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週刊エコノミスト Online 2020年の経営者

「百貨店が生き残るために脱百貨店を」という逆説 J・フロントリテイリング好本達也社長のコロナ戦略

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都中央区で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都中央区で

「脱百貨店」で10年後の将来描く

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 今年5月に社長就任と、新型コロナウイルス禍で大変な時期にバトンを受け継ぐことになりました。

好本 大丸東京店(東京都)の店長だった2008年にリーマン・ショックを経験しました。当時はさまざまな集客策を取り、新しい店だったこともあって1年たったあたりで元に戻ることができました。今回は店を閉めたり、来店客が“密”になる販促イベントはできないなど、打つ手が限られていて、過去に経験がない状況です。サプライチェーン(商品供給網)も傷んでしまっています。

── 21年2月期の連結業績予想で、最終損益が260億円の赤字となる見通しです。

好本 すべての店で5月には営業を再開し、営業時間もほぼ平常に戻しました。それでも6月の売り上げは、対前年同月比で30%近いマイナス。理由の一つは売り上げ全体の約10%を占めていたインバウンド(訪日外国人客)がほぼゼロになったことです。催事や販促を中止したことによるマイナスも当然あります。レストランの利用者もなくなりました。

── 外国人客の売り上げが多い店もありますね。

好本 一番厳しいのは大丸心斎橋店(大阪市)です。売り場の6割を定期賃借契約によるテナントに切り替え、コストを抑えた運営で体質強化していたところに、売り上げの約4割を占めていたインバウンド需要がほぼなくなってしまいました。また、大丸東京店もコロナ禍前は多くのビジネス客が来店し、新幹線が全国から多くの旅行客を運んできた効果もあって、売り上げや利益を伸ばしていた店でしたが、テレワークが続いて新幹線の乗降客数も減ったままと、厳しい状況が続いています。

── どう取り戻しますか。

好本 苦しんでいるのはデジタル化に乗り遅れたためです。店舗を中心とした営業で、店を休業した瞬間に、顧客との連絡手段や決済機能が断たれてしまいました。商品を求められても、うまく提供できない状態で、これを急ピッチで改善しないといけません。

── アマゾンや楽天にない強みは。

好本 全国に約600万人のカード顧客がいて、お客さまとの信頼関係を築いていることです。これまではメールなどを送ることにとどまっていましたが、顧客とのつながりを見直します。

── 手元資金は不足しませんか。

好本 最悪の事態を想定し、借り入れなどで手元の資金を厚くしました。運転資金の18カ月分にあたる3000億円の融資枠もあります。何が起きても資金で苦しむことはありません。

パルコと相乗効果

── ファッションビルを展開するパルコを今年3月に完全子会社化しました。

好本 パルコは「面白いもの」を提示することが得意です。その典型が(19年に新装した)渋谷パルコ(東京都)で、人を呼び込んだり、注目させる力があります。百貨店が中心だったグループのビジネス基盤に、ユニークな店舗づくりや(演劇、音楽などの)エンターテインメントなど、百貨店にはない要素を取り入れます。

── パルコの経営の自由度は奪われませんか。

好本 良い面は残して自由度は奪いません。(パルコが開業予定の)心斎橋店などで、これまで十分発揮しえなかった相乗効果を生み出します。これからグループの不動産事業はパルコに一本化します。

── 松坂屋の本拠地である名古屋市の栄地区に、高さ約200メートルの高層ビルを計画していますね。

好本 ビル自体の計画は三菱地所が主体ですが、我々が商業部門を担います。名古屋は駅前が大きな市場になり、昔からの繁華街である栄にあったオフィスも駅前に移っていますが、栄でも再開発が進めば名古屋駅前と栄の力関係が変わってくると考えています。

── 松坂屋豊田店(愛知県豊田市)を来年9月に閉店します。地方店のあり方をどう考えますか。

好本 大丸松坂屋の残っている地方店はわずか。昨年、地方店がどのような形で生き残れるのか、それぞれ「処方箋」を書きました。例えば、書店などのテナントで集客力を高め、利用客を地下の食品売り場へ誘導する取り組みなどを考えていますが、その中で豊田店は集客が難しいと判断せざるを得ませんでした。

── 「脱百貨店」の経営方針を掲げています。将来の百貨店のあり方をどう考えますか。

好本 山本良一前社長(現取締役会議長)が脱百貨店とずっと言い続けていました。ただ、百貨店の屋号を捨てるわけではありません。デジタル化が進み、顧客の志向も変わるでしょう。百貨店は構造不況業種であることは間違いありません。これまでの百貨店を否定しつつ、10年後のグループのあるべき姿を思い描いていきます。

(構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)

(本誌初出 「脱百貨店」で10年後の将来描く 好本達也 J・フロントリテイリング社長 20200825)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 大丸心斎橋店の営業企画の部署で、販売促進や店舗の改装計画などを担当し、ブランド品を扱う特選売り場のマネジメントも経験しています。

Q 「好きな本」は

A 福沢諭吉の『福翁自伝』です。ことあるごとに読み直しています。

Q 休日の過ごし方

A 東京では単身赴任なので、自分で食事を作っています。好きな競馬の昔のレースをDVDで見ることも楽しみです。


 ■人物略歴

よしもと・たつや

 1956年生まれ。私立清風南海高校、慶応義塾大学卒業後、79年大丸(現大丸松坂屋百貨店)入社。大丸東京店長、J・フロントリテイリング執行役員、大丸松坂屋百貨店社長などを経て、2020年5月から現職。大阪府出身。64歳。


事業内容:百貨店業事業などを行う子会社やグループ会社の経営計画・管理など

本社所在地:東京都中央区

設立:2007年9月

資本金:319億7400万円

従業員数:6579人(20年2月現在、連結)

業績(20年2月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:4806億円

 営業利益:402億円

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