週刊エコノミスト Online2020年の経営者

兜町再開発で証券の街に再び活気を 土本清幸 平和不動産社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 中村 琢磨 東京都中央区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 中村 琢磨 東京都中央区の本社で

    兜町再開発で証券の街に再び活気を

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 東京証券取引所の建物をはじめ東京・兜町に多数のビルを持ち、“兜町の大家”と呼ばれています。最近の兜町はどうですか。

    土本 兜町は大きく変化しました。かつての東京証券取引所では毎日2000人以上の人々が手のサインで株式の売買注文を出す立会場があり、証券の街としてにぎわっていました。しかし、東証が1999年に株式売買を完全にコンピューター化してから証券会社の店舗も減り、飲食店なども閉店が相次ぎました。

     そこで兜町ににぎわいを復活させるために再開発に取り組んでいます。かつては日本人の男性ばかりの街でしたが、現在は住宅、宿泊、食事や買い物も楽しめる街として、若いミュージシャンや世界的な研究者も呼び込める街にするというコンセプトでやっています。

    ── 再開発の目玉として複合ビル「KABUTO ONE(カブトワン)」を建設中です。

    土本 兜町の最寄り駅である東京メトロ東西線茅場町駅と直結して建設する地上15階・地下2階のビルです。当社を主体として山種不動産、ちばぎん証券も参画する共同事業で、当社の投資予定額は150億円です。1階から3階までを吹き抜けの空間にして、金融情報などさまざまな情報を発信できるような場所を作ります。

     500人くらい収容可能なホールも作り、東証に新規上場した企業が上場イベントを行うなどIPO(新規株式公開)の聖地になるような構想も狙っています。

     さらに6階以上の上層階はオフィスです。竣工は1年先ですが、日本経済新聞社グループの金融情報会社、QUICK(クイック)の本社などテナントはすべて内定し、満室で稼働します。

    ── 近隣の大手町や日本橋では新しい高層ビルが次々と建っています。兜町にオフィス用地としての強みはありますか。

    土本 兜町は金融・証券・投資の街であり、当社はこの分野の知識が多い不動産会社です。また、大手町、日本橋などに近い好立地でありながら家賃は安い。大手町、丸の内が5万円(坪単価)、日本橋は4万円程度に比べて、このエリアは2万〜3万円です。独立系の資産運用会社やフィンテック系の金融系ベンチャー企業の誘致などに力を入れています。入居企業に対し、金融機関や投資家とのビジネスマッチング支援をしたり、事業の立ち上げや拡大に必要な書類作成などのサポートもできます。

     1社ごとの規模は大きくなくても多数集まることで、金融ベンチャーの集積地になります。こうした企業向けにスモールオフィスを提供する「FinGATE(フィンゲート)」という名称のオフィス施設を18年にオープンしました。現在4棟で運営し、50社近くが入居しています。

    ── 東京以外の事業はどうですか。

    土本 当社は証券取引所の建物を保有・賃貸する会社として1947年に設立されました。現在も東証以外に、大阪、名古屋、福岡の各証券取引所の建物を保有し、周辺のオフィスビルやホテルも持っています。

     また、札幌では、札幌駅南口の市街地再開発に参画しています。東京への一極集中が進むなか、首都圏直下型地震が起きたらどうなるか、あるいは温暖化の影響で30年後は夏の東京は人が働くのに適した場所になっているのか、といった問題があります。札幌は47都道府県の県庁所在地の中で震度6以上の地震が起きる確率が最も少ないというデータがあります。企業に東京と札幌の2本社体制の提案もできるような開発をしたいと考えています。

    念願の東証家賃値上げ

    ── 東証の家賃を昨年、25年ぶりに引き上げました。

    土本 東証が入居しているビルは1988年の完成です。立派なビルを建てたので、コストに見合った賃料が必要でした。賃料は東証の株式売買高に連動する方式で、90年代には年間70億円程度でした。その後、東証が会員組織から株式会社に変わり、金融危機に伴う株式不況などの影響もあり、徐々に家賃を引き下げて27億円になっていました。

     しかし、ここ数年不動産市況がよくなり、周辺の賃料相場も上がってきました。そこで交渉の結果、19年に30億円に値上げしました。とはいえ、昔のような70億円になるとは思っていません。

    ── 土本さんは東証出身で、立場が複雑では。

    土本 私は東証時代に賃料に関わる仕事を担当したことはなく、しがらみもありません。当社のために最善を尽くすよう努めています。東証のビルができた頃、平和不動産の賃貸収入の7〜8割を取引所が占めていた時期もありましたが今は2割を切り、オフィスが66%、商業施設は16%と分散が進んでいます。中長期的には、物流やデータセンターなどにもチャレンジする価値があると思っています。

    (構成=桑子かつ代・編集部)(2020年の経営者)

    横顔

    Q これまでの仕事でピンチだったことは

    A 東証で上場部長のとき、企業の上場廃止が相次ぎました。厳しい決断を迫られ、気持ちの上では命がけでした。

    Q 「好きな本」は

    A 井波律子さんの『一陽来復』と、ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』です。『赤毛のアン』はランチ後に毎日読んでいます。

    Q 休日の過ごし方

    A テニスです。仕事とは関係ない仲間と汗を流し、リフレッシュしています。


     ■人物略歴

    つちもと・きよゆき

     1959年生まれ。東海高校卒業、82年慶応義塾大学経済学部卒業、東京証券取引所入所。2004年上場部長、07年執行役員、16年取締役専務執行役員。17年平和不動産取締役専務執行役員を経て、19年から現職。愛知県出身。60歳。


    事業内容:証券取引所、オフィス、商業施設、住宅などの開発・賃貸・管理・運営など

    本社所在地:東京都中央区

    設立:1947年7月

    資本金:214億9200万円

    従業員数:237人(2020年3月末現在、連結)

    業績(20年3月期、連結)

     売上高:466億円

     営業利益:109億円

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