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世界首位のコンデンサーで5G、車載狙う 村田恒夫 村田製作所会長兼社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 平岡 仁、京都府長岡京市の本社で。右は自転車型ロボット「ムラタセイサク君」。
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 平岡 仁、京都府長岡京市の本社で。右は自転車型ロボット「ムラタセイサク君」。

世界首位のコンデンサーで5G、車載狙う

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 新型コロナウイルスの感染拡大が電子部品のサプライチェーン(供給網)に与える影響は。

村田 最初に感染が広がった中国には江蘇省無錫や広東省深圳に大きな工場がありますが、2月10日には生産を再開して稼働率は50%以上に戻っています。生産品目も前世代の製品が多く、需要がそれほど逼迫(ひっぱく)しているというわけではありません。

── グループ全体の生産は。

村田 中国でしか生産できない製品は代替することはできませんが、当社が世界シェアの40%を持つ主力のMLCC(積層セラミックコンデンサー)などは日本を主力に中国以外でも生産しているので、顧客の承認など手続きは必要ですが、生産は十分にできる態勢を作っています。

── 需要をどうみていますか。

村田 当社の電子部品が搭載されるスマートフォンや自動車などは心配です。世界各地で人の移動に制限が掛かると、消費面ではかなり影響が出てくると思いますが、具体的な影響はまだはっきりしていません。

クルマの高性能化も商機

── 今年は5G(第5世代移動通信システム)サービスが本格化します。関連する電子部品を多く手掛ける村田製作所にはチャンスでしょうか。

村田 5Gは中国が先行しています。通信網の中核になる基地局用に使われる電子部品の需要が増えて、売り上げが伸びる見通しを今年2月初めの四半期決算で示しました。ただ、その需要も新型コロナウイルスの感染拡大で一時的にストップしている状態です。とはいえ、拡大が終息して5Gのインフラ投資が回復すれば、当社が見込んだ通りの需要は確保できると思っています。

── 5G向けで強みは。

村田 MLCCは電気を蓄え、不要なノイズを取り除く電子部品で、あらゆるエレクトロニクス製品に搭載されます。基地局用のMLCCはサイズが大きくて高性能な製品が使われます。当社のMLCCは蓄えた電気を取り出す際のロス(損失)が少ないのが強みです。また、スマホに搭載されるSAWフィルターは、特定の周波数を取り出す機能があります。5Gの場合、従来に比べて高い周波数帯を使うので、(伝送などの)ロスが出やすくなりますが、当社の製品はロスが少ないという点が差別化につながっています。

── 自動車に搭載する電子部品を強化する戦略です。

村田 中国での需要減少もあり世界の自動車の生産台数は2019年に少し落ち込みました。とはいえ、自動ブレーキなどの安全装置を備えたADAS(先進運転支援システム)の搭載率が増えていて、そうした機能を実現するための電子部品の需要は増えています。生産台数は落ち込んでいるけど、自動車の高性能化で埋め合わせしています。

── どのエレクトロニクス企業も成長戦略を掲げている自動車向けの強みは何ですか。

村田 ADASなど新しい機能が加われば必ずコンデンサーが必要になります。自動車は人の命にかかわるため高い信頼性が求められ、組み入れを認められる部品メーカーの数は限られるでしょう。当社のチャンスは大きいとみています。

電池事業は課題

── 3年前にソニーから買収したリチウムイオン電池事業は赤字が続いています。

村田 スマホ向けで挽回しようと考えましたが、性能やコスト面で競合他社に後れを取り赤字を出しました。スマホ用は諦めてスマート時計や短距離無線通信ブルートゥース対応のイヤホンなど、より小型の電子機器用に特化したいと考えています。21年度の黒字化を必達目標としています。

── 昨年10月に電解質に液体を使わない「全固体電池」の開発を発表しました。実用化のめどは。

村田 20年度後半には出荷を開始したいと考えています。まずは安全性が高く身につけるウエアラブル機器などの用途に特化したいです。

── 営業利益率(18年度)が16%と国内の電機・電子部品メーカーに比べて高いですね。

村田 MLCCなどは材料開発から自前でやっている部分が多くて、生産設備も7割くらい自社で生産しています。自社内の技術が多いことと、製造工程が長い製品ですので、工程ごとに付加価値を積み上げていくことが、高い利益率の理由だと思います。

── 中島規巨(のりお)専務が6月に社長に昇格する首脳人事を発表しました。

村田 私は会長職に専念して俯瞰(ふかん)的に経営に関わり、社内の統治強化を図る考えです。中島次期社長は変化の激しい経営環境下でリーダーシップを発揮すると期待しています。

(構成=浜田健太郎・編集部)(2020年の経営者)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 島根県やドイツの工場で改善活動に取り組んでいました。工場には課題が山積しているので、みんなで解決策を考えて達成していくのが楽しいのです。

Q 「好きな本」は

A 資生堂名誉会長の福原義春さんが『101の蘭』という写真集を出していて、それが愛読書です。

Q 休日の過ごし方

A 蘭の栽培が趣味です。写真を撮ってフォトブックを作っています。風景写真も好きです。


 ■人物略歴

むらた・つねお

 1951年生まれ、同志社高校、74年同志社大学経済学部卒業。同年村田製作所入社。89年6月取締役、2003年6月副社長を経て07年6月から現職。京都府出身。68歳。


事業内容:電子部品の製造販売

本社所在地:京都府長岡京市

設立:1950年12月

資本金:694億円

従業員数:7万7571人(2019年3月末、連結)

業績(19年3月期、連結)

 売上高:1兆5750億円

 営業利益:2668億円

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