週刊エコノミスト Online2020年の経営者

紙幣印刷機を世界各国に供給 持田訓 小森コーポレーション社長兼CEO

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝:墨田区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝:墨田区の本社で

    紙幣印刷機を世界各国に供給

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 国内で紙幣印刷機を製造しているのは、小森だけですね。

    持田 戦後間もなくは、紙幣の印刷機メーカーが複数あり、当社もそのうちの1社に過ぎませんでした。しかし、精密な印刷機を安定的に供給できるところは限られ、だんだん会社がなくなってきて、結局、当社が最後まで残ったということなんです。紙幣印刷は、当局が公募して、メーカーに製造方法を教えるというやり方だと偽造を招く恐れがあります。

    ── 2024年に新紙幣の導入が予定されています。

     一つの紙幣印刷機を作るのにだいたい2年くらいかかり、15年から20年に1度納入するという感じです。紙幣印刷機は20年ぐらい先を見て機械の仕様を決めているので、いま急いで新しい機械を製造するわけではないんです。新紙幣で特需がある、という状況ではありませんね。

    ── 日本だけでなく、英国のポンド紙幣の印刷にも使われているとは驚きです。

    持田 2017年から当社の印刷機が英国の中央銀行に採用されています。当時、ポンド紙幣は旧デザインから新デザインへの切り替わりの時期で、旧デザインの紙幣を当社の印刷機で試し刷りしたところ、鮮明すぎて「偽造と疑われるから鮮明度を落としてくれ」と言われました(笑)。

    ── 採用された経緯は。

    持田 世界の紙幣印刷機は、長年、独KBA社がほぼ独占していました。その中で紙幣の請負印刷の最大手、英デ・ラ・ルー社と協力関係を構築したことが大きかったです。同社は途上国を中心に150カ国以上の紙幣印刷を請け負っています。この会社が当社の印刷機を採用した。そうした実績と信用の積み重ねが英中央銀行の受注にもつながりました。

    ── 輸出に積極的ですね。

    持田 英国のほか、フィリピン、インド、インドネシア、中国にも納めています。国民の生活レベルが上がるにつれて、紙幣印刷量の増加、セキュリティーの向上、国威発揚など、紙幣への要求が高くなるので、世界の紙幣印刷市場は着実に拡大しています。現在、世界の紙幣流通量の85%は、各国が自前で生産していますが、残り15%は民間の印刷会社が各国から請け負っています。

    ── ライバルのKBAと世界市場を二分しています。

    持田 これまで当社は国別で30カ国ぐらいに納入しており、そのほか民間紙幣印刷会社にも納入しているので、合わせると100カ国ぐらいの紙幣は、当社の印刷機で刷ったものです。KBA社とのシェアは、ここ10年の受注台数で50対50ぐらいですね。

    中国も追いつけない

    ── 一方で、売上高の約8割は一般の商業用印刷機です。デジタル化で印刷需要への影響は。

    持田 徐々に減少しています。ただ、欧米はデジタル化の影響で減っていますが、アジアはそこまでデジタル化が進んでいないので伸びています。今年は新型コロナの影響で商業印刷分野は厳しい状況です。しかし、中国市場はすでに回復していますし、食品や医薬品の包装材向けは好調です。包装材は環境問題からプラスチックから紙への代替が志向されているので、全世界的に右肩上がりです。当社で言えば、売り上げの約65%がアジアへの輸出です。

    ── アジア勢と価格競争になりませんか。

    持田 実はアジアの印刷機メーカーはすでに淘汰(とうた)されていて、ドイツのハイデルベルグ社とKBA、当社の3社が世界の主要印刷機メーカーという状況です。中国も約20年前、現地の企業20~30社が参入しましたが、今はほとんど残っていません。印刷機械というのは、部品が5万点ぐらいあって、工作機械並みの精度で作らないといけない。産業機械の中でも印刷機は参入障壁が高い分野なんです。

    ── 中国も追いつけない?

    持田 簡単には追いつけないでしょう。例えば、色を合わせる工程では、100分の5ミリぐらいずれただけでも、仕上がりは全然違ってしまう。目のいい印刷オペレーターだと、100分の2ミリずれても「色が違う」と見抜きます。それぐらい色を合わせるのは難しい。4色や6色を短時間で高速大量印刷するには、非常に高い技術レベルが求められます。

    ── 印刷技術は、版を作って刷る従来の手法から、デジタル印刷への流れが加速しています。

    持田 大量のものを早く安く刷るのはオフセット印刷など従来の印刷手法が適していますが、少量多品種になるとデジタル印刷に優位性があります。印刷業界では技能を持った職人が減って、よい機械があっても色合わせなどうまく動かせる人が少ないです。

     その点、デジタル印刷は極端に言えば誰にでもできます。デジタル印刷機の開発には大きな投資が必要になりますが、成長分野だと期待しています。(2020年の経営者)

    (構成=和田肇・編集部)

    横顔

    Q これまでの仕事でピンチだったことは

    A 約30年前、欧州通貨危機(ポンド危機)に見舞われた時です。当時、欧州で仕事をしていたのですが、為替の影響で売れば売るほど損をする状況で、夜も眠れないほどでした。結局、いくつかの現地拠点を閉めました。

    Q 「好きな本」は

    A 今は中国やインド関係の本です。孔子や史書、陽明学、仏教関係などが好きです。

    Q 休日の過ごし方

    A 庭の手入れです。気分がすっきりします。


     ■人物略歴

    もちだ・さとし

     1950年生まれ。秋田県立能代高校卒、75年山形大学理学部卒業、同年小森印刷機械(現小森コーポレーション)入社。98年常務取締役、2014年社長兼COO兼経営企画室長、19年6月から現職。秋田県出身、70歳。


    事業内容:印刷機械、印刷関連機器の製造販売

    本社所在地:東京都墨田区

    創業:1923年10月

    資本金:377億円

    従業員数:2363人(2020年3月末、連結)

    業績:(20年3月期、連結)

     売上高:776億円

     営業損失:34億円

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