週刊エコノミスト Online2020年の経営者

カテーテルで患者の負担軽減  佐藤慎次郎 テルモ社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都新宿区で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都新宿区で

    カテーテルで患者の負担軽減

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナの経営への影響は。

    佐藤 医療機器メーカーは、このような時期は販売が非常に伸びていると思われがちですが、実際には2020年4~6月期決算は減収減益で、売り上げは約1割落ちました。世界中の病院がコロナの対応に追われ、他の医療の稼働が低くなりました。待てる治療は待とうと、当社の主力製品であるカテーテル(医療用の管)を使った手術などが延期される例もありました。

    ── コロナ患者の治療に使う人工肺装置「ECMO(エクモ)」を製造しています。

    佐藤 重症な肺炎患者の肺の代わりとして使われる「最後の砦(とりで)」ともいえる機器です。重症患者がさらに増えるとの世界的な予測もあり、需要が急増しました。それに応えるため通常の3倍の規模で製品を出荷できるようにしました。

    ── テルモは体温計の印象が強いですね。

    佐藤 1921年に設立され、体温計の製造からスタートしました。60年代に日本の医療が近代化する中で、医療機器に対する需要が高まり、体温計だけでなく血液バッグや注射針など製品を多様化しました。80年代以降は、体への負担が少ない先端医療機器を手がけようと、カテーテルなど心臓血管の分野にも取り組んでいます。今では体温計の売り上げは全体の1%に満たないほどです。

    ── カテーテル関連では世界的企業に成長しました。製品にはどのような特徴がありますか。

    佐藤 我々が強みを持つのは、穿刺(せんし)して患部までカテーテルを運ぶ領域です。血管にワイヤを挿入して、カテーテルを患部まで導く「ガイドワイヤ」という商品で市場を獲得できました。ガイドワイヤは血管の中を進むため、滑らかで思いどおりに動かせることが必要です。特殊なコーティングがされ、液体でぬれるとヌルヌルと滑る特徴があります。

     テルモのガイドワイヤは非常に質が良く、使いやすい商品として国際的な評価を獲得し、他社が取って代われない地位を固めています。単純な商品に見えますが、素材とコーティング、設計の三つの要素を掛け合わせるとともに、日本が持つモノづくりの技術で実現しました。

    ── カテーテル治療は太ももからではなく、手首から挿入するケースが増えているそうですね。

    佐藤 かつては太ももの付け根の血管からカテーテルを挿入するのが一般的でしたが、止血に時間がかかる課題がありました。日本を中心に手首から挿入する治療が始まり、入院期間の短縮などにつながりました。テルモは細い血管へも挿入しやすいカテーテルや、治療後に止血するための手首バンドなどを開発しました。医師が手技を学ぶトレーニングの場も提供しています。

    ── ガイドワイヤ以外の製品も手がけていますか。

    佐藤 治療に使われるステント(狭くなった患部を広げる器具)も開発しています。カテーテルは心臓の疾患を治療するためのものでしたが、脳や腹部、足の治療にも広がっています。脳の治療では、血栓を取り除く器具なども手掛けています。

    M&Aで成長加速

    ── M&A(企業の合併・買収)に積極的です。

    佐藤 疾患の治療に関与する製品やグローバル化が成長の「伸びしろ」と考えています。自分たちの力だけではスピードに限界があります。国際的な企業としてさらに成長するため、00年代からM&Aに積極的に取り組んでいます。11年に輸血関連の機器を手がける米医療機器メーカーを2000億円超で買収したのが最大です。売り上げの約7割は海外です。

    ── 方針は変わりませんか。

    佐藤 医療機器は多種多様で、技術的に非連続性が高い領域が多く、既存の製品から新しいイノベーションを出しづらい産業です。丹念に研究開発を続けているだけでは、世界の競争についていけません。これまでは心臓血管の分野を中心にやってきましたが、いろいろな分野に成長の可能性があり、分野は特定しません。

    ── 石油業界から転身した経歴がユニークですね。

    佐藤 最初に入社した石油業界は90年代に頭打ちになり、後ろ向きの課題に対応する時期でした。医療機器は詳しくありませんでしたが、国際的で伸びゆく産業であるだろうと可能性を感じました。

    ── 他の業界出身でハンディがあったのでは。

    佐藤 40代半ばでテルモに入社し、初めはついていくのが大変でした。しかし、この産業はどんどん変化します。違う産業から来たことで、業界のことを知らないことが逆にメリットになることもあります。旧来の枠組みにとらわれることなく新しいことにチャレンジし、変革への方向性を示すことができればと思っています。

    (構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A バブルが崩壊し、石油業界は大きな転換期でした。自分の立場もめまぐるしく動き、このままでいいのか悩み続け、最初の会社を離れる決断をしました。

    Q 「好きな本」は

    A 勝海舟の『氷川清話』です。談話形式のため、歴史上の人物が語りかけてくれるような感覚です。

    Q 休日の過ごし方

    A 電動アシスト自転車を使って都内のいろいろな所へ出かけています。


     ■人物略歴

    さとう・しんじろう

     1960年生まれ。都立西高校、東京大学経済学部卒業後、84年東亜燃料工業(現ENEOS)入社。朝日アーサーアンダーセン(現PwC Japanグループ)を経て、2004年テルモ入社。取締役常務執行役員などを経て17年4月から現職。東京都出身。60歳。


    事業内容:医療機器、医薬品の製造販売など

    本社所在地:東京都渋谷区

    設立:1921年9月

    資本金:387億円

    従業員数:2万6438人(20年3月現在、連結)

    業績(20年3月期〈IFRS〉、連結)

     売上収益:6288億円

     営業利益:1106億円

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