週刊エコノミスト Online2020年の経営者

「よろず屋」こそ総合印刷の根幹 麿秀晴 凸版印刷社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都台東区で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都台東区で

    「よろず屋」こそ総合印刷の根幹

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── ペーパーレスが進む中、紙の需要の見通しをどう予測していますか。

    麿 ペーパーメディア(紙の出版物やチラシ)の売り上げは全体の5割を切っていますね。今後もトレンドは減少傾向で毎年5%以内の割合で減っています。業種によって違いはありますが、雑誌はもっと減っています。

    ── 紙の未来はないのでしょうか。

    麿 そうでもありません。紙とデジタルのメディアミックスが効果を発揮することも分かってきました。商品の「特売」情報はデジタルでリアルタイムに、一方、買い手のこだわりの強い商品は紙で訴求したほうがいい。高齢者には依然、紙が圧倒的に読まれ、いったんデジタルにシフトしても紙に戻そうとする動きもあります。

     角度は違いますが、SDGs(持続可能な開発目標)などを考えれば紙パッケージの需要も多い。ある菓子メーカーは、凸版印刷の技術を使って商品の外装をプラスチックフィルム製から紙製に変えました。電子レンジにかけても耐えられる紙製のトレーもあります。印刷物として紙の需要は減っていますが、紙製のパッケージや容器を求める声は増えています。

    ── 新聞の折り込みチラシをデジタル化してスマートフォンで見られるようにした電子チラシサービス「Shufoo!(シュフー)」が人気です。

    麿 シュフーは30~50代の子育て中の主婦を中心に月間の利用者数1100万人、4・5億ページビューを突破しました。元々は新聞の部数が減ったので、紙のチラシを電子化しようとしたのがスタートです。紙のチラシではどんな宣伝に効果があったかを検証するのは難しかったのですが、シュフーでは誰が、どの商品を、何時ごろに見たかなどが分かります。こうした情報を分析し、販売促進に生かせるのが強みです。

    ── 実際、主婦たちの行動は。

    麿 多くは寝る前に翌日の献立をイメージして、その前夜にチラシを見ることが分かってきました。特売のお知らせを出すタイミングは、当日では遅いと言えます。また、自分の勤め先の近くの店だけではなく、夫の勤務先近くの店のチラシをチェックしていることも分かりました。会社帰りの夫に買い物してもらうわけです。

     また、シュフーのネットワークを利用し、災害や選挙、生活や健康に役立つ情報、自治体のPRなど、いわば瓦版としての使い方も一部で始まっています。目指すのは、生活者の利便性を高めるネットインフラの役割です。

    活路はパッケージ需要

    ── 印刷だけでなく、食品などの包装材も作っていますね。

    麿 堅実に需要が伸びている分野です。酸素や水蒸気を通さない独自開発の透明バリアフィルム(GLフィルム)は、衛生的で日持ちのする加工食品の包装材のほか、医療用検査キットの包装材にも使われています。世界の人口は増えており、途上国も経済力が高まるにつれ、例えば、元々は屋台文化だった国が、保存容器に入った食品を食べる生活に変化してきています。この流れは逆戻りはしないでしょう。アフターコロナによる巣ごもり需要もある。フィルムの技術向上のため、今期の研究開発費用は従来の1・5倍にあたる約300億円に増やしました。

    ── 国内の総合印刷業は凸版と大日本印刷の大手2強がしのぎを削ります。凸版印刷の特長は。

    麿 印刷業は国内市場が中心ですが、包装材などのパッケージや、金融ビジネス関連のセキュリティー事業などで海外展開を目指しています。海外比率は2割を超え、今後も成長させていきます。

    ── 今年度から、デジタル化でビジネスや社会を変革する「DX(デジタルトランスフォーメーション)デザイン事業部」を立ち上げました。

    麿 デジタル需要が増える中、中小企業などへのDX支援の体制を整えるためです。当社は、製造業を中心に2万社の得意先があります。その痛みやかゆいところが分かるので、受発注や在庫管理、工場での異常の検知など製造現場でのDXを提案できます。以前も紙の印刷物や食品のパッケージなどの事業部ごとにDXに取り組んでいましたが、組織が縦割りだったので横串を通す役割もあります。

    ── DX分野では多くのIT企業がひしめき合っています。

    麿 企業向けにセミナーや講習会を開き「印刷屋」のイメージを変えようとしています。当社は今年、創業120年ですが、主な事業が印刷だっただけで、本来はお客さまの課題に応える「受注産業」がビジネスの根幹です。簡単に言うと「よろず相談所」で、どれだけ市場やお客さまの要望をきちんと拾えるか。中小企業には、何をどうデジタル化すればいいのか分からないところも多くあるので、どの仕事ならデジタルシフトができるか、提案していきたいです。

    (構成=柳沢亮・編集部)(2020年の経営者)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A パッケージ事業部でGLフィルムの開発をしていました。研究所や工場に泊まり込み、世界に通用するフィルムに育てたいと燃えていました。

    Q 「好きな本」は

    A 基本的にその時々のビジネス書を乱読していますが、ふと読み直すのは新渡戸稲造の『武士道』です。

    Q 休日の過ごし方

    A 7年前ごろからウオーキングをしています。おかげで姿勢が良くなり、腰痛がなくなってきました。


     ■人物略歴

    まろ・ひではる

     1956年生まれ、宮城県古川高校、山形大学工学部卒業後、79年凸版印刷入社。パッケージ事業本部製造技術本部長、国際事業部副事業部長(上海駐在)、副社長などを経て2019年6月から現職。宮城県出身。64歳。


    事業内容:総合印刷業として、情報系や包装資材製造、液晶や半導体部材関連製造など

    本社所在地:東京都千代田区

    設立:1908年6月4日(00年1月17日創業)

    資本金:1049億8600万円

    従業員数:5万2599人(2020年3月末現在、連結)

    業績(20年3月期、連結)

     売上高:1兆4860億700万円

     営業利益:664億1300万円

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