週刊エコノミスト Online2020年の経営者

ECサイト刷新、デジタルで勝負 杉江俊彦 三越伊勢丹ホールディングス社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝:東京都新宿区で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝:東京都新宿区で

    ECサイト刷新、デジタルで勝負

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナによる政府の緊急事態宣言を受け、4~5月は店舗の閉鎖を余儀なくされました。その後の影響はどうですか。

    杉江 9月の売上高は前年同月比で約35%減でした。昨年9月は消費増税前の駆け込み需要があったので比較は難しいところです。10月に入り売り上げはプラスで推移しており、戻ってきている感じがあります。

    ── 顧客の需要に変化はありますか。

    杉江 化粧品や男性のスーツなどが厳しい状態です。食料品については総菜やスイーツはほぼ前年並みに戻りましたが、企業の会食が減り土産品などは全く動いていません。日本人客でいえば9割ぐらいまで回復しました。外国人客は必ず戻ってきますので、今は我慢の時です。

    ── デジタル戦略を加速させています。

    杉江 6月にオンラインストアやスマホ向けアプリを刷新しました。店舗でもネットでも同じように買い物ができるようシームレス(継ぎ目がない)なサービス提供が必要です。「アマゾン・エフェクト(アマゾンの急成長に伴う市場変革)」などと言われるように、コロナ前からデジタルは絶対に取り組まなければいけない課題でした。

    ── オンラインの特徴は。

    杉江 我々の商品は単価が高いため、ネットでは簡単には売れません。そのため、店舗で下見してネットで買っても、ネットで見てから店舗で買ってもいいように工夫しました。動画や販売員のコメントが見られたり、チャット(文字による会話)で相談を受けつけるなど綿密なサービスを提供していく計画です。ここはアマゾンにはまねできないでしょう。リニューアルしたばかりで使いにくい面もあります。利用者の意見を受け止め、改善していきます。

    ── テレビ会議システムを使ったランドセル販売が好評だったそうですね。

    杉江 緊急事態宣言が発令された時がちょうどランドセルの販売シーズンでした。お子さんと両親、祖父母の3世代が集まって来店することが多いのですが、今年はできなくなりました。そこでそれぞれの家族と店舗をオンラインでつないで接客することを現場が思いつきました。コロナは経営へ大きな打撃とはなりましたが、従業員の気持ちを大きく変えたという意味では良かったと言えます。この4月以降、社員全員のITやデジタルに対しての意欲が変わりました。

    ── 店舗の再編を進めています。来年2月には三越恵比寿店も閉店する計画です。

    杉江 良い立地は時代とともに変わっています。恵比寿店がそうです。「恵比寿ガーデンプレイス」が開業した1994年当時は、都心の大型複合施設は珍しく、多くの買い物客でにぎわいました。しかし車で10分ほどの距離にある六本木にも新しい商業施設ができ、渋谷も街が新しくなっていく中で、魅力が薄れてしまいました。

    三越に「ビック」開店

    ── 日本橋三越本店内に家電量販店のビックカメラが開店したことには驚きました。

    杉江 百貨店でも家電を扱っていた時代がありました。家電量販店が台頭し、種類も増えていく中で、我々だけで扱うことは難しい状況になりました。ただ、三越の顧客の中には、量販店で列に並んで買い物することに抵抗があることも感じていました。ビックカメラも高級家電をもっと販売したいと考えていたようで、手を組むことになりました。日本橋店の品ぞろえを充実させることが狙いで、不動産化(売り場をテナントに貸すこと)が目的ではありません。

    ── 安さを前面に打ち出す他のビックカメラの店舗とは雰囲気が違うようですね。

    杉江 制服はスーツに変更してもらい、店内音楽もジャズ風にアレンジしています。我々とビックカメラの販売員が連携して、一緒に接客することもあります。2月に開店したばかりですが好調なため、9月から売り場をワンフロアからツーフロアに拡大しました。日本橋店にはゴルフ用品の「ヴィクトリアゴルフ」も入りました。伊勢丹新宿本店や三越銀座店でも、我々が扱えない商品を専門店に任せる可能性はあります。

    ── ライバル百貨店では店舗の多くの部分をテナントに貸して、自社で売り場を作らない「脱百貨店」の流れが進んでいます。

    杉江 立地に合わせて、どちらが利益がでるかと考える必要があります。不動産化を否定していることはありません。新宿店のような売り上げの大きな店では百貨店業態のほうが利益が見込めます。逆に地方店は不動産化も進めていかなければいけません。松山三越は上層階をホテルに改装します。買い物客のニーズを調べたところ、今の面積は大きすぎるという結論になったからです。空いたスペースを観光客のために活用する狙いです。

    (構成=神崎修一・編集部)(2020年の経営者)

    横顔

    Q これまでの仕事でピンチだったことは

    A 体育会系の社風に合わず、新入社員の時は「入る会社を間違えた」と悩みました。当時の上司に「仕事は楽しんでやろう」と励まされ、気持ちが切り替えられました。

    Q 「好きな本」は

    A 活字中毒なので本はたくさん読みます。一番読むのは中国の歴史小説です。

    Q 休日の過ごし方

    A 昔はアウトドア派でしたが、今は自宅でギターを弾くことです。


     ■人物略歴

    杉江俊彦(すぎえ・としひこ)

     1961年生まれ、慶応義塾高校、慶応義塾大学法学部卒業、83年伊勢丹(現三越伊勢丹)入社。営業本部MD統括部食品統括部長や経営戦略本部長などを経て、2017年4月から現職。東京都出身、59歳。


    事業内容:百貨店事業などを行う子会社やグループ会社の経営計画・管理

    本社所在地:東京都新宿区

    設立:2008年4月

    資本金:508億円

    従業員数:1万2453人(20年3月末、連結)

    業績(20年3月期、連結)

     売上高:1兆1191億円

     営業利益:156億円

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