経済・企業

プリンターのビジネスモデルを転換 小川恭範 セイコーエプソン社長

    長野県諏訪市の本社で(撮影 武市公孝)
    長野県諏訪市の本社で(撮影 武市公孝)

    プリンターのビジネスモデルを転換

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 4月に社長に就任しましたが、2020年3月期の決算は減収減益の見込みです。

    小川 米中貿易摩擦や円高が逆風となり、需要が減退したことが大きかった。一方で、次に向けた新製品の準備を進めており、21年3月期はかなり期待できると思っていました。しかし新型コロナウイルスの感染が広がり、影響がどう出てくるかはまだ分かりません。

    ── 再び成長軌道に乗せる上で、主力のプリンター事業は、どのように進めていきますか。

    小川 インクカートリッジモデルからビッグタンクモデルへの移行を進めています。これまでプリンターは本体の価格を安く抑えて、インクの販売でもうけるビジネスモデルでした。しかし消費者からすると、インク代が高くつくので、印刷をためらうような状況になっていました。そこでインク容量が小さいカートリッジではなく、大容量のタンクにして、インク代を安くして気軽に印刷できるようにしていきます。

    ── その代わり本体の価格を上げたと。

    小川 ビジネスモデルは大きく変わってきています。プリンター本体の価格は従来より高くなりますが、ビッグタンクの認知度が上がり、全体に占める比率が上がっています。また、新型コロナウイルスの影響で需要が伸びています。

    ── それはなぜですか。

    小川 中国や北米では、コロナウイルスの影響で外出できなくなり、在宅で授業を受けたり、仕事をしたりするようになっている。書類の印刷が必要になり、プリンターの需要が高まっています。

    ── 一方でオフィス向けの販売を伸ばすためには、既存のレーザープリンターをインクジェットプリンターで置き換えることが必要です。

    小川 インクジェットはレーザーに比べて、消費電力が小さく、定期的なメンテナンスが不要で環境にやさしい。また最新の大型機は1分間に100枚と、非常に高速に印刷できます。しかし値段がまだ高いので、手ごろな価格帯の製品をそろえて、販売拡大につなげたいと思っています。

    ── オフィスではペーパーレスも進んでいます。

    小川 オフィスで出る使用済みの紙を、その場で再生紙に変える小型の製紙機「ペーパーラボ A─8000」を開発しました。これで紙資源をオフィス内で循環させるので、ユーザーには紙の消費量を気にせずに印刷してほしい。また、使用済みの紙を処理する際に、細かい繊維状にするので、文書情報を完全に消すことができ、情報漏えいのリスクも低減できます。金融機関や地方自治体で導入が進んでいます。

    ── インクジェットの用途が繊維などに広がっています。

    小川 布地に模様を印刷する捺染(なっせん)の分野では、版を用いたアナログ印刷からインクジェットを用いたデジタル印刷への置き換えが進んでいて、市場の成長性がかなりあると思っています。

    ── メリットは何ですか。

    小川 デジタルデータを基にするため、新しいデザインにすぐ対応でき、作業工程も少なくて済みます。同じものを大量に印刷する場合は、従来の印刷の方が安くできますが、デジタル印刷は、少量多品種生産に向いています。また、廃棄物も少なく環境負荷が小さいのも特徴です。

    産業用ロボットに期待

    ── 小川社長はプロジェクターの開発を手掛けていたそうですが、液晶モニターの大型化で需要は減少しているのでは。

    小川 まさにそのとおりで、中国で液晶パネル工場の投資が進み、大型の液晶パネルの価格が安くなり、プロジェクターの市場が小さくなり始めています。しかしプロジェクション技術を使ったディスプレーの市場がなくなるわけではない。学校や会議室で用いられるビジネス系の製品は減っているが、大会議室向けやプロジェクションマッピング(建物などに映像を投影すること)向けの大型のプロジェクターは堅調に伸びていて、われわれもそこに注力しています。

    ── 産業用ロボットにも注力しています。

    小川 当社は時計の製造から始まっていて、メカニズム(機械装置)とそれを動かすエレクトロニクス(電子工学)を組み合わせたメカトロニクスが強みです。そして、これを一番生かせる領域がロボットだと思っています。もともと時計の製造装置を自社で作って生産現場で使っていますし、外販もしてきました。

    ── どういう業種に展開していきますか。

    小川 われわれのロボットは、小型で平行に動くスカラロボットが主力で、駆動スピードが速く、精度が高い。電気製品や自動車部品など、精密機器の製造現場に導入されています。今後、かなりの規模に広がると期待しています。

    (構成=村田晋一郎・編集部)(2020年の経営者)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A プロジェクターを開発していました。技術的に先行し、自分たちが新しい製品を作ると他社も似たような製品を出してきて、非常に面白かったです。

    Q 「好きな本」は

    A 真理や思想に関するものが好きで、最近は養老孟司の『唯脳論』を読み直しました。

    Q 休日の過ごし方

    A 最近は仕事が多いですが、若い頃はテニスやスキーをしたり、旅行に行ったりしていました。


     ■人物略歴

    おがわ・やすのり

     1962年生まれ、愛知県立中村高校、東北大学工学部、東北大学大学院工学研究科修士課程卒業。88年セイコーエプソン入社。ビジュアルプロダクツ事業部長、技術開発本部長、取締役常務執行役員などを経て、2020年4月代表取締役社長に就任、現在に至る。愛知県出身。58歳。


    事業内容:インクジェットプリンター、プロジェクター、腕時計、電子デバイスなど

    本社所在地:長野県諏訪市

    設立:1942年5月

    資本金:532億400万円

    従業員数:7万8739人(2019年9月現在、連結)

    業績(19年3月期、連結)

     売上収益:1兆896億7600万円

     営業利益:713億5500万円

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