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治療薬や検査迅速化でコロナ抑止へ 助野健児 富士フイルムホールディングス社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝 東京都港区の本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝 東京都港区の本社で

治療薬や検査迅速化でコロナ抑止へ

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 新型コロナウイルスの感染拡大で、富士フイルム富山化学が生産する「アビガン」が治療薬の候補にと注目を集めています。

助野 我々が主導する治験は3月末から既に始めており、できる限り早期に終えたい。承認申請については、規制当局と協議中です。アビガンは、出発点となる原料はほとんど海外から購入し、原薬の製造や製剤は日本で行ってきました。今は緊急事態で、国内でサプライチェーンを構築すべきと考え、国内企業に協力をお願いし、早期に完結させています。

 今年は、政府による200万人分までの備蓄量拡大に対応でき、さらにプラスアルファの製造が見込めます。7月から月約10万人分、9月になれば月約30万人分まで増産できるようになります。できるだけ前倒しできるよう、社内には発破をかけています。

── 新型コロナは富士フイルムの事業に影響を与えますか。

助野 新型コロナの感染拡大抑止に貢献するための我々の取り組みが、アビガンであったり、子会社の富士フイルム和光純薬が開発したPCR検査を簡易化、迅速化する試薬になります。世の中のニーズに合った商品やサービスを提供できるかが、我々のヘルスケア事業の方向性になるでしょう。

── ヘルスケア分野の売上比率が高まっています。有望な医薬品はありますか。

助野 既存の製薬メーカーとの戦いの中で生き残れるのは、写真を作ってきた技術が生かせる分野になるでしょう。その一つが、薬を患部に届ける技術を使ったリポソーム製剤です。非常に小さいナノレベルのカプセルの中に抗がん剤を入れ、患部に直接届けるものです。がんで亡くなった人の半数は副作用の影響で亡くなっているそうです。正常細胞は攻撃せず、がん細胞だけ攻撃するような仕掛けをリポソーム製剤で実現します。ナノレベルのカプセルを作ることは、写真技術の応用でできます。

── 複写機事業では長年続いた米ゼロックスとのブランドライセンス契約を来年3月に解消し、傘下の富士ゼロックスは社名を「富士フイルム ビジネスイノベーション」に変更します。

助野 もともと米ゼロックスが作った複写機を、富士ゼロックスが日本や東南アジアで販売するという枠組みでした。複写機が多機能化する中で、富士ゼロックスが技術的に優位になり、主要な製品は我々で作っています。今後はゼロックスのブランドがなくなりますが、我々の商品は市場からも信頼性が高く、十分戦えます。

── 欧州や米国市場でどのような戦略を描きますか。

助野 世界中に富士フイルムの現地法人があり、既に販売チャンネルも持っています。また相手先ブランドによる生産(OEM)で機器を供給していきます。これまでは(米ゼロックスとの契約で)制約がありましたが、さまざまな選択肢が生まれます。

── 2018年に富士フイルムが米ゼロックスを買収すると発表しましたが、米ゼロックスの株主の反対で実現しませんでした。

助野 そもそも我々から買収を提案したわけではなく、米ゼロックスが持ちかけてきた話です。我々がうまく事業転換をしながら成長してきたのをみてきたので、米ゼロックスも富士フイルム傘下に入ることがいいと判断したのでしょう。ただ彼らの大株主が反対しました。最終的には、我々自ら米ゼロックスとの間で(販売エリアなどを定めた)技術契約を終了し、富士フイルムブランドで戦うことを決断しました。

カメラの魅力追求

── スマートフォンの普及でカメラ市場は縮小していますが、事業の将来性をどう考えますか。

助野 安価なコンパクトデジカメから早くに撤退し、「Xシリーズ」など中高級機が中心です。スマホで写真を撮ることで、写真への親密感は高まり、お子さんを持つお母さん方がミラーレスカメラを買い求めるという流れもあります。

── 撮ったその場でプリントできるインスタントカメラの「チェキ」など、独自の技術を生かした商品も人気ですね。

助野 チェキは面白さを追求していきます。最新機種には録音機能が搭載されています。チェキで録音し、プリントした写真に印刷されたQRコードにスマホをかざすと、音声が再生できる仕組みです。結婚式やパーティーで、写真にメッセージを添えてプレゼントすることができます。写真の楽しみ方が広がっており、まだまだ需要は開拓できるはずです。

── 06年に最高経営責任者(CEO)に就任した古森重隆氏は80歳を迎えました。今後の経営体制についてはどう考えますか?

助野 古森がCEO兼会長、私が社長兼COO(最高執行責任者)として、日ごろから頻繁にコミュニケーションを取り二人三脚で経営しています。古森の持つ長年の知見を経営に生かしていきます。

(構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 経理担当者として英ロンドンに赴任しました。欧州での製品シェアを拡大しようと、志願して営業にも挑戦しました。

Q 「好きな本」は

A 歴史物が好きで長編を繰り返し読んでいます。今年に入り、吉川英治の『新・平家物語』を読み直しています。

Q 休日の過ごし方

A クラシック音楽を聴きながら、読書をして過ごしています。


 ■人物略歴

すけの・けんじ

 1954年生まれ、大阪府立北野高校、京都大学法学部卒業。77年富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)入社。経営企画部長、取締役などを経て2016年6月から現職。兵庫県出身。65歳。


事業内容:デジタルカメラ、医薬品、複写機の製造・販売など

本社所在地:東京都港区

設立:1934年1月

資本金:403億6300万円

従業員数:7万3906人(2020年3月末、連結)

業績(20年3月期、連結)

 売上高:2兆3151億4100万円

 営業利益:1865億7000万円

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