリフォルニアに在住する筆者の周囲にもテスラオーナーが多い。彼らに自分の車を気に入っているか、それはなぜか、を質問したところ「乗っていて楽しい」「非常にサービスが良い。ディーラーはないけれど、不具合が生じたらテスラのエンジニアが自宅まで来てくれる」「未来を感じさせてくれる」などの返答があった。

     筆者自身、モデル3を試乗して次に自分が車を買うことがあればこの車だろう、と感じた。

     何よりも気に入ったのはシンプルな内装で、音声コマンドで中央スクリーンの表示を変えることができ、スピードなどのメーター系、バッテリー残量、地図、インターネット、音楽など様々な機能を簡単な動作で見ることができる。

    モデル3が示した「過剰で不要なスイッチ」

    テスラのモデル3のシンプルなデザインのコクピット(2020年9月の北京モーターショーでNNA広州の川杉宏行氏撮影)
    テスラのモデル3のシンプルなデザインのコクピット(2020年9月の北京モーターショーでNNA広州の川杉宏行氏撮影)

     最近の車は至れり尽くせりで実に様々な機能があるが、その分スイッチ類も多い。新車を買って手放すまで一度も触ったことがないスイッチがある、という人も珍しくないのではないだろうか。

     そんな機能は本当に必要なのか、なくても運転が楽しい、ということをモデル3は人々に知らしめることに成功した。だからこそ世界中で多数の支持を集めている。

     無駄を削ぎ落とすことで価格を下げる、という姿勢が今の大手メーカーにはあるだろうか。

    「テスラ超え」目指す新興EVが米中には続々

    リビアン社の電動ピックアップトラックと創業者のR・J・スカリンジCEO(Bloomberg)
    リビアン社の電動ピックアップトラックと創業者のR・J・スカリンジCEO(Bloomberg)

     しかも世界、特に米中ではこのテスラに対抗するために数々のメーカーが斬新なEVを作り出している。

     たとえばアマゾンから10万台のEVデリバリーバンを受注したリビアン、水素トラックが注目される二コラ、リサイクル素材などを多用し、3万ドル(310万円)を切る価格のSUV(スポーツ多目的車)「オーシャン」で注目を集めるフィスカー、GMからの出資を受けるローズタウンなどだ。

     中国でも新興EVメーカーが続々と誕生しており、800キロを超える航続距離をプロトタイプながら達成した威馬汽車(WMモーター、上海市)、小鵬汽車(Xpeng、広東省広州市)、中国の新興EVで販売台数トップのNIO(蔚来汽車、上海市)などが注目を集めている。

     その象徴として、全米最大の公的年金運用機関のカルパース(カリフォルニア退職者年金機構)が、ニコラ、NIOの株を買い増ししていたことがニュースとなった。

    二コラのEVピックアップトラック「バッジャー(Badger)」(二コラ提供)
    二コラのEVピックアップトラック「バッジャー(Badger)」(二コラ提供)

     運営状態に虚偽報告があった、と追求されたニコラだが、市場からも「大型トラックへのFCV導入には将来性がある」と判断されている。ちなみにカルパースはテスラ株も169万株保有している。

     欧州ではHVの強みにあぐらをかき、FCV乗用車開発という独自路線を貫くトヨタだが、それで2035年問題に対応することができるのか。

     豊田章男氏の方向のずれた自信満々発言を聞く限り、時代に取り残されてしまいそうな懸念はある。

    (土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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