バイデン勝利で急変 金利上昇で沈むハイテク株 11月にダウ5000ドル暴落も=神崎修一
米大統領選は、民主党のジョー・バイデン前副大統領が、共和党のドナルド・トランプ大統領に対し、支持率でリードを保ったまま最終コーナーを回った。このままバイデン氏が逃げ切って新大統領に就任し、民主党が議会の上下両院も制する「トリプルブルー」(民主党のイメージカラーが青)も現実味を帯びてきた。(コロナ株高の崩壊)
バイデン氏は、地球温暖化対策とインフラ投資に4年間で2兆ドル(約214兆円)を投じ、製造業支援にも7000億ドル(約75兆円)を投入して、500万人の雇用を生み出す政策を掲げており、当面は財政出動に前向きだ。ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均(NYダウ)は、2万8195ドル(10月19日終値)と高値圏で推移している(図1)。
ただ、市場には、バイデン大統領が誕生すれば、トランプ政権の政策を覆すことで不確実性が高まる結果、世界経済が「急変する」との見方も根強い。
法人増税や、金融企業と米経済をけん引してきた巨大IT企業GAFAM(ガーファム)(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)への規制強化に動くと見られるほか、米国の外交姿勢の変化からドル相場の水準にも影響が出る可能性が高い。
過熱感は最大
高値圏にある株式市場には、落とし穴が見え隠れする。
すでに「過熱」を示している指標がある。著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が考案した株式バブルの度合いを測る「バフェット指数」を見ると、米国株は2000年のITバブル(172%)を上回り、1980年以降で最も高い191%まで上昇している(6月時点)。日本株でも123%と高水準にある。「株式市場の時価総額÷国内総生産(GDP)×100」で算出されるバフェット指数は、目安の100%より大きくなるほど割高とされる。それを大きく上回る今の水準は「いつ調整が起きてもおかしくない」(相場研究家の市岡繁男氏)。
米国の株式市場を長年見続けているストラテジストの松川行雄氏は“金利上昇局面での株価反落”の危険性を指摘する。
実体経済とかけ離れた現在の株高を演出しているのは、各国の多額の財政出動に加え、中央銀行による超低金利政策だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を少なくとも23年末までゼロ付近で維持する姿勢を示唆している。
だが、FRBがゼロ金利政策で市場金利を低水準に誘導しようとしても、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の変化で市場金利が上昇するリスクがある。
今年に入り、北米・南米の穀倉地帯での天候不順や異常気象「ラニーニャ」による穀物生産量の減少や中国の穀物・食肉輸入量の急増は、穀物・肉類の価格を押し上げている。これが引き金になり物価が上がれば、市場金利にも上昇圧力が働く。
低金利が株価にプラスに働いていた業種は、株価が大きく下落する可能性がある。
その典型が、低金利を背景に株価が急騰したGAFAMを筆頭とするハイテク企業群である。これらの企業は、成長率の高さから「グロース(成長)株」と呼ばれ、株価収益率(PER)が高いという特徴がある。金利が上がるとPERは下がるため、業績相場はグロース銘柄には逆風になる。実際、9月初旬に代表的な市場金利である米長期金利(10年国債利回り)が急騰した局面で、アップルの株価は20%超急落した。
金利上昇要因はまだある。「大統領選が終われば、FRBは政権の(緩和を続けるべきという)縛りから解かれて、早ければ12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で引き締めをにおわせるのではないか」(松川氏)。
FOMCで金融緩和の「出口議論」が始まる可能性を、市場が織り込み始めれば、FRBの低金利政策にかかわらず長期金利は上昇していく可能性が高い。
そうなれば、15年末から16年春までの大きな下げ局面の再現もある。15年夏場の人民元切り下げショックで、市場が動揺していたところに、米株の上昇を背景に利上げモードだったFRBが年末、事実上のゼロ金利政策解除を打ち出したことが引き金になり、NYダウが急落。それが各国に波及し、世界同時株安の様相を呈した。
調整はいつ起きるのか。決算期を迎えるヘッジファンドが利益確定のために「益出し」の株売りを行う11月が危ない、と見る向きもある。金利上昇による反落とヘッジファンドの売りが重なれば暴落の可能性も出てくる。
ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真氏は「年内にダウが、今の2万8000ドル台から2万4000ドルまで下げることも十分ある」と指摘する。NYダウが4000~5000ドル下げる局面は、いつでも起き得る。
私的な自社株売る経営者
バイデン政権が誕生し、上院でも民主党が勝利した場合、「年末に向けて米株は底値を付ける」と指摘する大和証券チーフ・テクニカルアナリストの木野内栄治氏は、米S&P500採用銘柄の「内部者取引売り比率」に注目する。
この比率は“内部者”すなわち上場企業の経営幹部が、私的に保有する自社の株の売買状況を表す。50%を超えれば、売りの割合の方が多く、50%より低ければ、買いの割合が多い。
20年に入り、売りと買いが拮抗(きっこう)する50%を挟んで推移していたが、8月から明確に売り越しに転じ、9月は75%にまで達し、大幅に売りの割合が多いことを示している(図3)。
市場の誰よりも会社の業績動向に精通している経営陣が、私的に保有する自社の株を売るということは、「今がいったんの高値」と見ている可能性が高い。企業価値向上のための自社株買いと異なり、個人で持つ自社の株の価値最大化には当然敏感になる。米主要企業の経営陣が大幅な売りに傾いたことは、「すでに米株市場の調整が始まっている」ことを意味する。
経営者らが株を売り始めたのは、バイデン政権になれば現在最高税率が20%の株式譲渡益課税が、39・6%に上がるからだ。企業経営者らは決算発表直後の2週間程度しか自社株の売買が認められていないため、大統領選前に早めの動きを見せている。「米国の富裕者層は自社株だけでなく、他の株式を売るかもしれない。富裕層の売りが続けば、株式市場への影響は大きい。年内は富裕層の利食いが続くかもしれない」(木野内氏)。
米国株の下落が止まらなければ、日本株も無傷ではいられない。9月に発足した菅義偉新政権は、市場を動かすような大胆な政策を打ち出せていない。日本にはGAFAMのようなコロナ禍でも高い成長が期待でき、市場をけん引するような銘柄も見当たらない。
コロナ株高の大崩壊は目前に迫っている。
(神崎修一・編集部)