経済・企業2020年の経営者

ITフリーランス人材市場を切り開く 曽根原稔人 ギークス社長

photo 中村琢磨:東京都渋谷区の本社で
photo 中村琢磨:東京都渋谷区の本社で

ITフリーランス人材市場を切り開く

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── IT業界のフリーランス人材のマッチングを手掛けています。どのような事業ですか。

曽根原 日本ではIT人材の不足が深刻化しています。2030年には70万~80万人不足するとの試算もあり、企業は必要な人材を確保するのが大変になっています。一方、働き方が多様化し、企業に所属しないフリーランスのITエンジニアは増えています。そこで、両者を仲介し、企業が社外のIT人材を効率的に活用できる仕組みを提供しています。

── どんな人がフリーランスに。

曽根原 当社に登録しているITフリーランスの中心は30代です。彼らが社会人になった00年代前半は転職が一般化し、転職で職業キャリアを積むことで技術者としての価値が高くなった。現在はさらに進んで、就職して会社員になるよりは、フリーランスで働いたほうが収入が上がることもあります。また、彼らは仕事を選びたいという考えが強く、会社という組織の指揮命令下に入ることを嫌がることが多いですね。

── 企業側はフリーランスの活用に積極的ですか。

曽根原 今は社員としてエンジニアを採用したいと思っても、よほどブランド力が強い企業でないと、エンジニアが就職したいと思わない。しかし企業はIT人材を必要としているので、そこでわれわれの出番となります。3カ月かかっても社員を採用できなかった企業に、タイミングが良ければ1週間でITフリーランスをマッチングできた例もあります。

 また、現在はコロナショックで企業の採用が止まっていて、その分をフリーランスの契約を延長して補う流れもあります。

── マッチングはどのように。

曽根原 企業については、取り組もうとしているプロジェクトの概要や、製品の開発環境などさまざまな情報をすべてデータベースに入れています。フリーランスについては、登録の際に、今までの経験やスキルなどの情報を登録した上で、面接をして個人の人柄や志向性を把握します。こうした情報を踏まえて最適な組み合わせを選んで、提案します。

── コツはありますか。

曽根原 フリーランスをサポートするチームに最も多くの人員を充てており、働いているフリーランスの人々と常に接点を持つようにしています。当社には3000社以上の顧客がいて、プロジェクトの進捗(しんちょく)や新しいサービスの開発計画など、情報を常にアップデートしています。現場の状況を把握することで、マッチングの精度は高まり、企業側に新たな人材の補充などを提案もできます。そこでビジネスが広がっています。

ゲーム受託開発も堅調

── ゲーム事業も大きな柱になっています。

曽根原 リーマン・ショックの時に人材事業は苦労したので、もう一つの柱を作るため、12年にゲーム事業に参入しました。当初は自ら開発・発売していましたが、現在は戦略を変え、大手のゲーム会社と協業し、当社は開発・運営を請け負っています。ゲーム会社はゲームの売り上げに収益が左右されますが、当社は売り上げに関係なく、開発費を得る仕組みなので、事業は安定しています。

── ゲームは浮き沈みが激しい業界です。強みは何ですか。

曽根原 ゲーム会社も淘汰(とうた)されてきて、開発できる会社は減ってきています。1本のゲームに巨額の開発費がかかる中で、大手ゲーム会社は小規模な開発会社には発注しにくくなっています。発注先が少なくなる中で、当社は200人以上の規模で、企画、デザイナー、エンジニアまでゲーム開発に必要な一通りの人材がそろっています。需要が増えた場合には、人材事業に登録しているフリーランスも活用できる強みがあります。

── 他にはITの人材育成事業も手掛けています。

曽根原 現在は渡航禁止になっているので休止状態ですが、フィリピンのセブ島でITエンジニアの育成を行っています。IT人材が不足するなら、増やそうという取り組みです。3カ月から半年間合宿して、英語とプログラミングを徹底的に学習します。英語は現地の講師がマンツーマンでレッスンし、プログラミングは日本人の講師が授業を行い、エンジニアでない人をエンジニアとして就職できるレベルにまで育てます。

── 昨年3月に東証マザーズに上場し、今年4月には東証1部に市場変更しました。

曽根原 人材派遣会社が1980年代後半に出てきて、一般的になるまで15年もかかりませんでした。ITフリーランスもそれに近いかたちで増えていくと思います。そのときにトップの会社になりたいと思っています。この市場を作りたいからこそ、上場を目指しました。マザーズ上場前から1年で東証1部に、と公言していて、計画通りに進んでいます。

(構成=村田晋一郎・編集部)(2020年の経営者)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 共同で立ち上げた会社を上場させるまでは、毎日深夜まで働いていました。上場後は外に出て同世代の経営者と交流するようになりました。

Q 「好きな本」は

A イチロー選手などスポーツ選手に関する本が、自己管理などで役に立っています。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフが多いのと毎年フルマラソンを走っています。また週2回トレーニングしています。


 ■人物略歴

そねはら・なるひと

 1975年生まれ、日本体育大学柏高校卒業後、東京YMCA国際ホテル専門学校卒。ホテル業界、不動産業界を経て、2001年5月にウェブドゥジャパン(現クルーズ)を共同で設立。07年8月、IT人材事業を分社化しベインキャリージャパン(現ギークス)を設立、代表取締役社長に就任。09年にMBOし独立。13年に社名変更し、現在に至る。東京都出身。45歳。


事業内容:IT人材事業、IT人材育成事業、ゲーム事業、動画事業、インターネット事業

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2007年8月

資本金:10億8500万円

従業員数:334人(2019年12月現在、連結)

業績(19年3月期、連結)

 売上高:30億5000万円

 営業利益:5億5200万円

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