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マンション一本足から脱却へ 池上一夫 長谷工コーポレーション社長

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都港区の本社で
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都港区の本社で

マンション一本足から脱却へ

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 長谷工コーポレーションはどんな会社ですか。

池上 新築マンションの設計・施工に力を入れているゼネコンです。これまでの施工累計戸数は65万戸で、国内全体の既存マンションの約1割に相当します。首都圏では4割、近畿圏では2割が当社の施工です。2020年3月期の受注高(単体)約4700億円の9割以上をマンションが占めました。他のゼネコンが大型複合ビルや高速道路などのインフラ整備、自然災害の対策工事などさまざまな分野に取り組むのとは一線を画しています。

── 新型コロナウイルスの分譲マンションへの影響は。

池上 購入者のニーズが様変わりしました。グループの販売会社、長谷工アーベストが首都圏に住む20~60代の人を対象に7月に行った調査では、郊外の関心が高まっています。マンションを購入する際の優先順位の1位は「価格」のままですが、重視ポイントでみると「部屋の広さ」と「環境」が上昇し、逆に、「通勤時間」が減りました。

── ということは郊外マンションの人気が高まるのでしょうか。

池上 例えば、埼玉県の浦和や、東京23区外の立川、三鷹が初めて「住みたい街」の5位内に入り、8位の品川より人気です。当社の千葉県流山市の約800戸の大型マンションも販売が好調です。今後は茨城県や千葉県の郊外でも計画を進めます。広さを求めて賃貸派から分譲派になるという動きもあります。賃貸は狭い間取りが多いことが背景にあるようです。

 在宅勤務をする人が増えているため、設計にも新たな工夫を入れています。従来はマンション共有部分に仕事ができるスペースを作っていましたが、マンション各戸に仕事や趣味のスペースがある間取りを考えています。

── 一方でマンションの供給は落ち込んでいます。

池上 首都圏の新築マンションは今年上半期は供給戸数が前年比4割減です。活動自粛期間などが客足に響きましたが、もともとコロナ前から価格が高止まりしていたこともあります。

 ただし、業績への直接的な影響はほぼありません。コロナ禍でも工事現場は止めていません。一方、販売、大規模修繕・リフォーム、管理では若干影響が出ました。今はモデルルームも再開し、来訪者数もコロナ前に戻ってきてます。通期ベースではこうした遅れを取り戻せる見込みです。

物流施設を拡大

── 事業をマンションに集中し続けて大丈夫ですか。

池上 従来のマンション一本足でなく、物流倉庫やホテルなどにも施工を広げていく方針です。物流施設は宅配人気の高まりで、今後都心で増えると思います。家の近くに物流施設があればネットで注文したらすぐに届くから便利ですよね。建設工事の期間が短いのも魅力です。マンションの工期は平均22カ月ですが、物流は1年弱で済みます。仮にマンションより利益率が低くても採算がとれます。すでに神奈川県座間市と埼玉県秩父市で手掛けています。とはいえ、まだ実績が少ないのでこれから積み重ねて、ノウハウを増やしていきます。

 ホテルや中型のオフィスビルにも手を広げています。賃貸住宅やタワーマンションでもシェアを伸ばしたいと考え、タワーマンションの専門部署を4月に設立しました。名古屋駅から徒歩圏に地上42階建てのタワーマンションを建設中です。大型台風と水害への備えとして、地下の電気室には止水対策もしています。

── 木造にも注目しているそうですね。

池上 東京大学の隈研吾教授の研究室などと一緒にデジタル技術を活用して、木の新しい可能性を追求しています。例えば、木材は平たいのが普通ですが、ベニア板の場合、大きさや形状が異なる穴をあけるとうまく曲げることができます。コンピューターで計算したデータをレーザーカッターに送って穴あけをすれば、部材ロスも少なく、複雑な図面を描く手間も省けるので生産効率が上がります。試作のオブジェを当社ショールームや休憩室の入り口に置いています。

 また、都内で検討中の7階建て賃貸マンションでは、鉄筋コンクリートと木を一緒に使う試設計を行いました。

── 高度な設計ではデジタル技術が重要になりますね。

池上 コンピューター上で三次元化した建物モデルを構築する最新の設計手法が鍵になります。「BIM」(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と呼ばれ、新規の設計はすべてBIMを取り入れています。こうした技術を施工へも導入することで、人手不足解消への効果も期待できます。工事現場の4週8休(4週間に休みが8日)の21年度実現を目指しています。

(構成=桑子かつ代・編集部)(2020年の経営者)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A ピンチはいろいろありましたが、一番つらかったのは設計部隊の副事業部長の頃に起こった耐震偽装です。責任者でもあり、不動産会社からの問い合わせなど対応に当たりました。

Q 「好きな本」は

A 建築関連の本や雑誌です。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフ、日曜大工、古いボートの修理とクルージングです。コロナの自粛期間中に自宅の庭のベンチなどいろいろ手直しをしました。


 ■人物略歴

池上一夫(いけがみ・かずお)

 1957年生まれ。80年早稲田大学理工学部卒業、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。2009年執行役員・設計部門エンジニアリング事業部長、14年取締役常務執行役員、17年取締役専務執行役員。20年4月から現職。神奈川県出身。63歳。


事業内容:建設事業、不動産事業、エンジニアリング事業

本社所在地:東京都港区

創業:1937年2月

資本金:575億円

従業員数:7315人(2020年3月現在、連結)

業績(20年3月期、連結)

 売上高:8460億円

 経常利益:853億円

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