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「出版業界の人に限って悲観論を言う」不況でも伸びている出版社は何が違うのか(松本大輔・インプレスホールディングス社長)

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝 東京都千代田区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝 東京都千代田区の本社で

    紙にこだわらず出版を面白く

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 出版が本業ですが、出版不況は深刻です。

    松本 「出版不況だ、大変だ」と言う声は、出版社の中からばかり聞こえてくる印象です。

    出版社は、面白いことをやって、読み手に何らかの手段で伝えるのが仕事。これまでは紙媒体を主に週刊や月刊、あるいは書籍を作って書店で買ってもらっていたのが、デジタル化で伝え方が変わってきただけ。

    面白いものをつくれば、読者は絶対います。

    出版業界の人に限って悲観論を言いがちですが、僕はそんなことないと思っています。

    ── 新型コロナウイルス禍の2020年4~6月期連結の業績は、売上高が前年同期比で6・2%伸びました。

    松本 書籍の売り上げが好調でした。

    家にこもる間に何かを学びたいという人が、想定していたよりも多かったと感じます。

    中でも、傘下のエムディエヌコーポレーションが発行する『なるほどデザイン』(15年発売、累計15万部)など、デザイン系の書籍の売り上げが伸びたのが特徴。

    在宅の時間が増えたことで、個人でホームページやブログを持っている人が、デザインを学ぶケースが増えているのかなと思います。

    ── とはいえ、雑誌は大変では。

    松本 紙の雑誌だけでは非常に厳しいのが現状で、休刊した雑誌もあります。

    そこで、傘下のリットーミュージックでは各雑誌のウェブサイトを立ち上げています。

    例えば、音響・録音技術の専門誌『サウンド&レコーディング・マガジン』は、まずすべての記事をウェブに載せて、その中から厳選した記事を月刊誌に掲載しています。

    ウェブ会員は過去数十年分のバックナンバーを読めるので、そこに魅力を感じてくれる読者がいます。

    逆にウェブでは「ここから先は雑誌にもっと詳しく載っています」と紙に誘導したり、その逆もしかりで、どのやり方が効果的かを確かめているところです。

     インプレスホールディングス(HD)は、1992年に設立された主にIT関連の雑誌・書籍を手掛ける出版社インプレスを母体に、現在は『ギター・マガジン』など音楽雑誌を発行するリットーミュージック、登山専門誌『山と溪谷』を発行する山と溪谷社などの出版社を買収。99年に持ち株会社に移行し、現在は出版社7社のほかインターネットメディアの運営などを手掛ける企業を傘下とする。

    ── 月刊誌の『山と溪谷』はどうですか。

    松本 山岳系の雑誌では『山と溪谷』が最も売れています。

    ウェブサイトは立ち上げていませんが、山好きのための登山情報サイト「ヤマケイオンライン」や、登山のスタンプラリー用アプリ「ヤマスタ」も作りました。ヤマスタは、対象の山に登るとGPS(全地球測位システム)の位置情報でスタンプがもらえる仕組みで人気です。

    また、自治体と提携してイベントの集客などもしていて、現在は神奈川県秦野市と組み、ヤマスタを活用した「秦野丹沢ハイキング スタンプラリー」を実施しています(21年2月末まで)。こうした取り組みが収益の源泉にもなっています。

    オンデマンドも好調

    ── コンサートのパンフレットやTシャツなどを注文が入ってから作る、オンデマンド事業が好調と聞きました。

    松本 昔のコンサートのパンフレットは、古本屋などで高値で転売されていますが、アーティストや音楽事務所には1円も入りません。

    もったいないと思って始めたのがオンデマンド事業で、アーティストや音楽事務所と契約して紙のパンフレットをデジタル化し、電子書籍ストアで適正な価格で販売しています。ただ、最初はまったく売れませんでした。

    ── 売れるようになったきっかけは?

    松本 これは困ったと思った時、ふと立ち寄ったコンビニエンスストアで、アマゾンや楽天のギフトカードが目に留まりました。

    カードを先に買って料金を払い、後でネットでの買い物に使う仕組みです。

    日本人はやはり形になっているものが好きだということに気付き、電子データをダウンロードできるカードを作ってコンサート会場で売ったところ、とんでもなく売れました。

    ── 今後の目標は。

    松本 インプレスのヒット商品にパソコン解説書の「できる」シリーズがあります。

    コロナをきっかけに働き方にも変化があったので、『できるZoom』と『できるテレワーク入門』を緊急発売しました。

    発売前に重版がかかるなど、売れ行きは好調です。

    グループ力を生かして『できるギター』などパソコン以外にも広げています。これまでシリーズ累計で7500万部を売っているので、電子も含めて1億部を目指したいですね。

    (構成=斎藤信世・編集部)(2020年の経営者)

    (本誌初出 紙にこだわらず出版を面白く 松本大輔 インプレスホールディングス社長 20201020)

    横顔

    Q これまでに「ピンチ」だった場面は

    A オンデマンド事業を始めたものの、まったく売れなかったときです。アーティストの事務所から「こんなに売れないとはどういうことだ」とお叱りを受けて、会社を辞めなければならないかも、と思うところまで追い詰められました。

    Q 「好きな本」は

    A あまり読書家ではないですが、東野圭吾さんの小説は好きです。

    Q 休日の過ごし方

    A 子どもと一緒にアーチェリーをしています。


     ■人物略歴

    松本大輔(まつもと・だいすけ)

     1973年生まれ。埼玉県立越谷北高校卒業、96年獨協大学卒業、リットーミュージック入社。2016年リットーミュージック取締役、18年同社社長(現在も兼任)、20年6月から現職。47歳。


    事業内容:出版、インターネットメディア運営、コンテンツ事業など

    本社所在地:東京都千代田区

    設立:1992年4月1日

    資本金:53億4102万円

    従業員数:567人 (2020年3月末、連結)

    業績(20年3月期、連結)

     売上高:135億700万円

     営業利益:4億3100万円

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