週刊エコノミスト Online2020年の経営者

日本発の新型コロナ治療薬「アクテムラ」は「ブロックバスター」となり得るのか

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 中村 琢磨 東京都中央区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 中村 琢磨 東京都中央区の本社で

    コロナ薬候補「アクテムラ」年内申請へ

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナウイルスの治療薬候補として「アクテムラ」が注目されています。治験も始まったようですね。

    奥田 アクテムラは関節リウマチの薬として開発されましたが、中国から新型コロナの重症の患者に対して効果があるかもしれないという報告があります。本当に効果があるか、安全に使えるかを確かめる臨床試験を米国などで開始しました。今年の夏ぐらいに結果が出る予定です。日本でも同じような臨床試験を始めていて、年内の承認申請を目指します。(2020年の経営者)

    ── どのような薬ですか。

    奥田 体内で炎症を起こすサイトカイン(細胞から分泌されるたんぱく質)の一種であるインターロイキン6(IL-6)の働きを抑える抗体医薬です。新型コロナによる重症肺炎は、サイトカインが大量に分泌されて炎症が強くなり、患者の正常な臓器を攻撃してしまいます。その主要因の一つであるIL-6の働きを止めることで、重症化や臓器不全を防ぐのではないかと期待されています。試験には時間がかかりますが、安全性が確認されたものを届けます。

    ── 新型コロナのワクチンを手がける計画はありますか。

    奥田 今のところ予定はありません。しかし我々は抗体の構造を改変して、さまざまな機能を持たせる技術を持っています。研究子会社がシンガポール政府の研究機関と共同で、新型コロナに対する抗体医薬品の開発を目指し研究を進めています。新型コロナを引き起こすウイルスに結合し、ウイルスが細胞に感染できなくするよう作用することを目指します。

    ── 血友病治療薬「ヘムライブラ」が売り上げを伸ばしていますね。

    奥田 2019年の世界での売り上げが10億ドル(約1070億円)を超え「ブロックバスター化」(大ヒット薬)しました。ヘムライブラは血液凝固因子のうち8番目の因子が欠損する血友病Aという疾患が対象です。Y字の形をした抗体が8番目の因子の代わりをします。

    ── 患者さんにどんな利点がありますか。

    奥田 これまでの一般的な製剤は、毎日もしくは週に何度も静脈注射する必要がありました。しかし、ヘムライブラは腹部や足に皮下投与でき、週に1回か2週間に1回で済みます。出血を止めることができると臨床試験でも証明されています。血液製剤が効かない「インヒビター」を持った患者もヘムライブラは使用できます。

    がん領域で国内首位

     中外製薬は02年、スイス・製薬会社大手のロシュと戦略的提携契約を結んだ。ロシュが中外株の50・1%(現在は59・9%)を取得し、中外はロシュ・グループの傘下に入った。経営の独立を保つことが合意され、社名や経営トップの変更はなく、東証1部の上場は維持された。

    ── がんの領域で強みを持っていますね。

    奥田 がん領域で国内トップの約16%のシェアを持っています。理由はロシュとの戦略的提携が成功しているからです。抗がん剤で世界トップのロシュが作った薬を、日本で独占的に販売する権利を持っています。中外が作った薬は、ロシュが持つ世界の販売網で届けています。中外では「アレセンサ」という肺がん治療薬も開発しました。

    ── かつては中外製薬の薬が薬局の店頭に並んでいました。

    奥田 中外胃腸薬や「5時から男」のテレビコマーシャルで知られたドリンク剤「グロンサン」などを手がけていました。多角化を進める中で作ってきたものでしたが、処方薬(医療用医薬品)に集中していこうと判断し、ロシュとの提携後に、OTC(一般用医薬品)事業を売却しました。ロシュが作った薬を我々が国内で独占的に販売できるようになり、安定的に利益を確保できるようになったからです。そのため、現在は創薬に集中できるようになりました。

    ── 新しい薬を生み出していくためには、何が必要ですか。

    奥田 開発には人の力が欠かせません。4月から新人事制度の運用を始めました。ポジションにふさわしい人材を充てる適材適所が狙いです。評価にメリハリをつけることで、成果を出した社員には相応の報酬を支払います。

    ── 1992年に社長に就任し、30年近く経営トップを務めた永山治名誉会長が取締役を退きました。経営に変化はありますか。

    奥田 イノベーションに注力し、ロシュとの提携を維持しさらに強化するという方針は新経営陣になっても変わりません。会長の小坂(達朗氏)も、ロシュとの提携がスタートした時の中核メンバーで、私もアクテムラを共同で開発をした経験があります。名誉会長として永山氏から助言をもらうことはあると思いますが、経営に関与していくことはありません。

    (構成=神崎修一・編集部)

    (本誌初出 コロナ薬候補「アクテムラ」年内申請へ 奥田修 中外製薬社長 20200728)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A アクテムラの初期開発を始めたのが37歳の時です。そこからアクテムラ一色でした。

    Q 「好きな本」は

    A 司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。視野の広い、坂本龍馬の考え方は面白いなと思います。

    Q 休日の過ごし方

    A 最近は巣ごもりですが、「コロナ太り」にならないようジョギングしています。


     ■人物略歴

    おくだ・おさむ

     1963年生まれ。県立岐阜高校、岐阜薬科大学卒業後、1987年中外製薬入社。ロシュ・プロダクツ・アイルランド社長、中外製薬執行役員、上席執行役員などを経て20年3月から現職。岐阜県出身。57歳。


    事業内容:医薬品の研究や開発、製造、販売、輸出入など

    本社所在地:東京都中央区

    設立:1943年3月

    資本金:732億200万円

    従業員数:7394人(2019年12月現在、連結)

    業績(19年12月期、連結)

     売上高:6861億円

     営業利益:2105億円

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