週刊エコノミスト Online2020年の経営者

トマトの王者、野菜企業への脱皮目指す 山口聡 カゴメ社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都中央区の東京本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都中央区の東京本社で

    トマトの王者、野菜企業への脱皮目指す

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナウイルスの影響は。

    山口 「巣ごもり消費」が伸びており、家庭で調理する内食、総菜や弁当を自宅に持ち帰る中食の機会も同様に増えています。それに伴い、トマトケチャップやトマトソース、野菜飲料は好調な売れ行きです。一方で、外食の需要が減って、ホテルやレストラン向けの業務用は売り上げが落ちています。

     第1四半期(2020年1~3月期)は、販売が増えたものと減ったものを合算して、伸びた商品のほうがやや上回りました。5月末に緊急事態宣言が解除されたことに伴い家庭用の調味料の勢いは落ち着いてきました。先の状況は見通しにくいです。

    ── 消費者の志向に変化は出ていますか。

    山口 トマトジュースや野菜100%ジュースの売れ行きは好調です。野菜を取って免疫力を高めようとか、健康的な食生活への意識の高まりが反映されていると思います。ケチャップは子どもがいる家庭で消費が多い商品なので、学校が休校になったことも売れ行きが伸びた要因だと思います。

    野菜不足解消呼びかけ

    ── 4年前に「トマトの会社から野菜の会社になる」と掲げました。

    山口 当時から10年後の会社の姿を経営陣で相当に議論しました。人口減少や高齢化は食品業界には逆風ですが、食を通じて社会課題の解決に取り組んで、持続的に成長しようと定めたのです。取り組むべき課題は、健康寿命の延伸、農業振興と地方創生、世界の食料問題の3点です。その使命を果たすにはトマトだけでは幅が狭いので、ほかの野菜に事業領域を広げようと考えたのです。

    ── 具体的にどのような取り組みをしているのですか。

    山口 今年1月から「野菜をとろうキャンペーン」を始めました。1日当たり350グラムの野菜を取るよう呼びかけています。生活習慣病を予防するために必要な栄養素を野菜から取るためには350グラム必要だと厚生労働省も推奨しています。日本人は290グラムしか摂取できていない状況が続いています。だからあと60グラム取りましょうとテレビコマーシャルなどで情報発信しています。

    ── カゴメの商品で60グラムを追加できるものはありますか。

    山口 例えば、紙パックで200ミリリットル入りの野菜ジュース「野菜一日これ一本」は350グラム分の野菜を原料としていますから、必要量はほぼ取ることができます。野菜が不足しがちな若者向けには、野菜や豆乳などを原料にした「野菜生活Soy+(ソイプラス)」という商品を今年発売して注力しています。ただ、食事はバランスが大事です。野菜ジュースだけ飲んでもらえればいいということではなくて、メニューに生野菜、煮野菜、焼き野菜を取り入れて上手に摂取しようと呼びかけをしています。

    トマトジュースは伸び続く

     トマトジュース国内シェア首位のカゴメに追い風になったのが、15年に始まった「機能性表示食品制度」。科学的根拠があれば事業者の責任で一定の健康増進効果を商品に表示することが可能になった。

    ── 主力のトマト関連の市場はどうですか。

    山口 当社は1933年にトマトジュースを発売しましたが、まだ販売が伸びています。発売から90年近くたって伸び続けるロングセラー商品は珍しいと思います。トマトジュースには善玉コレステロールを増やしたり、高めの血圧を下げる効果があると16年から表示しています。これは販売増に効果がありました。

    ── 伊藤園やデルモンテ(キッコーマン製)が、甘くて濃く、高リコピンをうたったトマトジュースを発売して人気です。

    山口 甘いトマトジュースがおいしいと感じる消費者は増えており、昨年はこの領域で少し劣勢でした。(健康効果がある)高リコピンも好まれていて、当社も商品を出しています。天候不順だった19年は、トマトジュース全体の市場は前年比5%減でしたが、当社は6%伸びています。私たちはトマト市場で負けるわけにはいきませんから、すべてのカテゴリーで商品を強化します。

    ── トマトやベビーリーフの栽培も手掛けていますが、「農事業」は赤字が続いています。

    山口 16年までは利益が出ていましたが、国内の生鮮トマトは供給過剰気味で、市況が低迷しています。したがって今は収益構造改革を優先しています。ベビーリーフは山梨県に自社農園があり、18年から本格的に栽培しています。栽培サイクルが早くて、1年で何度も収穫できる生産性の高さに着目しました。欧米では、新しい野菜として市場が大きくなっていて、今後に期待しています。

    (構成=浜田健太郎・編集部)(2020年の経営者)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A 商品開発担当でした。思い出深い商品はサルサソース。当初は売れずに苦労しましたが、いまは根強い人気があります。

    Q 「好きな本」は

    A 沢木耕太郎の『深夜特急』です。本に登場するユーラシア大陸最西端のロカ岬(ポルトガル)を旅したことは感激でした。

    Q 休日の過ごし方

    A 50歳からランニングを始めました。2017年に東京マラソンに出て4時間27分で完走しました。


     ■人物略歴

    やまぐち・さとし

     1960年生まれ、静岡県立浜松北高校卒業。東北大学農学部卒業後、1983年4月カゴメ入社。2010年執行役員。常務執行役員を経て20年1月から現職。静岡県出身。59歳。


    事業内容:トマト・野菜ジュースなど飲料、ケチャップなど調味食品の製造販売

    本社所在地:名古屋市

    設立:1949年8月

    資本金:199億円

    従業員数:2599人(2019年12月末、連結)

    業績(2019年12月期、連結)

     売上収益:1808億円

     営業利益:140億円

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