週刊エコノミスト Online2020年の経営者

多様性生かした総合力で成長 原典之 MS&ADインシュアランスグループHD社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都千代田区で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都千代田区で

多様性生かした総合力で成長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 新型コロナウイルスの影響は。

原 株価下落などによる運用関連の損失が600億円、海外では展示会などのイベントが中止になって興行中止保険への支払いが200億円程度と見込まれます。さらに自動車販売が減少すれば自動車保険の売り上げが落ちるし、住宅が売れないと火災保険も売れません。収入保険料は落ち込むと考えています。

── 感染症による休業を補償する保険がありますが、新型コロナは対象ではありませんでした。ですが、特別対応を取りました。

原 休業補償の支払い条件には、感染症が具体的に列挙されています。コロナはその中に入っていませんでした。しかし今回コロナを対象にして、2月までさかのぼり、お見舞金の意味で一律20万円を支払うことにしました。ただし、感染者が出て休業を余儀なくされた場合などが対象で、自治体の休業要請などで休んだ場合は、申し訳ありませんが対象外です。

── 6月からセブン─イレブンを通じてがん保険の販売を始めました。ユニークな取り組みですね。

原 セブン─イレブンとはすでに自転車保険やレジャー保険で提携していますが、がん保険でも提携しました。パソコンやスマホで申し込み手続きをして、セブンの店内に設置されている「マルチコピー機」に予約番号などを入力。レジで実際の保険料を支払うというのが主な流れです。契約目標は年間6万件です。

── コンビニで生命保険を買う人が多くいるのでしょうか。

原 コンビニで保険というのは想像しづらいかもしれません。確かに一般の死亡保険は、保険販売員といろいろ相談しながら、人生設計に応じた商品を選んでもらうのが普通です。しかし、がん保険はがんというリスクをはっきり想定した「リスク顕在型」の商品で、普通の生命保険とは性格が違います。こうした自らの意思で明確なリスクに備える保険商品に絞って販売していきます。

── 国内では新車販売台数が減っています。主力商品の自動車保険への影響はどうですか。

原 確かに販売台数は減っていますが、保有台数はそこまで減っていません。しかし、カーシェアリングなどが拡大し、自動車業界に影響を与えています。一方で、コロナの影響で中国や米国では公共交通機関ではなく自家用車で動く人が増えているそうです。そうなれば自動車の販売やそれに伴う保険も増える可能性があります。交通だけでなく、非接触指向など生活様式は大きく変わるでしょう。我々もそれに対応して変わっていかなければなりません。

── 走行データなどを活用する「テレマティクス保険」の開発に取り組んでいますね。

原 あいおいニッセイ同和損保が中心にトヨタ自動車とともに推進しています。トヨタの車から送られてくる運転データを集め、急発進や急ブレーキをしていないかなど運転の挙動をもとに保険料を割り引く仕組みです。また1月からはドライブレコーダーを使った保険の販売も始めました。ドライブレコーダーで通信し、安全運転のスコアに応じて保険料が最大8%割り引きされます。5月末で販売は12万件を突破しました。

合併も選択肢

 MS&ADは三井住友海上、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険が経営統合し、10年4月に発足した。

── 傘下に二つの損害保険会社があります。合併する必要はありませんか。

原 両社とも収入保険料は他社よりも伸びています。両社の特徴を生かした戦略が功を奏しているからです。あいおいはトヨタとテレマティクスの保険で協業しています。三井住友海上は強みである企業向けの市場で伸びています。さらに、この2年間で国内200億円、海外100億円のコスト削減を目指して効率化を進めます。現状はよい成果が出ていると思っています。ただ、将来的な合併の可能性を否定するわけではありません。企業価値の向上に、合併の方がよいならば選択肢になります。

── 6月25日に社長に就任しました。三井住友海上の社長を兼任していますが、それが望ましいのでしょうか。

原 ホールディングスはグループ全体の管理が仕事です。一方で事業会社の社長はその運営と執行が仕事なので、相反しないようにやっていくことが大切です。ただし、ずっと兼務していくわけではありません。将来的には解消する方向で考えています。

── MS&ADをどのような会社にしますか。

原 MS&ADの強みは多様性にあります。損保だけでなく、年金保険に強いプライマリー生命といった特徴的な会社が傘下にあります。それぞれの特徴を生かしグループ総合力を発揮していきたいです。

(構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 29歳から9年間人事部にいました。「この会社が将来どうなるのか」などと物事を全体で捉えるいい訓練になりました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の『峠』です。主人公・河井継之助の藩政改革の進め方になるほどと思いました。

Q 休日の過ごし方

A 週に1回のゴルフでしたが最近はできません。散歩で書店へ行き、好きな本を買うのも楽しみの一つです。


 ■人物略歴

はら・のりゆき

 1955年生まれ、愛知県立旭丘高校、東京大学経済学部卒業後、78年大正海上火災保険(現三井住友海上火災保険)入社。三井住友海上火災保険執行役員、副社長などを経て、16年4月から三井住友海上火災保険社長、20年6月から現職。長野県出身、64歳。


事業内容:国内損害保険事業、国内生命保険事業、金融サービス事業など

本社所在地:東京都中央区

設立:2008年4月

資本金:1000億円

従業員数:4万1582人(20年3月現在、連結)

業績(20年3月期、連結)

 経常収益:5兆1683億円

 経常利益:1577億円

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