経済・企業2020年の経営者

システム重視で日本の食文化を世界に 田中邦彦 くら寿司社長

    撮影 平岡仁:大阪府貝塚市の東貝塚店で
    撮影 平岡仁:大阪府貝塚市の東貝塚店で

    システム重視で日本の食文化を世界に

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナの影響は。

    田中 当社はキャッシュフローが潤沢にあるのでそこまで心配していません。内部留保を膨らませることには、特に株主からの反発を受けましたが、有事の際には大きな強みになります。

     また寿司をレーンに流すときにカバーをするなど、衛生面の確保が強く求められています。当社は以前から寿司を載せた皿以外に触れずに、カバーを開閉できる仕組みを導入しているので、動じることはありません。

    ── 今年1月には「グローバル旗艦店」と位置付ける大型店を東京・浅草にオープンしました。

    田中 日本の良き伝統文化を再現するコンセプトの店です。壁には浮世絵やちょうちんを装飾し、射的や輪投げなど実際に遊べる「縁日スペース」を併設しました。店舗面積も国内最大の255坪(約840平方メートル)と一般的な店舗の倍です。座席数も国内最大の272席を配置しました。

    ── 都心は賃料が高いのに、大型店舗で採算は取れますか。

    田中 賃料は高いですが、売り上げも上がるため採算は取れます。もちろん広い店舗を効率的に運用する工夫は必要です。お客さんが注文した品を席に直接届ける専用レーンには、1本当たり約1000万円投資しましたが、従業員が運ぶ必要がなくなるので効率的です。こうした仕組みにより広い物件では当社が出店を独占的にできる強みが生まれます。

    ── 規模が大きくなると商品の質を維持するのが大変では。

    田中 効率的な運営を行うため、米や一部商品を除いて、調理や加工はセントラルキッチンに集約しています。一定の技術を持った人材をそろえるのは大変ですが作業工程やレーンをカメラで監視して、本部で映像を確認して、問題があればすぐに指導することで水準を維持しています。

    しっかり株を持たせる

    ── 昨年米ナスダック市場に上場しました。

    田中 米国では、良い立地は既に他の店が出店しており、好物件を獲得するのは難しい。上場することで知名度と信用度を上げ、良い物件を得やすくする狙いです。

     またナスダック上場の際、米国出店に関わった従業員は、当社の株式を売り出し前の価格で購入しています。これは新しい資本主義の形として、従業員にしっかりと株を持たせ経営に参画してもらいたい、という私の構想です。業績が好調で株価が上がれば、従業員の資産も増えていきます。日本国内では、今期から給与と別に譲渡制限付き株式を譲渡しています。

    ── 魚など食材の調達は。

    田中 鮮度の良い食材を安定して供給するためには、日本は近海漁や養殖をもっと盛んにしなければなりません。当社は、漁船が捕った1隻分の魚をまるごと買い取ることを始めています。通常、漁師は狙いの魚以外がたくさん捕れてもほとんどお金になりません。場合によっては漁船の燃料代も賄えず、漁に出られなくなります。捕れた魚の種類にかかわらず、1隻まるごと買い取れば、安心して漁に出られ、結果的に収入は2~3割ほどアップするので、漁師もきちんともうかる仕組みです。

     漁協に卸す従来の流れを変える取り組みですから、当初は苦労しました。今はまだ三つの漁港だけですが今後拡大させたいです。

    ── 30年までに506店舗(4月時点)を1000店舗に、うち海外400店舗、売上高は海外比率5割を掲げています。達成できそうですか。

    田中 東証1部上場、売り上げ1000億円、米国上場と、いままで言ったことはやってきました。国内は飽和状態で厳しい状況ですが、年間20~25店舗の新規出店は今後も数年は継続します。

     国内市場は自社の店舗同士で競合することを気にせず、良い地域に積極的に出店しています。当社は無借金経営なので財務内容に自信があります。きちんと利益が出ているかが重要で、競合で足元の売り上げが数%減少しても気にしません。

    ── アジアにも進出しました。

    田中 中国、米国、台湾で店舗展開を進めていきます。台湾でも上場する予定です。

     海外展開は、すしの味だけが重要なら、日本のすしチェーンはとっくに大成功しているはずです。日本の外食産業が成功しないのは商品ではなくシステムが原因です。競合する大手すしチェーンも海外に進出していますが、どこも苦労しています。システムや仕組み作りができていないのに、売り上げや利益といった数字を追求しても、必ずしっぺ返しが来ます。

    ── 回転ずしの将来は。

    田中 今回のコロナ騒動を受けて、衛生面から、人が手で握るすしを敬遠する人が増える可能性があります。先進国は働く人も減るので、今後はなるべく人を使わない、機械化された店舗が求められるでしょう。(2020年の経営者)

    (構成=吉脇丈志・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A とにかく一生懸命でした。回転ずしを開いて間もない頃で資金もなく、どう売り上げるか仕事のことばかり考えていました。

    Q 「好きな本」は

    A 山岡荘八の『徳川家康』は戦術や戦略が素晴らしく、いまでも読みます。

    Q 休日の過ごし方

    A タイなどを狙って海釣りをしています。自然が好きなので海か山に出掛けます。


     ■人物略歴

    たなか・くにひこ

     1951年生まれ。岡山県立総社高校、桃山学院大学経済学部卒業。タマノヰ酢(現タマノイ酢)を経て、77年5月に大阪府堺市内に寿司店を創業。84年7月に「回転寿司くら」開業。95年11月くらコーポレーション設立。岡山県出身。69歳。


    事業内容:飲食業

    本社所在地:堺市

    創業:1995年11月

    資本金:20億532万円

    従業員数:1882人(正社員のみ、2019年10月現在、連結)

    業績(19年10月期、連結)

     売上高:1361億3400万円

     経常利益:61億3500万円

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