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週刊エコノミスト Online 2020年の経営者

都会の人は知らなくても農村では常識? 最新農業はここまでIT化されていた!「Iotとクラウドで管理する」スマートトラクターで世界市場を狙うクボタの挑戦

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 蘆田 剛 東京都中央区の東京本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 蘆田 剛 東京都中央区の東京本社で

「スマート化」で支える日本の農業

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 新型コロナの経営への影響は。

北尾 2020年6月中間決算では売上高は1割弱落ちました。国内では新型コロナの感染拡大で農機の展示会を開くことができず、消費増税の駆け込み需要の反動もあり、販売が落ち込んでいます。欧州でもディーラーが営業を停止するなど影響がありました。一方、小型のトラクターなどを扱う米国では4月以降、販売増が続いています。芝刈り用など「巣ごもり」の需要があるようです。

── 国内農業の現状をどう見ていますか。

北尾 約130万の農家は、この先大きく減少するでしょう。少ない担い手で農業を支えるため、生産性向上につながるスマート農業の導入は欠かせません。ベテランの経験や勘に頼っていた農業を「見える化」することが必要です。

── どのような農機を開発していますか。

北尾 コンバインにはセンサーがついていて、収穫や脱穀をしながら、水分やたんぱく質といったコメのうまみに関する数値を自動で測ることができます。データはクラウドシステム「KSAS(ケーサス)」に送信され、パソコンなどから圃(ほ)場ごとのばらつき具合が確認できます。「ここは収穫量が少なかったから、来年は肥料をもっとまかないといけない」などと分析に生かせます。

── 利用者はどのくらいいますか。

北尾 約9000軒が使っています。このうちすべての機能が使える有料コースは2000軒ほど。残りは無料コースの利用者です。農機を購入していただくことで、元は取れます。農業をやったことがない初心者でも使えるようなシステムにします。

── 自動運転の田植え機も開発したようですね。

北尾 自動運転トラクターとコンバインは発売し、今年秋に田植え機を投入します。これで耕運から、田植え、収穫まで一貫して自動化する環境が整いました。水田の中はぐじゅぐじゅで、機械でも真っすぐに苗を植えることが難しいのです。これまでにGPS(全地球測位システム)の機能を活用して真っすぐ進むことができる機種を発売しましたが好評でした。今度の機種は水田の中で自動旋回もできるようになります。

── 海外事業はどの地域に力を入れていますか。

北尾 米国事業は歴史も長く、利益も出る「ドル箱」です。兼業農家などが使う100馬力以下の小型トラクターが我々の主戦場です。今後は、中西部穀倉地帯の農家向けの大型農機へも挑戦していきます。大豆など現地の作物にあった農機の開発経験が我々にはあまりありませんでした。そこで現地のインプルメント(トラクター装着用作業機器)メーカーを買収し、そのノウハウを活用しながらトラクターを製造していきます。

インドで現地生産

── インド市場にも力を入れています。

北尾 インドは年間約80万台の需要がある世界最大の市場です。インドでのトラクターは稲作や畑作で使用するだけでなく、穀物や土砂などを運搬するトラック代わりとして使われています。10年前にインド市場に参入しましたが当初あまり売れませんでした。5年ほど前に、けん引力に優れた多目的型のトラクターを開発しました。

── 現地生産を始める予定ですね。

北尾 インドメーカーと合弁企業を設立しました。これまでは現地メーカーとの価格差が2割ぐらいありました。クボタのブランド品質を守りながら、現地生産に移すことで2~3割価格を抑えることができます。生産開始は今年春を目指していましたがコロナで工事が遅れています。

── 農機だけでなく建設機械も製造しています。

北尾 1970年代から製造を始め、10トン以下の小型に特化しています。この分野では約20年間、世界シェアトップです。住宅街など狭い工事現場で使うための建機です。小さい建機を作る設計や製造のノウハウを持っていることが大手建機メーカーとの違いです。

── 水に関わる事業から始まった会社ですね。

北尾 鋳物の製造から始まり、3年後に国内で初めて鉄管の量産化に成功しました。今でも東京の地下に埋まっている鉄管の7割ぐらいはクボタ製です。鉄管から派生し、バルブやポンプ、浄化槽などの事業を展開しています。食料、水、環境の事業で「命を支えるプラットフォーマー」を目指します。

── 新しい中期経営計画を策定中です。

北尾 19年は売上高2兆円を目指しましたが未達に終わりました。コロナで先を見通すのが難しい状況です。これから1~2年間は、体質強化を進めます。単なる経費カットで終わることなく、次のステップに進むための原資を作ります。

(構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)

(本誌初出 「スマート化」で支える日本の農業 北尾裕一 クボタ社長 20200901)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 設計に携わったトラクターが壊れて苦情が来ました。部品の強度計算を間違えていて、上司にぼろかすに言われました。

Q 「好きな本」は

A 陽明学者の安岡正篤先生の本です。「一灯照隅 万灯照国」の言葉に気持ちを鼓舞してもらいました。

Q 休日の過ごし方

A 若い頃はテニスばかりでしたが、最近はゴルフに変わりました。


 ■人物略歴

きたお・ゆういち

 1956年生まれ。私立灘高校、東京大学卒業後、79年久保田鉄工(現クボタ)入社。取締役専務執行役員、取締役副社長執行役員などを経て、2020年1月から現職。兵庫県出身。64歳。


事業内容:農業機械や農業関連商品、建設機械、パイプ関連製品の製造・販売など

本社所在地:大阪市

創業:1890年2月

資本金:841億円

従業員数:4万1027人(19年12月現在、連結)

業績(19年12月期、連結)

 売上高:1兆9200億円

 営業利益:2016億円

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