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経済・企業 2020年の経営者

「いずれ韓国にひっくり返されるかもしれない」半導体材料で世界トップシェア企業の社長が感じた危機感の理由と背景

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、川崎市の本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、川崎市の本社で

半導体製造用フォトレジストで首位

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 東京応化工業とはどのような会社でしょうか。

種市 半導体の製造工程で使われる「フォトレジスト」と呼ばれる感光性樹脂が主力製品です。

半導体チップは、シリコンウエハー(半導体の基盤)上に電子回路を作る数十もの工程を経ます。

特に、回路の設計図である原板(フォトマスク)に光を照射して、ウエハー上に回路を転写する露光が重要な工程です。

光を原板に当てるとウエハー上に影が映りますが、光が当たったところでは、ウエハー表面に塗られたフォトレジストが化学変化を起こし、設計図がウエハー上に焼き付けられます。

半導体製造用フォトレジストで約25%(数量ベース)と世界首位のシェアを持っています。

── 最先端のフォトレジストは東京応化やJSRなど日本企業が9割のシェアを持つと聞きます。なぜ日本が強いのでしょうか。

種市 日本企業の強みである「擦り合わせ」による技術的な向上をこの分野で発揮しやすかったことが挙げられます。

半導体メーカー、製造装置メーカー、樹脂や感光剤の原材料メーカーなどが日本にそろっていてエコシステム(経済的な生態系)を作りやすかったのだと思います。

── 本社(川崎市)の周辺には電機メーカーが集まり、情報のやり取りが活発だった。

種市 最寄りの武蔵小杉駅を含むJR南武線沿線と周辺には、東芝、NEC、富士通、日立製作所、OKI(沖電気工業)と、かつて世界を席巻した日本の半導体メーカーが集積し、「シリコン・レール(半導体の鉄道路線)」を形成し、地の利を生かしてきたと言えます。

半導体メーカーから要望を聞いて、試作品を提供して評価を得てさらに改善を図るプロセスを繰り返しながら性能を上げてきました。

── 競合他社と比べて、東京応化の強みとは。

種市 日本で最初にフォトレジストを製造販売した老舗で、古くからある半導体製品から、5ナノメートルや7ナノメートルといった最先端の微細加工にも対応できる製品ラインアップを持っています。

フォトレジストは、樹脂、感光剤、溶剤などの混合物ですが、成分によって光の透過性が変わります。

微細加工になるにつれて波長が短い光を使います。

それぞれの波長に応じて最適な成分のフォトレジストを開発しなければなりません。そこには老舗として温故知新のノウハウが生きています。

また、半導体の製造工程では、10万分の1ミリメートルという単位で線幅を作っています。

そこにわずかでもゴミがあれば、不具合が起きます。

そうならないように不純物を極限まで取り除く「超高純度化」が求められます。

例えて言えば、50メートルプールにコーヒー1滴の不純物も許さない製造管理の技術も必要です。

── 微細化で使われる光の波長は近年、KrF(248ナノメートル)、ArF(193ナノメートル)、EUV(13・5ナノメートル)と進んできましたが、ArF用のフォトレジストではJSRなど他社にシェアで先行されています。

種市 やや出遅れたのは事実ですが、技術的に大きな差が開いたというわけではありません。

サプライヤーや顧客との擦り合わせなどでタイミング(の遅れ)の問題があったと思います。

── 最先端のEUV用のフォトレジストではトップです。

種市 当社の世界シェアは約46%でトップです。

EUVが露光装置の価格の高さや、消費電力の大きさにより数年前まで実用化は難しいとの見方がありましたが、リスクを負って開発を継続したことが効果を上げました。

10年後、韓国勢と競合も

── 昨年夏に経済産業省は、フォトレジストを含む韓国向けの半導体製造用の化学物質の輸出管理を強化しました。

種市 輸出許可を取って顧客に供給はできていました。

今では韓国向けの輸出業務は定型化しており、影響はほとんどありません。

当社は13年に韓国に進出していて生産工場を持っています。

一昨年の冬にEUV用レジストの一部の生産を韓国に移管しています。

メード・イン・コリアのフォトレジストを供給できる日本のメーカーという立場で、それが強みになると考えています。

── 韓国では国産化への機運が高まったと思いますが。

種市 韓国には、日本のような半導体製造装置や材料の強いエコシステムはまだありません。

ただ、うかうかしているとひっくり返されます。5年は大丈夫だけど10年後は分からないと思います。

── 長期の経営目標では30年には売上高が現状から倍近い2000億円を目指しています。

種市 今後10年間で、半導体で使うシリコンウエハーの使用量が現在の2倍以上になるとの試算があります。

世界の技術進化についていくことができれば、目標は達成できると考えています。(2020年の経営者)

(構成=浜田健太郎・編集部)

(本誌初出 半導体製造用フォトレジストで首位 種市順昭 東京応化工業社長 20201027)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 前半は台湾市場の営業を担当し、TSMC(台湾積体電路製造)のビジネスモデルを学びました。後半は米国に駐在し、マーケティング先進国で知識を吸収しました。

Q 「私を変えた」本は

A 『こころときめくマーケティング』です。慶応大教授だった村田昭治さん(故人)の著書です。

Q 休日の過ごし方

A 中学で始めて入社後にやめていたトランペットを10年前に再開し、アマチュアのオーケストラに参加しています。


 ■人物略歴

種市順昭(たねいち・のりあき)

 1962年生まれ、青森県立六カ所高校卒業、86年北里大学衛生学部卒業後、東京応化工業入社。2015年執行役員、17年取締役兼執行役員を経て19年1月から現職。青森県出身、57歳。


事業内容:半導体製造用の感光性樹脂(フォトレジスト)などの製造・販売

本店所在地:川崎市

設立:1940年10月

資本金:146億円

従業員数:1726人(2019年12月末、連結)

業績(19年12月期、連結)

 売上高:1028億円

 営業利益:95億4600万円

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