「ごみを焼却発電で世界トップクラス実績のほか洋上風力発電も」本業が苦しくなった日立造船はなぜ環境ビジネスに勝機を見いだしたのか
ごみ焼却発電施設を世界へ
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 新型コロナの影響は。
三野 受注産業のため経営への影響は比較的少ないと言えます。しかし受注時期のずれ、調達品が手に入りにくい、現場の工事工程の遅れなどの影響はあります。海外へ直接営業にいける状況でもありません。今期については計画通りの売り上げを達成できるかと思いますが、来期以降どのような影響が出てくるかは分かりません。
── 社名に造船とありますが、造船部門は2002年に分離しています。現在の主力事業は。
三野 ごみ焼却発電施設や水処理施設などメインは環境・プラント事業です。船のエンジンや化学プラントで使う容器、食品の充てん機などを製造する機械事業もあります。橋梁(きょうりょう)や水門などインフラ事業は、造船の次に古い事業です。トンネルを掘削するためのシールド掘進機も手掛けています。
── 主力のごみ焼却発電施設の特徴や強みは。
三野 1965年に国内初の発電付き焼却炉を大阪市内に建設しました。歴史の古い事業で、豊富な実績があります。ごみを燃やして出た熱で蒸気を発生させて、発電機のタービンを回す仕組みです。2010年に世界トップクラスの実績を持つスイスのイノバ社を買収し、世界中で事業を展開できるようになりました。また、ごみの焼却を遠隔で監視するシステムは01年から開発しています。最初は省人化が目的でしたが、蓄積されたデータを分析することで、運転コストの低減や機器の故障の予知、安定燃焼に役立てています。
── ごみを燃やすことで難しい点は。
三野 エネルギーとしてごみを活用するためには、安定して燃焼させ、蒸気を取り出すことが必要です。燃焼中のデータをAI(人工知能)が解析することで、少し先の燃焼状態が予知できるようになりました。これを利用し、ごみの投入量や空気の吹き込み量、(炉内でごみを載せる)火格子の動かし方を自動で判断して、安定した燃焼状態を保つ技術が進歩しています。また、ICT(情報通信技術)を用いた遠隔監視の拠点「エイアイテック」を18年に大阪市の本社の隣に開設しました。データを一元的に管理し分析することで、よりよい制御につなげる狙いです。
── 今後の市場見通しは。
三野 国内ではこれまで約200件のごみ焼却施設の納入実績がありますが、今後は大きく伸びる市場ではありません。施設の更新需要への対応や、納入した施設のアフターサービスに力を入れます。海外の納入実績は約800件あります。一番大きい市場は中国ですが、国産化が進んでおり、我々の出番は少なくなりました。注目は東南アジアやインド、英国、ロシア、中東といった地域です。ごみの埋め立て処理を減らして、焼却してエネルギーとして活用する動きが広がっています。
── 船用エンジンの製造は続けていますが、課題はありますか。
三野 国内や中国、韓国でも再編が起こり、造船業界は変わりつつあります。(日立造船の造船部門が母体の一つの)ジャパンマリンユナイテッド(JMU)への持ち株比率は1%ほどになりました。エンジンや甲板機器などを手掛けていますが、この先どう競争力を保っていけるかが課題です。
洋上風力発電を推進
── 洋上風力発電の実証運転を始めましたね。
三野 陸上での風力発電の実績はありますが、洋上風力発電は将来性をにらんだ新しい事業です。北九州市の響灘においてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などと共同で、洋上風力発電の実証運転を開始しました。基礎を海上に浮かばせる「浮体式」を採用しています。もともと造船所だった堺工場のドックで構造物を製造することができます。
── サバの養殖などユニークな事業にも取り組んでいます。
三野 実際にサバを養殖して販売するのは、事業を共同開発する日本水産ですが、我々は水槽の水処理を担当しています。(鳥取県米子市の)陸上にある水槽での養殖になるため、水質の悪化につながる排せつ物などの処理が必要になります。八景島シーパラダイス(横浜市)や海遊館(大阪市)など水族館での水処理システムを手掛けています。まだ試行錯誤の取り組みですが、陸上養殖の需要はこれから増えるだろうとみています。
── 営業利益率の低さを経営課題として挙げています。
三野 22年にまずは5%。30年には10%に向上させることが目標です。イノバ社では受注時のリスク管理などに甘さがありました。本社側から海外子会社へのガバナンスを強化し、収益改善を進めます。前期は防波堤整備などで追加工事費用が増加しました。ベテラン社員の退職で技術伝承がうまくいっていない面があったので、再発を防ぎます。10%の達成には新たな事業も必要です。顧客が求める新しい価値を生み出していきます。
(構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)
(本誌初出 ごみ焼却発電施設を世界へ 三野禎男 日立造船社長 20200929)
横顔
Q これまでに「ピンチ」だった場面は
A 設計に携わった実証施設で、タンクが落下してしまったことがありました。近くに人はいませんでしたが、ぞっとした体験です。
Q 「好きな本」は
A 若い人たちには井沢元彦の『世界の「宗教と戦争」講座』を薦めています。儒教やキリスト教、イスラム教など、海外の人たちと話す時に必要な知識が1冊でまとめられています。
Q 休日の過ごし方
A ゴルフや日帰り旅行、「土いじり」もします。
■人物略歴
三野禎男(みの・さだお)
1957年生まれ。香川県立高松高校、京都大大学院修了後、1982年日立造船入社。環境事業本部長、常務、副社長などを経て2020年4月から現職。香川県出身。63歳。
事業内容:ごみ焼却発電施設、海水淡水化プラント、舶用エンジン、シールド掘進機などの設計・製作
本社所在地:大阪市
設立:1934年5月
資本金:454億円
従業員数:1万707人(20年3月末、連結)
業績(20年3月期、連結)
売上高 4024億円
営業利益 138億円