週刊エコノミスト Online2020年の経営者

世界の魚消費は増え水産は成長産業 池見賢 マルハニチロ社長

    Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都江東区の本社で
    Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都江東区の本社で

    世界の魚消費は増え水産は成長産業

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 新型コロナウイルスの影響は?

    池見 外出自粛や全国の学校休校、インバウンド(訪日外国人)の激減で、給食・業務用冷凍食品や高級水産物の需要は大きく減りました。漁業はオーストラリアやアフリカなど海外で事業展開していますが、国によっては船員の交代ができなかったり、(外国籍の)船員が母国に帰ったりして人員補充ができず、稼働率が落ちました。養殖事業ではクロマグロやブリ、カンパチは、育っても販売先がない。魚介類の買い付けはできますが、マグロやホタテ、カニなど高級食材は安く買いたたかれます。

    ── 「巣ごもり」需要など良い影響もあったのでは。

    池見 家庭内消費が増えたことで、冷凍食品や缶詰は4~6月の売り上げが前年同期比で20~30%増えました。冷凍食品は今でも10%増と好調です。猫のペットフード缶の売れ行きはもともと緩やかに拡大していましたが、コロナ禍でも順調に伸びました。人が食べる缶詰より2~3割高く売れ、利益率も高いのです。

    ── 今後どのような対応を?

    池見 家庭を中心にした消費を前提にしなければなりません。例えば、冷凍食品はこれまで弁当のおかずの一つという位置づけでしたが、今では味も飛躍的に改善されています。単身や共働き世帯など料理に時間を掛けられない家庭に対し、1品だけでなく、主菜から副菜まで提供できる工夫をしていきたい。当社の得意分野である水産原料を活用してヘルシーな冷凍食品を提案するのも一手です。

    ── 2010年に民間で初めてクロマグロ(本マグロ)の完全養殖に成功し、15年に商業出荷を始めました。

    池見 日本の海域のクロマグロ資源は乱獲で枯渇傾向にありました。持続可能な経営が求められる中で、完全養殖を実現することは水産会社として使命でした。通常は天然のヨコワ(幼魚)を仕入れて大きく育てますが、これは天然資源に依存します。卵を人工ふ化させて、稚魚から成魚まで育てて、また卵を産むというサイクルを確立するのが完全養殖です。

    ── 完全養殖は近畿大学なども取り組んでいますが、そんなに難しい?

    池見 実は、一度は事業継続を断念したのです。何十万粒の卵の生存割合を上げること、ふ化場から養殖場への移動など生活環境の変化に対応させることがポイントで、全てを科学的に解明しなければいけませんでした。マグロが網にぶつかって死んでしまえば商品化もできません。資金と労力はたくさん注ぎましたね。

    ── 事業としてはどうですか。

    池見 通常の養殖に比べ養殖期間が長く、えさ代などコストは割高ですが、欧州の消費者は生物保全の視点からある程度の付加価値を付けて買ってくれます。しかし、日本ではまだ付加価値を感じてもらえず、通常の養殖も完全養殖も同程度の値段です。コロナで事業環境はさらに厳しくなっていますが、当社が創業140年を迎えられたのも天然資源のおかげ。持続可能な水産資源でリーダーシップを取れる会社になるためにも事業継続の使命を果たすつもりです。

    遠洋漁業拡大へ

    ── 今年、高級魚「メロ(銀ムツ)」の遠洋漁船を竣工(しゅんこう)しました。

    池見 統計では世界の1人当たりの魚の年間消費量は20キロで、人口が増えればさらに市場も広がり、水産事業はまさに成長産業。1970年代以降、沿岸200カイリの漁業が制限され、外資規制もあって漁業権を獲得するのは難しくなっていますが、それぞれの国で漁業権を持ったパートナーなどを探し、事業拡大を図ります。

    ── 成長事業として「介護食」に力を入れているようですね。

    池見 高齢化社会になって在宅介護が増え、介護食の需要が高まっています。また、病院や介護施設でも人手不足のため、手作りの介護食を提供するのが大変です。そこで、介護食を冷凍食品で出せれば、活路があります。食材を酵素分解させて柔らかくする技術を使っており、咀嚼(そしゃく)力のレベルに応じた固さの魚や肉を取りそろえることができます。健康に良いとされる魚の食材を扱うことで、当社が注力する意味はあると思います。

    ── 19年からプロ野球・横浜DeNAベイスターズのスポンサーになりました。前身の大洋漁業が大洋ホエールズ(ベイスターズの前身)を所有していたことを知る世代には感慨深いですね。

    池見 スポンサーになったのはブランド戦略の一環です。マルハとニチロが経営統合した会社で、ブランド名もたくさんあったため、マルハニチロとして企業ロゴの露出を増やし、認知度を高めることが狙いです。また社員や関係者に当社を好きになってもらうことも大切です。社員同士で話していると、入社したのは「大洋ホエールズがあったから」という社員も結構いますよ。(2020年の経営者)

    (構成=柳沢亮・編集部)

    横顔

    Q これまでの仕事でピンチだったことは

    A 経営企画部長として、グループ内主要6社の統合をベースに中期経営計画を作る作業と、アクリフーズの農薬混入事件(2013年)が重なった時期がありました。とても厳しい日々でした。

    Q 「好きな本」は

    A 歴史本をよく読みます。最近は『親鸞』(五木寛之著)ですね。

    Q 休日の過ごし方

    A 最近は、自転車を買って多摩川沿いの土手を走っています。


     ■人物略歴

    池見賢(いけみ・まさる)

     1957年生まれ。私立六甲学院高校、京都大学農学部卒業、81年大洋漁業(現マルハニチロ)入社。ソロモン諸島やタイなど海外勤務を長く経験し、2017年常務執行役員、20年4月から現職。兵庫県出身。62歳。


    事業内容:漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売、缶詰や冷凍食品などの製造・販売

    本社所在地:東京都江東区

    創業:1943年3月(創業:1880年)

    資本金:200億円

    従業員数:1万1107人(20年3月末現在、連結)

    業績(20年3月期、連結)

     売上高:9052億400万円

     営業利益:170億7900万円

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