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「若者は投資への関心が薄い」ネット証券の草分け社長がそう語る理由

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、千代田区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、千代田区の本社で

    ネット証券の草分けとして若者を開拓

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナウイルスの拡大で取引注文が増えたそうですね。

    和里田 3月の新規口座開設数は前年同月比で3倍の1万4000件でした。

    3月に世界の株価が一時急落し、その後の株価回復への大きな期待が高まり、投資機会ととらえた個人が増えたと思います。

    過去にも相場が下げた局面では売買が増える傾向がみられました。

    また、テレワークで在宅の時間が増えたことも、取引がしやすい環境になったと思います。

    2012年12月の第2次安倍政権発足後の活発な株式取引の活況に似ているという印象です。

    第1四半期(4〜6月)は手数料収入の増加などで純利益が前年同期比53%増となりました。

    ── 松井証券は日本のネット証券の草分け的存在です。

    和里田 創業は1918(大正7)年で100年を超える歴史があり、98年に国内初のインターネット取引を開始しました。

    ですから、現在の40、50代は松井証券がネット取引の道を開いたという認識があると思いますが、今の20、30代はそれを知らない人が多いかもしれません。

    当社の口座数の半分強は50代以上で、預かり資産では4分の3を占めます。

    ネットの画面も文字の大きさなど見やすいように心がけていて、年配の人からの支持が大きいです。

    ── 若い顧客の取り込みが課題だと。

    和里田 将来の50代の人たちに向けて認知度を上げる種まきをしていかないといけないと思います。

    当社がネット取引を始めた90年代後半から00年ごろは、20、30代の人がデイトレードを始めるなど、結構、株取引をしていました。

    そうした人たちが集まって話をすると、今は若いデイトレーダーはいないと言います。

    上場企業の社員持ち株会でも、会社が補助を出して自社株の購入を勧めても、損をするかもしれないから、となかなか買わないそうです。

    そういう人たちには、いきなり株取引ではなく、積み立て投資が向いているかもしれません。

    いろいろ手立てを考えています。

    ── 若い人は投資への関心が薄い。

    和里田 人がどういう時に投資に関心を持つかというと、結婚、子供の誕生、入学、定年といった人生のイベントがある時です。

    そうしたタイミングをとらえて投資を始めませんか、というプロモーションをしています。

    一例として、結婚情報メディアのホームページで結婚準備に向けた資産形成の連載をしています。

    また、お笑いコンビに資産運用をテーマにした動画に登場してもらい、配信するなどしています。

    手数料引き下げ競争

    ── ネット証券業界では、手数料ゼロ、引き下げ競争の流れが止まりません。

    和里田 当社は19年12月から株の現物取引、信用取引にかかわらず1日の約定代金合計が50万円まで手数料が無料です。

    東京証券取引所の上場銘柄のうち9割以上は50万円以下で買えるので、投資の初心者でも試しに投資ができると思います。

    ただ、手数料ゼロは自分で自分の首を絞めるようなものです。

    手数料無料化の流れは、米国が先行し、日本も同様になる、という単純な発想で進んでいるように思いますが、日米の証券業界では収益構造の仕組みが違います。

    この収入源をゼロにするのは容易ではありません。

    創業家以外で初の社長

    ── 6月に社長に就任し、まず取り組んだことは。

    和里田 組織改革を一気に進めました。

    これまでは上意下達で、部長や課長の役割があまり明確になっていませんでしたが、それを明確にし、経営方針に沿ってそれぞれの部門ごとにゴールを決め、一人ひとりが参画して責任を持つ体制にしました。

    また、「顧客サポート部」を「投資サポート部」に変えました。

    対面サービスではなくても、200人のオペレーターがいるコールセンターを利用した電話の投資相談などに広げていきたいと考えています。

    ── 創業家の松井道夫前社長が25年務めた後を引き継ぎました。カリスマ経営者の後で大変では。

    和里田 私の前職はUBS証券で、松井証券との関わりは01年からです。

    株式上場や最初の社債発行を担当し、海外の投資家訪問にも同行しました。

    事業拡大や資本政策などを一緒にやっていた中で、うちに来ないかということで06年に入社しました。

    前社長の松井は強烈なリーダーシップで、どうしても皆が松井に頼ってしまい“松井道夫商店”という面がありました。

    松井は今回、顧問に退き、経営には参画しません。

    私は誰か個人の能力に頼るのではなく、皆の参画意識を高めて、多様性を重視して組織としての力を最大化したいと思います。

    (構成=桑子かつ代・編集部)(2020年の経営者)

    (本誌初出 ネット証券の草分けとして若者を開拓 和里田聰 松井証券社長 20201103)

    横顔

    Q これまでの仕事でピンチだったことは

    A 取締役就任当初、前社長との調整不足のまま拙速に信用取引手数料の一部無料化を実行し、後に撤回、顧客に迷惑をかけてしまったことです。

    Q 「私を変えた」本は

    A 歴史小説が好きです。歴史は勝者によって作られるため、通説はまず疑って考えます。

    Q 休日の過ごし方

    A 料理です。30代の頃は料理学校にも行きました。おしゃれなカフェで過ごすのも好きです。


     ■人物略歴

    和里田聰(わりた・あきら)

     1971年生まれ。開成高校卒業、94年一橋大学商学部卒業。同年プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(現P&Gジャパン)入社。98年リーマン・ブラザーズ証券、99年UBS証券を経て、2006年松井証券入社。11年常務取締役、20年6月から現職。東京都出身。49歳。


    事業内容:株式売買仲介など金融商品取引業

    本店所在地:東京都千代田区

    設立:1918年5月

    資本金:119億円

    従業員数:142人(2020年3月末、単独)

    業績:(20年3月期、単独)

     売上高:241億円

     営業利益:89億円

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