週刊エコノミスト Online2020年の経営者

eラーニングで子供達の人生を変える 湯野川孝彦 すららネット社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、千代田区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、千代田区の本社で

    eラーニングで子供達の人生を変える

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── すららネットは何をやっている会社ですか。

    湯野川 オンラインで学ぶeラーニング教材を提供している会社です。小学生から高校生を対象に、英数国理社の5教科をそろえています。特徴は学力の低い生徒でも理解できるように工夫していること。世の多くの教育企業は、賢い生徒が良い学校に入ることに焦点を当てています。それに対し、当社は不登校や発達・学習障害の子たちの学力向上も視野に入れています。

    ── どんな工夫をしていますか。

    湯野川 生徒の実力に応じて、AI(人工知能)が最適な問題を出す「アダプティブラーニング」という手法を採用しています。例えば、中学生が数学の1次方程式の問題を解けない場合、分数の通分や約分など小学生で学ぶ内容を理解していないことが多い。この「つまずき」をAIが自動的に診断し、生徒のレベルに合った問題を出し直します。それだけではありません。学力の低さは、集中力が続かなかったり、そもそも、学習習慣がなかったりすることに起因します。だから、アニメーションのキャラクターを使って、生徒の興味を引くようにしています。

    ── どのようなものですか。

    湯野川 教科ごとにアニメの世界観が全然違います。中学版の英語は、家庭にETみたいな宇宙人が紛れ込むという物語。高校版の英語は、米国のコミックのようなスーパーヒーローが出てきて、何の変哲もない女の子が、学んでいくうちに奇麗になる、というストーリーです。声優も、テレビのアニメで出てくるような超一流の人を起用しています。生徒はこうした世界観の中で、キャラクターや声優に励まされ、小さな成功体験を積み重ねていきます。

    ── 実際の学習効果は。

    湯野川 導入している学校では、ベネッセの診断テストを定期的にしています。どの学校でも、生徒の学力分布が大きく変わっています。長崎県のある高校では、Dランクの成績の生徒が大きく減り、A、B、Cランクの生徒が大幅に増えています。神奈川県のある高校では平均偏差値が1年間で5・4ポイント上昇しました。

    コロナで導入が大幅増加

    ── すららを導入しているのはどんなところですか。

    湯野川 主に、学習塾、学校、一般家庭向け(BtoC)の三つがあります。すららは、タブレット端末やパソコンを使い、オンラインで学べます。いずれの導入先も、コロナショックによる休校期間中に、自宅学習をしなければいけないということで、利用者が大きく増えました。

    ── 具体的には。

    湯野川 すららは、利用者をクラウド上で付与するID(身分証明)の数でカウントしています。一般家庭向けのID数は、2019年12月末に3543と同9月末比で51%増加、学習塾は2万4858の同37%増でした。また、安倍首相(当時)の2月27日の臨時休校要請を受け、生徒に自宅で学習してもらうために、全国の学校369校に計15万IDを無償配布しました。その一部がその後、有料サービスに切り替わったこともあり、学校向けIDは同8・8倍の29万4671に増えました。

    ── 足元の業績は。

    湯野川 コロナを契機に各教育機関や家庭への導入が増えたことを受け、20年1〜9月期の売上高は前年同期比37%増の11億4300万円、営業損益は前年の1000万円の赤字から、3億9000万円の黒字と過去最高となりました。

    ── 教師側にもメリットはありますか。

    湯野川 先生は、パソコンやタブレット端末の管理画面で、それぞれの生徒の学習進度が個別に分かります。また、学習目標や宿題も端末を通じ、自動で設定できます。2月の臨時休校要請の際、全国の学校は、休校期間中の家庭学習のため、先生がコピー機をフル回転させ、課題を配るなど、大変な手間が発生しました。一方、すららを導入している学校は、管理端末上で履修すべき範囲を設定すれば、生徒一人一人に合わせた宿題が自動的に出されます。教材の印刷、配布、回収、採点、集計の手間が一切ありません。先生の働き方改革にもつながります。

    ── 海外展開にも力を入れています。

    湯野川 スリランカ、インドネシア、インド、フィリピンで現地向けの「Surala Ninja!(すらら・ニンジャ)」を展開しています。発展途上国の子供達は、基礎学力が非常に低いので、サービスをどんどん広げ、教育面の課題を解決していきたい。今年2月からはエジプトでも実証実験を開始しました。アラビア語圏でも広める構想を持っています。

     eラーニングで世界中の子供達の人生を変えていきたいと思います。(2020年の経営者)

    (構成=稲留正英・編集部)

    横顔

    Q これまで仕事でピンチだったことは

    A すららを立ち上げたベンチャー・リンクの経営が悪化したため、2010年にMBO(経営陣による買収)で独立しました。しかし、その後も資金調達が思うようにいかず、ピンチの連続でした。

    Q 「好きな本」は

    A ジム・コリンズ氏の『ビジョナリーカンパニー』。また新原浩朗氏の『日本の優秀企業研究』です。

    Q 休日の過ごし方

    A 犬の散歩が私の仕事です。最近は夫婦でヨガレッスンを受けています。


     ■人物略歴

    湯野川孝彦(ゆのかわ・たかひこ)

     1960年山口県宇部市生まれ、山口県立宇部高校、大阪大学基礎工学部卒業。85年日本LCA入社、2003年ベンチャー・リンク入社。05年、「すらら」を社内起業。10年MBO(経営陣による買収)で独立、社長に就任。60歳。


    事業内容:eラーニングによる教育サービスの提供

    本社所在地:東京都千代田区内神田1丁目13番1号 豊島屋ビル4階

    設立:2008年8月

    資本金:2億8251万円

    従業員数:50人(20年10月末)

    業績(19年12月期、単体)

     売上高:11億4100万円

     営業利益:6400万円

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